ループする元騎士団長、今世はペン一本で大魔法使いになりました。
アオにネムレね
第1話 この葬式は、私にとって初めてだ。#1-1
夢だった。馴染んだ感覚だった。だが、馴染むことは決してなかった。
何度目の死か、もはや数えることすらやめて久しい。
それは、唐突でありながら、精密に仕組まれた罠だった。
罵声の一つすら吐く余裕もなく、ただ走った。走れる限り、息が切れるまで。
我が騎士団の諜報が間違っていたとは思えない。
王女殿下の避難先を、なぜ敵が突き止めたのか。内通者がいるのか?
最短で王女殿下の元へと向かうため、庭の塀を越え、裏手の扉を開いた。
——剣が。
入ってきた。私の背を横切り、肋骨の間を抜け、正確に肺を目がけて。
息を吸う暇さえなかった。
あまりに正確すぎて、一瞬は痛みも感じなかった。
だが、それはほんの刹那。
苦痛はすぐに、奇襲のように、波のように押し寄せた。
身体が地面に叩きつけられる感覚。
息を吸うことに失敗した。
血が肺を満たしていく。
叫び声は出なかった。というより、出す隙すらなかった。
喉は塞がれ、舌は乾き、眼球は裏返った。
見事な一撃だった。それだけは理解できた。私は騎士団長だったのだから。
……ここは戦場ではない。王宮だった。
冷たい肺の奥から、熱いものが喉を焼いて口元を濡らした。
手のひらが血で濡れている理由もわからない。
私は、落ちた剣を拾わなければならなかった。
動かない。
それでも動け。動くんだ、スノハ・レパード・アイスタリオン。
お前が背負ったその名の重さは、この程度で潰れるものではない。
必死で身体を反転させ、反撃しようとしたはずだった。
——自分の剣が、自分の背を貫くまでは。
全身が凍りついたように、感覚が消えた。
心臓がまだ動いているのか、それとも魔力の流れが止まったのか、判断もつかなかった。
膝が崩れ、息が漏れた。
暗闇に包まれた視界から、色彩が少しずつ失われていく。
——ここまでか。
王女殿下。私が立つべき場所。守るべき人。
間に合ったのか、それとも……
思考が何度も途切れた。
まとまらない。
頭の中で未完のままだった作戦が、血と共に流れ出ていく。
なぜ敵は構造を知っていた? 誰が扉を? 私はどうして最後まで気づけなかった?
視界が歪んだ。砕けた天井。
割れたガラス窓。落ちるカーテン。黒い手形。赤い衣の裾。……笑い声?
誰が笑った?
耳で聞いたのか、頭の中で響いたのかすらわからない。
私は立っていたのか? 倒れていたのか? 這っていたのか?
いや、思い出せない。記憶はもう、去っていた。
残っていたのは、ただ、感覚だけだった。
背に刺さった剣に手を当てた。血が流れていた。
身体が滑り落ちた。
私は——
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