【仲良くしてよ小出さん!アナザーver.】幼馴染の陽向葵はポジティブがすぎる
十色
第一章
第1話 ポジティブ女子とネガティブ男子
「あのさ、
「はあ!? な、ななな、なんでだよいきなり!?」
放課後の陽がカーテンを透かして部屋を淡く染める中、突然に葵が投げかけてきた質問に、俺はしどろもどろ。
「うーん、なんでって。憂くんってさ、正直、すごく性格が暗いじゃない?」
グサッと心に突き刺さる。どストレートにそんなこと言いますか……。傷付いた! 幼馴染に『暗い』と言われて傷付いた! まあ、間違ってはいないんだけど。
で、俺が焦った理由。
葵に恋をしてしまっているから。
「い、いいい、いない! いないから! 好きな人なんて! それに、暗いとか言うな! 俺が言われて傷付くワード第一位だってこと知ってるだろ!」
「うん、もちろん知ってるよ? 憂くんのことなら私に知らないことなんてないもん。なーんにも」
そう笑顔で言う葵だったが、お前は某小説に出てくる『なんでも知ってるお姉さん』かよと言いたい。葵に対する俺の気持ちも知らないくせに。
「そうですか、俺のことはなんでも知ってますかそうですか」
「うん、知ってる! 友達が一人もいなことも知ってる!」
「友達くらいいるわ! 一人だけだけど……」
いつからだろうか。俺が葵のことを好きになったのは。幼稚園の頃からずっと一緒だったから、よく分かっていない。『いつの間にか』と言えばいいのだろうか。
例えるなら、砂時計。少しずつ、少しずつ、砂がさらさらと落ちていくように、俺も恋に落ちていった。
でも、はっきりと自覚たのは『あれ』がキッカケだったというのは覚えている。
それに、葵は幼馴染だからというわけではなく、贔屓目に見てというわけでもなく、とても可愛い。艶やかな黒髪ロングが似合う、とても魅力に溢れた顔立ちをしている。それに、いつも笑顔を絶やさない。まるで、周りの皆んなを明るくする太陽のような女の子。それが
でも、俺は別にその容姿に惹かれて好きになったわけではない。俺は単に、『陽向葵』という一人の人間を好きになったんだ。葵の全てを。
「はあ……」
もう溜め息しか出ない。『好きな人いないの?』とか、普通にさらりと訊けるということは、完全に脈なしということだろうし。もし、俺に好意を抱いていたら、その気持に気付かれないよう、そんな質問はしてこないはずだ。
「ダメだよ憂くん。溜め息なんかついてたら幸せが逃げちゃうよ?」
「幸せ? そんなのとっくに荷物をまとめてどこかに行っちゃったよ」
「あははっ! 確かに! うんうん、なんか分かるなあ」
「笑わないでくれよ。って、分かるってなんだよ! 親しき仲にも礼儀ありって言うじゃんか! これ以上、俺を傷付けないで! 泣くぞ! 泣いちゃうぞ!」
「あははっ! ごめんねー。でも大丈夫! 憂くんの幸せは私の所にお引っ越ししてきてくれてるから。だから安心して」
「何が『だから』なのか『安心して』なのかサッパリ分からないんですけど……」
「で、どうなの? 本当は好きな人いたりするんじゃないの?」
と、葵はニマニマしながら再度質問。なんで今日に限ってここまで追求してくるのさ……。
とにかく、今はまずこの話題を変えないと。これ以上突っ込まれて訊かれたりしたらマズい。バレたりして、フラれてしまったら、俺は再起不能になる自信がある。
「そ、それよりもさ、葵。今日返却されたテストの結果はどうだったんだ?」
「えへへー。結構良かったよー」
そう言って、葵は通学用カバンの中から、折り畳まれた一枚の用紙を取り出して俺に向けて広げて見せてきた。そして俺は我が目を疑った。
「じゅ、十八点!? 赤点どころの問題じゃないだろこれ!」
逆に知りたい。どうやったらこんな点数を取れるのかどうか。
が、しかし。葵は「ふっふっふ」と、余裕綽々といった感じで不敵な笑みを浮かべるのであった。なんで? なんで笑っていられるんだ?
