#015 そりゃあ死ぬさ。冒険者なんて続けていれば

「なぁ、ボス~。これ、人の骨じゃねぇか?」

「あぁ、そうみたいだな」


 場所は16階の洞窟エリア。第二階層の巡回クエストをこなす中で死体ソレを発見した。


「"タグ"はいきているっぽいな。装備は……」

「オレが見るぞ!」

「任せた」


 タグとは冒険者タグのこと。まぁ身分証明書だ。ダンジョン内で死ぬと、魔物ほどではないが死体も結構な速さでダンジョンに吸収される。死体はすでに白骨化が進んでいるものの、この感じだと死後3日くらいだろう。いちおうタグにかんしては吸収されにくい処理がなされているのでもう少し形を保ってくれる。


 巡回クエストは魔物の分布調査のみならず、こういった死亡者やその遺留品の回収も業務内容に含まれる。死体を見つけたのはこれが3回目で、最初は驚いたが腐る前に吸収される関係で、慣れれば(ふだん魔物を解体しているのもあって)案外平気になる。


「ん~、そんなに新しくないようだが……」

「装備はまだ使えそうだぞ? はぎ取るか??」

「あぁ、武器だけにしておこう。骨と防具は放置で」

「へ~ぃ」


 ニーアはスラム育ちで俺よりも死体慣れしている。遺留品の回収はタグが優先で、頭蓋骨などもあるといいのだが、そのあたりは努力目標程度。捜索クエストでも出ていない限りは放置でいい。


 ちなみに当たり前の話だが冒険者は死ぬ。だいたい3人のうち1人は引退前に死に、1人は怪我などで途中挫折して実家に泣きつくか奴隷落ち。真っ当に引退できるのは1人で、それだけでもう勝ち組扱い。この理論には勇者も含まれているらしく、国も帰還する前に20人前後は死ぬか再起不能になる前提で考えているようだ。ある意味気楽ではあるが、まぁそこは流石、奴隷が合法の国ってところだ。


「よし、いったん体を洗うぞ」

「えぇ~、べつによくねぇか? このくらい」

「いいから来い」


 魔法で水を出し、服を着たまま体を洗う。この世界の魔法は"幻想"であり、それは死んだ魔物と同じようにすぐに拡散してしまう。しかしながら拡散するまでは確かに水であり(水分補給には使えないが)洗い物などには重宝する。というか、乾燥が早いので本物の水より便利だ。俺は魔法で水でも火でも出せるが、そのあたりの魔道具は冒険の必需品として多くの冒険者が携帯している。


「ぎゃはは、今度はこっちだ!!」

「ちょま、おま、やめろ!?」


 装備を解除しなくてもいいとはいえ、やはり2人いるとなにかと便利だ。高確率でニーアが悪ふざけしてくる事を除けば。





「はい、たしかに。世界樹(の冒険者ギルド)所属の冒険者ですね」


 ギルドに回収したタグや装備を納める。ちなみに俺は外に出られないので知らないが、この世界樹に入るにはそれなりの審査が必要になるそうだ。国が監督する勇者召喚の儀式をしているのもそうだが、冒険者ってのは特定の国や権力者に内通している可能性もあり…………ゲームみたいに気分で好きなところで狩りをするってのは出来ない仕様になっている。


「それ、けっこう古いタグですよね?」

「そうですね、引退してもいい年齢の方でした」

「ちょっと、きな臭くないですか?」


 考えすぎかもしれないが『ベテラン冒険者が第二階層で死ぬ』ってのは不自然だ。もちろん『才能がなく万年低ランクで低迷しており、加齢でさらに能力が低下して遂に』とか、『上の階層で怪我をして、仕方なく難易度を下げていたが、そこで油断して』など、無くは無い話でもある。


「それはそうなんですけど、ひとまず不審な点はないですね。しかし……」

「??」

「最近、死亡者数が増えているみたいで。カズマさんも、気を付けてくださいね」

「……はい」


 クエストは指名とフリーの2種類あるが、それ以外にも簡易報告で済む"自由探索"がある。これはダンジョン内で訓練をするなどが対象なのだが、ギルドを介さない"闇クエスト"に利用されることも多い。闇と聞くと非合法にも思えるが、いちおう合法。活動実績に加算されないだけで、冒険者は個人的に護衛やアイテムの採取・売買をおこなってもいい。いいのだが…………ギルドに活動記録が残らないのもあって犯罪に巻き込まれる可能性が増加する。


「そうだ。もし気になるなら、良い機会ですし警備団の方を紹介しましょうか?」

「あぁ~、そうですね。ちょっと考えさせてください」


 警備団はその名の通りキャンプ地や世界樹の出入り、およびキャンプ地の警備を担当している、ようは警察だ。ダンジョン内は国家権力の干渉を禁止しているものの、警備に関しては例外措置として外部組織(冒険者ではない)が委託という形で担当している。そのあたりの仕事は冒険者向きではないのもあるが…………そこは建前で、やはり間接的にでも国の監視を受け入れておかないと角が立つって事情がある。




 そんなこんなで俺は、キナ臭い空気を感じつつも、ひとまず順調に活動を続けていた。

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