番外編2『ジュリアンの視点:聞こえた不協和音』

 私の耳には、常に世界の「音」が聞こえていた。

 それはダヴェンポート家に稀に生まれるという特殊な体質。

 世界の魔力が奏でる調律を、音楽のように感じ取る力だ。

 平時の世界は、穏やかで荘厳な交響曲のように響いている。

 だが、リリアという少女が王都に現れてから、その調律は狂い始めた。

 美しい交響曲の中に、キーキーと耳を裂くような不快な不協和音が混じり始めたのだ。

 それは日に日に大きくなり、やがて他の全ての音をかき消すほどの雑音となった。


 周囲の人間は、誰もその雑音に気づかなかった。

 彼らはリリアを聖女と崇め、その不協和音を「神々しい歌声」だと信じて疑わなかった。

 私だけが正体不明の騒音に、一人で眉をひそめていた。

 孤独だった。

 誰もが幸福そうな顔で狂っていく中で、一人だけその狂気の音を聞き続けるのは、地獄に等しい拷問だった。

 父も母も私の言葉に耳を貸さず、「お前は考えすぎだ」とリリアへの信仰を深めていった。


 だから、辺境の地に追放されたという、あの悪役令嬢に会いに行こうと決めた。

 彼女はリリアによって最も激しく排斥された存在。

 もしこの世界に、私と同じ「音」を聞ける者がいるとすれば、彼女しかいない。

 そうしてたどり着いた古い館でエリアーナ・ヴァロワと対面した時、私は確信した。

 彼女の魂は、不協和音に汚染されていなかった。

 むしろ、その雑音に対して凛とした静けさで抵抗しているような、美しい音色を奏でていた。

 彼女が館での恐怖を語る。私が王都の異常を語る。

 バラバラだった二つの事象が、一つの真実へと繋がっていく。

 その瞬間、私の世界を覆っていた耳障りな雑音が少しだけ遠のいた気がした。

 初めて出会えたのだ。

 同じ「音」を聞き、同じ方向を向いてくれる、唯一の存在に。

 彼女を守り、共に戦うこと。

 それは、この狂った世界から自分自身を救うための、唯一の方法でもあったのだ。

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