第8章-1「節約魂、ギルドに呼び出される」


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ギルド本部、記録管理課。

俺たちは、呼び出された。

椅子は硬い。空気は柔らかい。壁に貼られた分類表だけが、妙に冷たい。


「思想摩耗率、限界値を超えました」


担当官は、巻物をめくりながら言った。

机の上には、俺たちの任務記録が積まれている。

裏紙、干し肉の包装紙、魔力痕跡の断片。全部だ。


「節約魂、摩耗型と分類されました。今後の任務は再編成されます」


俺は裏紙を握りしめた。

思想が分類された。魂が棚に入れられた。

いや、分類されるほど使い込んだってことか。悪くない。


「再編成って、どういうことですか?」


リュカが訊いた。

彼の声は落ち着いていたが、巻物の端を指でいじっている。

いつもの癖だ。緊張してるときほど、記録道具に触れる。


「深層ダンジョン“資源運用層”への派遣です。目的は、資源の記録と運用評価」


「討伐じゃなくて、記録……?」


マリナが眉をひそめる。

斧を背負ったまま椅子に座っているのが、妙に不安定に見えた。

彼女は“斬る”ことで思想を整えるタイプだ。記録は苦手。


「思想摩耗型の探索者は、記録者としての再定義が必要です。

節約とは、単なる消耗ではなく、運用の最適化と再配置を含みます」


担当官は、俺たちの記録を一枚ずつめくりながら言った。


「“思想:団子化完了”、“思想:塩味”、“思想:踊る”……。

これらは、記録としての精度に問題があります」


「いや、それは……現場の判断で……」


「理解しています。ですが、思想摩耗型の限界です。

今後は“運用型”としての再訓練を受けていただきます」


「訓練って、また座学ですか? 前回の“干し肉の歴史”講義、寝ましたよ俺」


「今回は“資源運用と探索者の職業性”です。干し肉は出ません」


「出ないんですか……」


マリナが残念そうに呟いた。

彼女は干し肉を“思想の保存形態”と呼んでいた。たぶん本気だ。


俺は、裏紙に書き込んだ。


「思想:摩耗限界」「節約魂:再定義要請」


ギルドの壁に貼られた“探索者分類表”が目に入る。

討伐型、支援型、記録型、回収型――

その下に、新しく追加された欄があった。


「節約型:摩耗型(旧分類)/運用型(新分類)」


俺たちは、旧式になった。

時代遅れ。

でも、分類表に“新しい欄”があるってことは、まだ進めるってことだ。


「……ケイさん」


リュカが小声で言う。


「節約って、摩耗するだけじゃないんですね。

使い方を記録することも、節約なんじゃないですか?」


「記録者って、使い方を残す人か……。それ、いいな」


「あと、団子は思想じゃなくて、ただの混線です。塩味も思想じゃないです」


「それは……俺も思ってた」


マリナが頷く。

「思想:踊る」は彼女の斧で粉砕された記録だ。たぶん、踊ってたのは魔物じゃなくて俺の判断力だ。


「ギルドとしては、節約型探索者の再定義を進めています。

摩耗型は過去の分類です。今後は“運用型”としての記録精度が評価対象になります」


「報酬は?」


「摩耗率ではなく、運用効率に応じて支給されます。思想分は廃止です」


「思想分、廃止……」


俺は裏紙に書き足した。


「報酬:思想分→運用分」「節約魂:再定義進行中」


「ケイさん、これからは“使い方”を記録するんですね」


リュカが巻物を握り直す。

マリナは斧を背負い直す。

セイは素材袋を閉じる。


俺は、裏紙を折り直す。


「節約は摩耗じゃない。運用だ。

俺たちは、使い方を記録する」


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