「これを見たまえ憂くん」
胸を張りながら、葵はテスト用紙をくるりと逆さまにして見せてきた。どういうこと?
「ほら! こうして逆にすると、なんと! 八十一点になるのですよ!」
あ、なるほど。『18』というアラビア数字を逆さまにすると、確かに『81』になる。うん、この点数なら優秀だ。って、違う! 違うから!
「逆さまにして八十一点にしても意味ないから! 赤点である事実は全く変わらないから! 十八点のままだから!」
ここまでのやり取りで、なんとなくお気付きだろう。
そう。陽向葵は『超』が付く程のポジティブ人間なのである。
逆に俺――
が、葵はいきなりの土下座。そして俺にお願いしてきたのである。
「ど、どど、どうしたのいきなり!?」
「お願いです憂くん様! 私に勉強を教えてください! このままだと大学に行けないどころか留年してしまいます!」
あ、一応それは理解してるんだ。
「ま、まあ、それは構わないけど……」
「ありがとう憂くん! いやー、持つべきものは幼馴染だね。それじゃ、これから毎日よろしくお願いします!」
「分かった分かった。これから毎に――え? ま、毎日?」
「うん! 休みの日とかは泊まり込みでも構いからね!」
「と、とま……」
そのまま、しばし呆然した俺であった。
* * *
「――と、いうことなんだ」
「待って! ちょっと待って! いきなり『と、いうことなんだ』って何!? 膝を抱えて小さくなりながらずっと落ち込んでブツブツ言ってるから心配してたのに!」
「ごめん。完全に自分の世界に入り込んでた。頼むよ園川……」
「一体全体、何を頼まれたのかサッパリ分からないよ! お願いだからちゃんと説明して! というか、僕の存在、完全に忘れてなかった!?」
「……………………」
「なんで無言なのさ!」
そう叫んだこの男の名前は
彼とは二年生になった時にクラス替えで一緒になり、それからよく話すようになった。一方的すぎるかもしれないが、俺は園川を親友だと思っている。だから相談したいとお願いして、さっき俺の家まで来てもらったというわけだ。
「頼む、園川! 俺の恋愛相談に乗ってくれ! いや、乗ってください園川様!」
「う、うん。相談に乗るのは大丈夫なんだけど。どうして僕なの?」
「だって、園川は彼女いるじゃん」
「ま、まあそうだけど。でも、まだお付き合いして一年も経ってないし。そもそも僕も恋愛経験豊富なわけじゃないんだけど……え!? か、陰地くん!? なんで落ち込んでるの!? なんかすっごい黒いモヤモヤが見えるんだけど」
俺はどんより。そりゃモヤモヤも見えるはずだよ。
「……いいですね、リア充さんは。本当は、自分がいかに恵まれているのかにも気付かないなんて。一年足らずでも恋人がいることに代わりはないのに。傷付いた! 恋人がいない俺の気持ちを理解していない友達の言葉に傷付いた!」
「いや、そういうわけじゃ……ご、ごめんね」
「というかさ。小出さんにも一緒に相談に乗ってほしかったから呼んでもらったはずなんだけど、どこ?」
「あ、ああ、ごめんね。小出さん、陰地くんの家の前までは一緒に来てくれたんだけど……」
――園川から話を聞くに、こんなことがあったらしい。
* * *
「そ、園川くん。あ、あの、本当に行かなきゃダメなの……?」
僕の隣を一緒に歩いてるのは、同じクラスの
小出さんはいつもおどおど、あたふた、キョロキョロ。だけど、好きなことになると一直線。そして、今は僕の恋人でもある。そんな女の子だ。
「う、うん。ごめんね小出さん。陰地くんがどうしても小出さんと一緒に来てほしいって。そう頼まれちゃって。大丈夫? すごく緊張してるみたいだけど?」
「そうなの。ちょ、ちょっと怖くて……」
付け加えると、小出さんはすごく人見知りで、僕以外の人とは基本喋らない。と言うよりも喋れなくなっちゃうんだ。
