#042 ペットに首輪をつけるのはルールであり拒否権はない
「続いて紹介するのはコチラのガチムチの冒険者奴隷です。体力もさることながら調教次第では……。……」
やってきたのはVIP客限定の奴隷オークション。世界樹内なのでいくらかスケールダウンするそうだが、それはともかく希少価値を有する奴隷を競りの形で売価を吊り上げる。
「さぁ、40が出ました。50! もうひと声、60!!」
俺の専門は不良在庫扱いになっている曲者であり、(多少財力はついてきたが)こういうのはもっと金持ち、豪商や貴族向けとなる。ではなぜ今回参加したかと言えば……。
「どうだい、クランを大きくするなら、ああいった奴隷も欲しくなるだろう?」
「そうですね、それはそうなのですが…………正直にいうと彼らは扱いに困る気がしています」
同じくVIP席に座るのは、パルトドン商会のエリアマネージャーにして世界樹の裏のドン、麻婆だ。オルトロス討伐作戦は結局失敗に終わったものの、特にお咎めは無し。今思えばサポートにあたった冒険者も最低限であり、失敗するまでがシナリオだったのだろう。
「なるほど、能力的には悪くないと思うけど…………理由は?」
「その、感覚的なものになるのですが…………目が気に入らないというか、下手に価値がある分、奴隷としての自覚が足りていない。そのせいでトラブルになる気がして」
話はそれたが俺の行動自体は成功であり、面会ついでにオークションに誘われたわけだ。
「アハハ、そうなんだよね~。もちろん優秀なのをアピールして少しでも高く売り込まないとダメなのはあるけど、それはそれとして破産したクセにってのはあるよね」
「そう、ですね」
麻婆の印象は、悪人というよりは『器のデカい人物』だろうか。じっさい見ている世界が違うのはそうだが、やはり善悪とは違う観点を持っており、総合的に世界樹を良くする方法を考えている。一見すると子供っぽく感情的で、それでいて妙に冷酷な部分もある感じだが、それは趣味嗜好であって私利私欲はあまり感じない。この例えがあっているかは分からないがパズルゲーム感覚なのだろう。
「いや~、カズマ君とは気が合いそうだ」
「そうですか」
「それでだ! 僕から使用人をプレゼントしようと思うんだけど…………よければこの中から1人、選んでくれないかい?」
「それは……」
麻婆が指を鳴らすと、待ってましたとばかりに3人のメイドが部屋に入る。あとどうでもいい話だが、髪の色が緑・赤・青で完全に某育成ゲームの御三家だ。
「もちろん、嫌なら断ってもいいけど」
「いえ、1人くらいなら有難く」
とりあえず素早さと第二特性を確認したいところだが…………それはさて置きコレはどう考えても首輪。本音をいえば断りたいところだが、こういうイベントを断るとゲームは進まなくなる。それに首輪だと分かっているのなら使い方次第でカバーできるだろうし、俺としても権力者に繋がるホットラインはあると助かる。
「そうかい。それじゃあ紹介していこう。まずは……。……」
①、リーフィア(戦△・給〇・商×):給仕が得意で交渉事は苦手。3人の中では比較的体も大きく補助的に戦闘もこなせる。純粋な使用人タイプで普通に考えたらこの子が1番だろう。
②、フレア(戦〇・給×・商△):不器用な戦闘タイプで、人当たりが良く社交性も高い。冒険者としての活動を重視するならこの子なのだろうが、ニーアとポジションが被るので気乗りしない。
③、アクア(戦×・給△・商〇):商人タイプで、若く小柄なのもあって最低限の給仕は出来るが戦闘面は期待できない。商人枠は一番足りていない人材なのだが、首輪として頭がキレるのは悩ましいところだ。
「そうですね、それじゃあ…………アクアを貰っていいですか?」
「ほう、やはり君は若くてペッタンコが好みなんだね」
アクアを選んだ理由は純粋な実利だ。この国は日本ほど教育機関が発展しておらず、知識量は目に見えないものの重要で稀少な価値となる。逆にいえば戦闘タイプのフレアは代用がきくので無し。同じ理由でリーフィアも外したが、いちおう使用人で戦闘にも連れていける。おまけに(胸も)大きいってのは奴隷でいえばかなり高価になるので正直悩んだ。
「改めましてアクアです。カズマ様、どうぞよろしくお願いいたします」
「あぁ、その…………頼む」
リスクはあるが、ここで変に拒んで美人局や諜報員に監視されるより、分かりやすい人物を受け入れて事務的にやり取りしたほうがかえってラクまである。今まで上手く回避してきたが、麻婆の立場からすると首輪は何かしらの形で繋げておかなければならないはず。つまり回避しきれるものではないのだ。
「うんうん、僕としても助かるよ。色々と」
「「…………」」
「それでもう1つあるんだけど、なにか分かるかい?」
「オルトロスですか?」
「正解! じつは前の戦いって正式なものじゃなかったんだけど、今度は正式に討伐してもらうよ」
「そうですか、分かりました」
「それじゃあ詳細が決まったらギルドから連絡があると思うけど、よろしくね」
「はい。なんなら……」
「ん?」
「アクアからでもいいですよ」
「あはは~」
はぐらかす麻婆。それはともかく俺としてもオルトロス戦は心残りがあったので願ったりだ。
こうして俺は麻婆と面会し、首輪であり使用人のアクアを仲間に加えた。
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