第14話 「知ってる転校生」
陽が照らす窓際の席につくとようやく落ち着いた。
まわりを見まわせば、クラスメイトが思い思いに過ごしている。地球が爆発してからはじめて会った同級生は、ちゃんと人型を保っていて安心する。
新学期みたいな気分でそわそわ視線を動かしていたら、種田ちゃんと目が合った。
種田ちゃんは手を振って、こっちへやってこようとする。でも、その前にチャイムが鳴った。キンコンカンコンキンコンカンコン。聞きなれたチャイムに、騒がしかったクラスが静かになる。湯気みたいに動き回っていたクラスメイトが着席する。
すぐに担任がやってきて、ホームルームがはじまった。
今日の授業の話――英語の担任は風邪なので自習だ――とか、注意事項――この間墜ちてきた宇宙船には近づかないように――とかがあって、
「今日は、よその星から転校してきた子を紹介したいと思う」
よその星て。
心の中でツッコんだけれど、我らがクラスメイトは大盛り上がり。よその星から転校してくるのは普通のことらしかった。
わたし基準だとおかしいんだけどね……この世界ではこれが普通。
先生が口を開くまで、わいわいがやがやは続いた。
「中に入って」
そう言えば、2人の生徒が入ってくる。一人目の、高校生らしからぬ胸をたゆんたゆんと揺らし、自信たっぷりに歩いてくる転校生を見て、わたしは倒れそうになった。いや、一瞬ホントに気を失ってたかも。もう1人の転校生のこと、ほとんど覚えてなかったし。
きびきびとした調子で教卓の前までやってきた、1人目の転校生はこう名乗りやがった。
「ワタシはピスティと言います。こちらのクラスにいる
転校生へと向けられるはずの視線が、流星群のごとくわたしへ降りそそいできた。
「なんでピスティがいるわけ」
わたしの疑問を代弁してくれたのは、種田ちゃんだった。その顔はいつになくしかめっ面で、トトトと自分の太ももを叩いている。幼なじみの迫力のせいか、近くにはわたしたち以外に誰もいなかった。
「一度学園生活というものをやってみたかったんですよ。百合と言えば、みたいなところがあります」
「百合の何を知ってるの……」
「軽音楽部に入るんですよね?」
「偏ってるし、そもそもうちには軽音楽部はない」
それどころか吹奏楽部さえなかった。合唱部ならあるんだけど。
残念です、とピスティが言った。アンドロイドの軽音楽に対する邪な考えは、エアギターとしてかき鳴らされていた。
「そもそも高校生じゃないでしょ」
「年齢は関係ありませんよ。それに、ぴちぴちのJKだと思いません?」
ピスティはそう言って、ランウェイ上のモデルみたいに一回転。悔しいけれど、確かに若く見える。
ただ、一点を除いて。
「あまり近づかないでくれる? おっぱいがうつるでしょ」
「いやむしろそれならうつってほしいというか――はい、なんでもありません、はい」
種田ちゃんに睨まれたので、わたしは前言撤回する。だって怖いんだもん。
逃げるように目をそらした先で、もう一人の転校生の姿を見つけた。名前は……たしか、キッカだったはず。
小さな子だ。もちろん、胸の話じゃなくて身長の話ね。
ただでさえ小さな体を縮めるように手を握り締めているキッカちゃんは、きょろきょろと助けを求めるように視線を右に左に動かしている。
その目がわたしと合う。
次の瞬間には、その目はどこかへと飛び去っていて、キッカちゃんもまた、どこかここではないどこかへと走り去っていってしまった。
「わたしの顔に何かついてる……?」
「ええ、目と耳と鼻と口が」
「そういうこと聞いてるんじゃないから」
ぺろっと舌を出したピスティを、軽くはたいた。
授業中は、別に変わったことはなかった。宇宙的テロリストが学校を占領するとか、ロボットが校舎へ墜ちてくる、ということもない。
まさに平和そのもの。
ピスティはずっとわたしのことを見てたくせして、三次方程式を解だけ答えてた。アンドロイドなんだなあって思う。
あんまり
そんなこんなで放課後。
わたしのまわりに、ピスティと種田ちゃんが集まってくる。別に号令の笛は吹いてないのに。
「さて愛しの我が家に帰りましょうか」
「ピスティの家じゃないけどね」
「たまにはさ、私の家に寄ってかない? お菓子とかゲームとかあるけど」
「わたし、近所のガキと思われてる?」
「じゃ、じゃあ、いろいろな星のお金とか金属とかっ」
「そこまで意地汚くもないけど」
この幼馴染はわたしのことを何だと思ってるんだ。
でも、あたふたしている種田ちゃんのことは好きである。この好きという感情が、種田ちゃんのものと一致してるのかはいまいち自信がないけれど。
見てると胸に温かいものがポッとこみあげてくる。
それに比べて――。
「何でしょうか、こいつには困ってる、みたいな顔して」
「その通り。わかってるみたいで安心した」
「そうでしょう。ワタシはさいちゃんのことならなんだってわかりますよ」
皮肉だったんだけど通じなかったらしい。
「とにかく帰るよ。こんなところで漫才してるわけにもいかないんだから――」
視線を感じた。じいっと見つめてくるその視線を追いかけると、キッカちゃんがいた。目と目が合えば、やっぱりそらされる。
うーん……よし。
わたしは、キッカちゃんへと声をかけることにした。近づいていこうとしたら、キッカちゃんのちっちゃい体が逃げていこうと回れ右する。
「待って」
ぴくりと走り出そうとしていたキッカちゃんが止まった。
「何か用なら全然聞くけど」
わたしの言葉に、キッカちゃんは何も言わない。局地的な地震でも食らってるみたいに、その体がプルプル震えている。
何をそんなにおびえてるんだろう? まさか、と思ってわたしは振り返ってみる。種田ちゃんはやれやれとばかりに首を振ってるし、ピスティはいつも通り笑っていた。
もしかして、わたし?
そう思ったけど、そんなはずはない。一般ピーポーよりも、アンドロイドとか賞金稼ぎの方が怖いに決まってるし。
キッカちゃんを向き直れば、彼女もこっちを見ていた。
宇宙の闇みたいに真っ黒な髪に覆われた瞳は、何を考えてるのかわからない。暗がりを歩いていたら、きっと幽霊だと間違われてしまいそうだ。
口がプルプル開いては閉じてを繰り返す。
生徒たちがこっちを見ながらも、教室から出ていく。見つめられるのは苦手なんだけどな。早く、何か言ってくれないだろうか……。
「あ、あのっ」
「うん」
「この街を案内してもらえませんか」
「案内――案内って、ここにはこれがあるよーって教えればいいの?」
コクリとキッカちゃんがうなづく。
町の案内ね……。
それくらいなら、お安い御用だ。なんで、おびえてたのかはわからないけど。
いいよ、とわたしが言えば、キッカちゃんの髪の毛がぴょんと上がった。
例えるなら、タコがやあと手を上げたみたいに。
「え――」
目をこする。今のは幻か。それとも――。
「行こう」
キッカちゃんが、だぶだぶの制服越しにわたしの腕をちょこんと触れてくる。そのぷにぷにの手は、見かけとは裏腹に冷えていてびっくりする。
戸惑いながら、わたしは頷いて、背後を振り返る。
後ろの二人はどうなんだろう。
種田ちゃんは委員長らしい外面を早くもかぶってるし、ピスティはグーサイン。
いいってことらしい。
「じゃ、行こうか。二人ついてくるけど」
その言葉に、キッカちゃんの頭が小さく揺れた。
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