第3話

「明日は、いよいよ十五歳の誕生日ね!」


登校のために家を出たセツリを、家の角でクララが待ち構えていた。朝の空気はまだ冷たく、白い息がふたりの間に淡く揺れる。


セツリは眠たげに目をこすりながら、ぼそりと返す。


「おはよう、クララ。……挨拶も忘れてどうするんだよ。興奮してるのは、むしろ君の方だろ?」


言われたクララはハッとし、頬をうっすら桜色に染めて俯いた。


「……だ、だって。私だけがギフトの話をしてもつまんないじゃない。セツリと一緒に話したかったんだもん。」


爪先をすり合わせながら小さくもじもじするその仕草が、どうにも愛おしい。セツリは胸の奥がじんわり温まるのを感じながら、そっと彼女の肩に手を置いた。


「ありがとう、クララ。それじゃあ、手筈どおりに。」


「うん。セツリも、家の人に見つからないようにね。」


ふたりは声をひそめて歩き出した。まだ人通りの少ない通学路。鳥の声と靴音だけが静かに響く。


それでもセツリは、誰かに聞かれてしまうのではと気が気でない。ちらちらと周囲を伺う姿に、クララは苦笑して言った。


「大丈夫よ。この時間に私たちの話を気にする人なんていないわ。」


そう言いながら、ふと横顔を覗き込むようにして問いかける。


「でもさ……家族より先に、ギフトを教えてもらっていいの?」


セツリは視線を逸らし、少し照れたように肩をすくめる。


「僕がいいって言ってるんだから、いいんだよ。」


そのまま、覗き込んでくるクララから逃げるように歩き出した。


「ちょっ、ちょっと待ってよ〜! セツリ!」


小走りで追いかけながら、クララは自分の頬が自然とゆるんでいることに気づかない。

その日の学園で、友人に「ねぇ、クララ。今日は何かいいことあった?」と聞かれ、真っ赤になって否定するまでは――。



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