裏切りの婚約者22
ついでに、と近くでお茶をしたり。
ついでに、と道の駅に寄ったり呑気にしていたのだが。
帰り道、渋滞にかかってしまった。
暑い中の渋滞は
だが、人間よりも車の方が堪えたようだった。
渋滞は抜けたものの、山道で車が止まってしまった。
「やった、止まったぞっ」
と慶紀が言う。
……やったはおかしいです。
何故か、慶紀は車が止まって、ちょっと喜んでいる。
「外車は壊れやすいっていうけど、ベンツもなんですね」
「日本の風土に合わないんじゃないか?」
どうでもいいですが、何故、半笑いなのですか……。
「近くで修理に出して」
「そうですね」
「宿をとろうか」
何故ですか、と思ったとき、慶紀の電話が鳴った。
「お母さん、なんの用ですか?
えっ?」
慶紀の父、
……南極から?
いきなり帰ってこれるものなのかと思ったが、単に、愛が夫のスケジュールをまったく把握していなかっただけらしい。
まあ、そんな感じの人だ。
良くも悪くも。
「綾都を紹介しておけって。
ああ……そうですね。
結婚式にも呼びますもんね」
父親ですからね……。
「そうですね、わかりました」
電話を切って、振り返った慶紀が言う。
「大変だ。
夜までに帰らないといけなくなった」
「帰りましょう」
お父様にご挨拶をしておかねばなるまい。
どのくらい日本にいらっしゃるのかよくわからないし。
「しかし、ここは山の中。
車もあまり通らない。
困ったな。
押すかっ」
「そうですね」
「お前は乗ってろ」
「私も押しますっ」
とやっているうちに、耕史郎本人から電話があった。
「いや、別に急がなくていいが。
なんでお前たちは車を押している。
助けを呼べ」
「……そうでした」
と慶紀が言う。
「なんか電話も通じない、絶海の孤島とか、周囲から隔絶された山の中にいる気持ちだったので」
「何故、そんな気持ちになった」
「橋が落ちたからですかね……?」
「え? 橋?
ありましたっけ? そんなの」
と櫂からの電話の内容と慶紀の妄想を知らない綾都は山と田んぼしかない周囲を見回した。
「手土産になにか買って行こうと思うんですが」
「別に気を使わなくてもいいんだぞ」
「百貨店に寄る時間ありますか?」
「大丈夫だろう。
絶海の山間部からは救われたから」
と慶紀はいろいろ混ざってしまったような、不思議なことを言う。
結局、車はディーラーに預かってもらい、いろいろ手配してもらって、かわりの車で、街まで戻ってきていた。
かわりの車もベンツなのだが……。
「道の駅で買ったものならあるんですけどね」
と言いながら、デパ地下で手土産を眺める。
「みなさん、どんな物がお好きなんですか?」
とか言いながら歩いているうちに、お菓子のコーナーを通り過ぎ、お惣菜のところまで行ってしまった。
デパ地下らしく、カラフルで華やかなお惣菜が並んでいる。
綾都が足を止めて眺めていると、
「どうした?
なんか酒のツマミになりそうなものでも買ってくか?」
と慶紀が訊いてくる。
「あ、すみません。
今、『お盆トラブル用』ってあったから、すごいなと思って見てたら、『お盆オードブル用』でした」
「お盆トラブル用ってなんだ……」
綾都は小首を傾げて言う。
「食べると、トラブルが解決するんですかね?
美味しすぎて、とか」
「……じゃあ、買ってくか」
いや、別にお盆の集まりじゃないんですけど、と綾都は思ったが、確かにトラブルが待ち受けていた。
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