第18話 料理人、魔石の使い道を知る

「それで次はどこに向かってるんだ?」

『オイラも気になってたぞ?』


 俺はそのままゼルフに脇に抱えられたまま、どこかに連れて行かれていた。

 成人男性を抱えて走れるゼルフは、かなりの力持ちなんだろう。


「次は冒険者ギルドだな」

「2つも会員登録するのか?」

「いや、魔石を売るためだ」


 魔石って言ったらホーンフィッシュの時に出てきた石のことだろう。

 その後も魔物が出てきた時は、ゼルフが狩り魔石だけ渡されたから、カバンには入っている。


「そんなに売れるのか……」

「魔石はエネルギーになるからな」


 こんな石をどこで使うんだろうと思っていたが、魔導具を使うためのエネルギーになるらしい。

 魔導具を使うための――。


「なぁ、ゼルフってキッチンカーを見た時に魔導具って聞いてきたよな?」

「あぁ、あれはどこからどう見ても魔導具だからな」


 この世界では日本円がルピに変わっていた。

 ってことは魔石がガソリンになる可能性もあるかもしれない。


「いくつか魔石を残しておいてもいいか? キッチンカーが動く――」

「はぁん!?」

『クゥエ!?』


 突然、ゼルフが立ち止まるため、その勢いで俺は腕から放り出されてしまった。


「痛っ……」

「おい、それは本当なのか!」

『また旅ができるのか!?』


 さっきまで商業ギルドにいた人たちに追われていたのに、今度はゼルフと白玉がゼロ距離で詰め寄ってくる。

 一緒に旅したのが、そんなに楽しかったのだろう。


「キッチンカーが魔導具ならね……」


 正直試してみないとわからないだろう。

 魔石をどうやってエネルギーにするのかも、俺は知らないからね。


「おっ、さっきの兄ちゃんたち、こんなところでどうしたんだ?」

「また美味しいもので作ってくれるのか?」


 そんな俺たちに声をかけてくる人がいた。


「あっ、先ほどはありがとうございます」


 そこには肉巻きおにぎりを買ってくれた冒険者がいた。

 仕事を終えて帰ってきたのだろう。

 気づいた頃には周囲は暗くなっていた。


「魔石を売りに来たんですが……」


 俺は鞄の底から橙色の光を宿した魔石を取り出す。

 夕暮れの光が反射しているのもあり、初めて手にした時よりも輝きを強く感じる。


「おいおい……」

「高ランク魔石かよ……」


 冒険者たちはその場で唖然としていた。

 俺はゼルフと白玉を見ると、胸を張って堂々としていた。


「あの凶暴なクマってよほどすごいやつなんだな」


 橙色の魔石はネフィル山を下っている時に出会ったクマだ。

 クマも食べれないかとゼルフと白玉が勢いよくキッチンカーを飛び出た時は驚いた。

 クマって出会ったら、死を覚悟するぐらいの認識だったからな。

 餌付けするのも考えものだな……ってその時は思った。

 ただ、ガソリンの問題もあったし、道具もないことに気づいたから、魔石だけ取って放置したんだっけな。


「ギルドマスター! 凄腕――」

「静かにしてもらおうか」


 ゼルフはすぐに冒険者の口元を塞いだ。

 何か問題があるのだろうか。


「俺が直接ギルドマスターと交渉をしてくるから、ハルトは白玉と待っててくれ」


 そう言って、ゼルフは魔石を持って剣が描かれた看板が目印の冒険者ギルドに入っていく。

 俺が付いていっても邪魔になるだろうし、魔石の売却はゼルフに任せることにした。

 それにしてもこの世界ってほとんどが絵で表現されているからわかりやすい。

 文字がわからない俺でもパッと見でわかる。

 商業ギルドは貨幣、冒険者ギルドは剣、途中で見たが飲食店はフォークとナイフだったし、きっとベッドは宿屋だろう。


「あいつ相当の実力者だな」

「俺にも見えなかった」


 いつも俺だけがゼルフの姿を目で追えないかと思ったが、冒険者もゼルフを追えてないようだ。

 俺が褒められているわけでもないが、なぜか嬉しい気持ちになった。

 ゼルフが交渉している間、俺は冒険者ギルドの中を探検することにした。


「どことなくバーに似てるな」

『バーってなんだ?』


 商業ギルドは役所のような雰囲気に近いが、冒険者ギルドは大きなバーとクラブの間って言ったところだろう。

 まぁ、俺もクラブはそこまで行ったことないから、イメージだけどな。


「お酒を提供するところだな」


 大きなカウンターと酒がいくつも置いてあるから、そう思ったってのもある。


『オイラは飲めるのか?』


 俺は首を横に振る。さすがにコールダックがお酒を飲む姿は想像できない。

 それに何かの病気になりそうな気がする。


「なぁ、兄ちゃんはこれからあそこで飯屋をやってるのか?」

「いや……今後はどうなるか……」


 俺は魔導具の調子が悪いことを冒険者に伝えた。

 もう食べられないのかと、絶望的な表情をしていたが、そこまで肉巻きおにぎりは美味しかったようだ。

 尚更、この町で食べる料理がどんなものなのか楽しみになってきた。


「それなら冒険者ギルドで酒のつまみでも作ってくれると嬉しい――」

「それはないから大丈夫だ!」


 冒険者の声を遮るようにゼルフが帰ってきた。

 手にはやけに膨らんでいる袋を持っている。


「ハルトは冒険者ギルドに渡さないからな」


 そう言って、俺の腕を掴むと外に引っ張っていく。

 相変わらず食への独占欲が強い。


『ここで作っていたらオイラたちの分がなくなるぞ!』


 白玉も負けじとくちばしで俺を押してくるが、結構硬いから正直痛い。


「わかった! 俺はお前たちのご飯係だからな!」


 そう言うと、ゼルフが少しだけ口元を緩め、白玉は嬉しそうに羽をばたつかせた。

 母親ってこんな気持ちなんだろう。

 食いしん坊の家族がいると、思ったよりも大変のようだ。

 まぁ、それも悪くない。

 そのまま引っ張られるように俺たちは冒険者ギルドを後にした。

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