転 無敵の盾兵

 怖いものは怖いです……!


 わたし達は翌日からも快進撃を続けました。

 わたしはただ歩いて進むだけ。

 魔物が襲ってきて、加護に守られて。

 魔物は頭を射ち抜かれる。


「うえ……」


 吐きそうになります。慣れません。毎回。


「なんだよ。無敵だろ? 神様の加護」

「それでも怖いものは怖いんですっ!」

「わ、悪かったよ……」


 既に息絶えた血だらけの魔物が、私の加護の球体からずり落ちる様を見て、思いました。

 これ、わたしの能力的に適任だけど。わたしの心がこの役割ロールに向いてない、と。

 分かってます。自分で選んだ道なんですから。怖くとも。






†††






 大陸北部、通称魔界には人間の町や国はありません。

 ですが、先達の勇者達が100年掛けて作った簡易な拠点がいくつかあって、基本的にはそれらを中継しながら北上していくのが一般的な冒険ルートになっています。


「男女コンビ? たったふたりのパーティ? なんだそりゃ!」


 とある中継拠点にて。引退した勇者が拠点の防衛や現役勇者向けにお店をやっていたりします。そのひとつの酒場にお邪魔してます。


「ああ。詳しくは企業秘密だがな」

「いや、こんな華奢で清潔な女の子が勇者できるとは思えねえが……。こんな拠点まで来てる時点でおかしいからな。何かカラクリがあるんだろ。詮索はしねえよ」


 行く先々で、驚かれます。まさかわたしが盾兵タンクだなんてと。


「……あんた、大丈夫か?」

「大丈夫に見えますかっ?」

「お、怒るなよ。適材適所だと思うんだって。あんたマジで無敵の盾兵タンクなんだぜ」

「う……」


 彼が居ないと、わたしは意味の無い『無敵』。わたしが居ないと、彼は冒険者として活動できない。

 魔物が、必死にヨダレを撒き散らしながら襲ってきて。矢で貫かれて死んでいく。

 手を伸ばせば触れられる距離で、わたしは無傷で安全。

 立っているだけ。歩いているだけ。

 気が変になりそうです。

 けど……。

 これはわたしの選んだ道だから。今更逃げません。

 もの凄く逃げたいけど……。


「まあ、良いんだけどよ。あんたが盾兵タンクとして、俺の相棒として機能してくれりゃそれで」

「……はい。頑張ります」


 頑張ろうが頑張るまいが、わたしは常に無敵。頑張るのは、わたしの心。

 だって怖いんですもん。わたしを見るや血相変えて襲い掛かって来るんですもん。






†††







「女……? いや、神力を感じるな。魔王様の仰っていた『聖女』とかいうやつか? 聖女が何故こんな所に。アレは人間の要であり、人間の国に居るのでは」

「ハッハッハ! 知らねえしどうでも良いだろ! 久々の女だ! しかも聖女なら、喰えばどれだけ魔力が上がるか!」

「ふん。そうだな」


 魔族とは、服を着た魔物。言葉を扱う、知性ある魔物のこと。自然現象を操り、火や風を起こして武器とする、魔法を使う地獄の使者。完全に人類の敵である、人類とは別系統の知的生命体。

 魔族と出会したということは、ベテラン勇者達の居る、本当の最前線も近い。


「早いもの勝ちだあ!」

「いやああっ!」


 万が一を危惧しましたが、『守護の加護』は問題なく発動しました。

 スマートな魔族と、巨漢の魔族。ふたりを相手に、わたしひとり。

 巨漢の魔族の、風を切る拳は加護によって完全に止まり、その威力はそのままお相手の拳に跳ね返り。

 巨漢の魔族の右拳は破裂しました。


「ぐああっ! なんだこれは!? 壁!?」

「…………『神』とやらの、『加護』だな。やはり聖女。『守護の聖女』か」

「クソがっ! クソ女! 俺様の全力でぶち抜いてやる!」

「俺も手を貸そう。周囲には他に勇者は居ない。全身全霊だ」

「うおおおおおお!!」


 絶対に。わたしじゃ勝てない。指先がカスっただけで即死するような、本当に強い魔族が、ふたり。

 ふたりして。


「……きゃあっ!」


 そのわたしに、手も足も出ない。魔族の感知できない超遠距離から、必殺の鏃が音も無く飛んできて。

 服の装飾から見るに、相当高位だったであろう魔族ふたりが、いとも簡単に射殺されました。


「ぐあっ……! 居たのか。他に狙撃手……っ!」

「クソが……! てめえ、なんだその表情……! 無敵のくせにっ……!」

「うう……。ごめんなさい」


 わたしの目の前で。






†††






「壊滅……?」

「ああ」


 さらに北へ進んだ拠点にて。人間界から離れれば離れるほど、拠点は小さく簡素になります。


「ここから先は上位魔族が出てくるエリアなんだが、俺達勇者の本当の最前線はもっと先なんだ。魔族程度には負けないベテラン勇者達が揃ってる。だが……壊滅したらしい。いくつもパーティが潰された。拠点もだ」

「どうして……?」


 もう随分北上した……とはいえ、大陸北端の地獄の穴まではまだまだあります。


「この前あった戦いで生き残った勇者が言うには、『魔王』だと」

「は? 魔王? こんな、最北端からすればまだまだ序盤のエリアにか?」


 魔王。本来なら最北端、地獄の穴を守る為に存在する、最強の魔族。地獄の守護者。勇者の最終討伐目標。


「それしか考えられんのよ。というかあの強さで魔王じゃなかったら、もう人類は勝てんぜ」

「…………!」


 魔王が。

 この先に居る……!?


「そういう訳で、気を付けろよ」






†††






 とは言え。わたし達は進むしかないんですよね。怖い。本っ当に怖いけど。


「なるほどな。あんたと同じだよ。聖女さん」

「へっ?」

「奴らの中じゃ、魔王が一番強いんだ。なら、一番強い奴が前線に出て暴れるのが一番効率が良いし被害も防げるだろ」

「あー……。確かに」

「魔王とか、最強の前衛だよな。最初から実戦投入すべきだと判断したんだ」

「魔界にもギルドマスターさんみたいな人が居たりして」

「だな。問題は俺の矢が通用するかって点だ。まあ、生き物なら殺せる筈だ。あんたはいつも通り適当に歩いててくれ」

「はい……」


 ほんの少しだけ、慣れてきた所に。

 魔王討伐です。

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