失礼を承知で一言で言うなら、いわゆる『コミュ症』ってやつ。だから陰地くんの家に行くのが怖いみたい。
「うーん、どうしようか。やっぱりやめておこうか? 僕一人で行ってくるよ」
でも、小出さんはぶんぶんと勢いよく、首を横に振った。
「私、頑張る。だって、園川くんの大切なお友達だもん。断っちゃったら失礼だし。それに、私も少しずつでも変わっていかないと」
小出さん、変わったなあ。昔だったら絶対に断ってきてたはずなのに。
いや、変わったというよりも、変わろうとしているんだ。頑張ってるんだ。それは小出さん自身のためでもあるし、きっと、僕のためでもある。
そういう女の子なんだ。
「ありがとうね小出さん」
「う、ううん。大丈夫」
「あ。ここみたいだよ? 陰地くんの家――て、だ、大丈夫!? 小出さん!?」
小出さん、冷や汗だらだら。こ、これはやめておいた方が……。気持ちは嬉しい。すっごく嬉しい。だけど、あまり無理をしてはほしくないんだけど。
いいんだよ、少しずつで。無理して変わろうとしても、自分が辛いだけになっちゃうから。それは僕が一番分かってる。
それに、小出さんが辛いと、僕も辛い――って。
「こ、小出さん!!?」
やめておこうと提案しようと思ってたら、小出さんは自分自身でインターホンのボタンを押してしまったのである。
で、結果的に。
「や、やっぱり無理ーー!!」
ぴゅーっと、小出さんは全力疾走で逃げ出してしまったのだった。
「ま、待って小出さん! それ、ただのピンポンダッシュだから!!」
* * *
――ということだったらしい。
「ま、また、どうしたの陰地くん!?」
「いや、小出さんが俺のことを怖がって逃げちゃったんだなって思うと、ショックで……」
「違うから! 小出さんはいつもそんな感じだから! だから気にしないで!」
「そ、そうなのか。そういえば小出さんってコミュ症だもんな」
「あ、あのー、陰地くん? それ、小出さんの前でそれは言わないであげてね。彼女、その言葉が一番傷付くみたいだから」
「……分かった。ごめん。もう言わない。いや、葵と同じ女子目線からの意見を聞きたかっただけなんだ。だから悪気はないんだ。でも、もういっそのこと、俺、家に引き篭もろうかな……」
「な、何故にしてそこまで落ち込むかな。大丈夫だよ。その分、僕がちゃんと相談に乗るからさ。だからそんなに自分を卑下しないであげてよ。でも、さっきも言ったけど、僕も本当にそこまで恋愛経験豊富なわけじゃないからさ。どこまでお役に立てるのか分からないけど」
ふるふると、俺は首を横に振る。そして立ち上がり、園川の目をしっかりと、そして真っ直ぐに見た。
「いいんだ。俺、あまり友達がいないし。けど、園川はこんな俺に対しても優しくしてくれて本当に感謝してる。だから、相談に乗ってほしかったんだ。俺はお前のことを心から信頼してるし、親友になりたいとまで思ってる。だからこそなんだ」
「陰地くん……僕に対してそこまで」
「それに」
「うん。それに?」
俺は彼の肩にガシッっと両手を置いて、力強く気持ちを伝えた。
「園川って、俺と同じ豆腐メンタルじゃん?」
「豆腐メンタルとか言わないでよ! 真面目な顔のまま言われると余計に傷付くし! 返して! さっき感じた僕の感動を返して!!」
――そして結局、園川は帰っていってしまった。別に相談に乗ってくれなかったわけではない。結構長い間、俺の話を真面目に聞いてくれていた。
だけど、俺があまりにじめじめしてたからこう思ったりしたんだろう。
コイツ、面倒くせーー!! と。
「もーう! 勉強のためとはいえ、明日から毎日葵の部屋で二人きりとか、どうするんだよ俺!!」
『第1話 ポジティブ女子とネガティブ男子』
終わり
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