#028 粗野でも振り切っていれば魅力だ
「ところでアイズさん、この世界樹で、1番偉い人って誰ですか?」
「そうっスね~。やっぱり冒険者ギルドのギルドマスターじゃないっスか?」
今日は第五階層の酒場でアイズさんに会っていた。
「じゃあ、そのギルドマスターをどうにかできる人物は?」
「ん~、そうっスね~。……まず、一番の実力者(冒険者)のビーストとバラライカの2人。この2人に居なくなられると第六階層の収集依頼がかなり滞るっス」
その名前はよく聞く。現地人であり、この国でも五指に入る実力者。たしかにこの2人が離れるとなれば、ギルドマスターまで責任が追及されるかもしれない。
「鍛冶とか、他のギルドはどうですか?」
「そっちは、まぁ発言権はそれなりっスけど、いうてダンジョン内っスからね」
それもそうだ。魔法使いギルドなんて支店すら置いていない。複数登録している実力者も多いので、そもそも波風立てたくないだろう。
「それじゃあ…………歓楽街は?」
「そうっスね。まぁ最初から分かっていたっスけど…………歓楽街を仕切っているのがパルトドン商会で、そこのマネージャーにしてパルトドン家の嫡男、マーボー・レ・パルトドン様が、たぶん世界樹で一番偉いっスね」
呆れ顔で答えるアイズさん。聞いておいてなんだが、このことは俺も調べていた。というか歓楽街で遊ぶものの常識。その辛くて美味しそうな名前の貴族のボンボンに逆らえば、つぎの日には冷たい体で発見される。
ちなみに貴族はダンジョンに関われないわけだが、ソイツは親がまだ当主であり、本人の継承が確定していない。なによりエリアマネージャーとして内外の物流を監督しているだけ。ようするにグレーゾーンだ。
「アイズさんは、商会の依頼とか、受けないんですか?」
「それは…………もう、有料ラインなんっスけど」
「俺、こう見えて下のギルド職員から可愛がられていて、そういう情報、けっこう入ってくるんですよね」
アイズさんは本職なのでクチは堅いが、ギルド職員は所詮OLなので口が軽い。そして俺は下のギルドを利用しており、ようはその人たちの"成果"に貢献しているのだ。
「アハハ、じゃあ、なんで聞いたんっスか?」
「べつに、商会を懲らしめてやろうとか、そういうのはないんですよ。むしろ、上手くやっていきたい。単純にかかわらないってのが簡単確実なんでしょうけど…………そのうちボス討伐やらで招集がかかって、その時に繋がりがないせいでトラブルに巻き込まれても困るじゃないですか」
これは事実であり本心だ。酒や女に溺れる趣味はないので、出来ることなら関わらずにやり過ごしたい。しかし勇者としての務めもあって、完全に縁を切るのは不可能。そのあたりBBAがいい例だ。大して活躍していないくせに文句ばかり。これが商会に協力していれば容疑者になることはなかっただろう。
「なるほど、そういうことなら…………あまり期待しないでほしいんっスけど、話はしておくっス」
「助かります。それでですけど……」
「??」
「いやね、拠点にサウナを作ったんですよ!」
「はい??」
アイズさんは優秀な斥候であり
「今、サウナって言ったかい!?」
「「!?」」
とつぜん割り込んできたのは赤毛褐色の女戦士。ガントレットやグリーブで手足こそ守っているが、胸元や腹部のガードは甘いビキニアーマー系スタイルだ。
「マウナ、今、仕事の話をしてたんっスけど?」
「あぁ、勇者・カズマです。マウナさん、お初に……」
マウナの名前は何となく聞き覚えがある。協調性がなく、その日暮らしでこの生活を続ける絵に描いたような『粗野な冒険者』で、そのせいもあって無所属。狙ってはいなかったが、もしかしたらクランに誘えるかもしれない。
「あぁ~、そういうの無し無し。背筋が痒くなるんだ。勇者だろうが、次言ったらブッ飛ばすよ!」
「じゃあ、マウナでいいかな?」
「ん~、もうすこし砕けてもいいんだけど、こんなもんか? それよりだ! 今、サウナって言ったよな!!」
サウナはこの世界にも存在している。ただしこの国では知名度が低く、知らないか、名前くらいなら聞いたことがある程度だ。
「あぁ、ウチの拠点に作ったんです…………作ったんだ。よかったら使うか?」
たしか種族はダークエルフやサラマンダーあたりの混血らしいのだが、詳細は本人さえも知らないらしい。しかしなんだかノリがニーアを思わせる。本来、この手のタイプは苦手なのだが、ここまで振り切っていれば逆に付き合いやすい。
「お~ぃ、とりあえずエール! あと適当に肉! ……えっと、なんだっけ?」
「サウナだ」
「そう、サウナだ! 名前が似てるし、気になっていたんだよ。今から行っていいか??」
「今、エールを注文しただろ」
「ハッ! ついくせで」
「アハハ、なんかすでに意気投合してるっスね」
「いや、コイツが扱いやすいだけですよ」
「「アハハハハ~」」
マウナさんまでつられて笑う。獣人の血は入っていないようだが、そこから群れなどの思想を抜いた感じなのだろう。
「カズマさん」
「はい?」
「マウナは例のところの依頼も受けているので、付き添うのもいいかもっス」
「そうですか、たすかります」
こうして俺は、念願のサウナ利用者をゲットした。あとついでに、権力者に繋がる足掛かりも手にした。
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