第7話 孤児狩り
水汲みの当番でオアシスに行ったきり寺院に戻ってこないマナワット。
孤児狩りの噂を聞き、もしものことがあったらと不安になりながら必死で彼女を探していたニルヴァは、オアシスから少し離れた路地の陰に巨大な水瓶が放置されているのを発見した。
「こ、これ……マナワットが使ってる水瓶だ……!」
水瓶は横倒しになっており、中の水が流れたのか、路地の地面が広い範囲で濡れていた。
瓶が倒されて水がこぼれてからそこまで時間は経っていないようだ。
しかしその場にあったのは水瓶だけで、マナワット本人の姿を見つけることはできなかった。
「マナワット……!」
ニルヴァは更に不安になり、水瓶を発見した路地の先へと進んでいく。
大通りに面している寺院からオアシスまでは、人通りが多くて開放的な広い道が続いているが、一歩路地に入れば人気のない複雑に入り組んだ薄暗い細道になる。
ニルヴァたちは、院長先生から『通りから外れた路地を一人で歩かないように』と教えられているので、マナワットが水瓶を放置して一人でこんなところに入っていくのは普通ではありえなかった。
「はあ、はあ……マナワット、どこにいるんだっ……?」
ひとつひとつ突き当りを確認しながら路地の奥へと進み、懸命にマナワットを探すニルヴァ。
すると、昔の廃屋が放置されているエリアで聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。
「放して……っ」
「へっへっへ、せっかく手に入れた商品を手放すもんか。今仲間が奴隷商人を呼びに行った。嬢ちゃんはそこで金貨と引き換えさ」
「(この声は、マナワットだ……!)」
マナワットの声が聞こえた廃屋に近づき、物陰に隠れながら中の様子を確認するニルヴァ。
するとそこには、両手足を縛られて壁際に横たわるマナワットと、そんなマナワットをニヤニヤしながら見張る男がいた。
「(あの男が、孤児狩り……!)」
男はボロボロに汚れた服を着て、まともな仕事をして稼いでいないことが一目でわかるような見た目をしていた。
痩せているのに腹だけはボコリと膨れ、膝から下はゾウの足のように平べったく腫れている。
「(あれは多分、蜜血病の症状だ……)」
蜜血病は、食べた物を身体の中でエネルギーに変えられなくなる病気だ。
血や尿の中にエネルギーになりかけの成分があふれ出し、蜜のように甘くなるという。
病気が進行すれば、あの男のように足が腫れて壊死を起こし、内臓が毒を溜め込んで膨れ上がる。
あの状態になってしまっては、よほど強い治癒魔法でないと効果が薄く、まともに働くことも難しいだろう。
非合法な手段で稼いだなけなしの金で酒を買い、酔っ払って痛みを誤魔化し、この路地裏で死を待つだけの運命を辿っているのかもしれない。
「ひひひ……赤髪の女の子供は金持ちに高く売れる。久々に美味い酒が飲めるぜ……」
「お前なんて、魔法を使えば……っ」
「残念だったなあ……回路阻害の香を焚いてあるから、ここじゃあ魔法は使えないぜ」
「(回路阻害の香だって……!?)」
回路阻害の香とは、魔石を使用して作った『魔道具』の一種で、魔法を使うための魔力回路を一定時間阻害して魔法が発動できない状態にするアイテムだ。
同じ場所にいる以上、使った側も魔法が使えなくなるが、素の状態なら男の方がマナワットより力が強いから問題ないのだろう。
「さてと、仲間が奴隷商人を連れて戻ってくるまでは少し時間がかかるだろうし……売り渡す前に、一発楽しんでおくか」
「……っ!!」
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