輪廻の解術師~魔法が使えない孤児少年、最強の解術使いとして覚醒する~
ふぃる汰
第1話 魔法が使えない少年
「火よ、おこれ……!」
…………。
「ダメだ……何回やっても、上手くいかない」
料理をするためのカマドの前で、赤い結晶を握りしめて溜め息をつく少年が一人。
魔法を使って薪に火をつけようとしたのだが、うまくいかなかったようだ。
「みんなは魔法を使えるのに、どうしてぼくは上手くいかないんだろう……」
ここは砂漠と岩とオアシスが広がる灼熱の国、アルビアク王国。
昔から魔法が発達してきたこの国では、多くの国民が日常的に魔法を使い、便利な暮らしを送っている。
そんな人たちの中でも、魔法が使えない体質の者が生まれることがある。
きっと、彼もその一人なのだろう。
「も、もう一度……火よ、おこれ~……!」
…………。
「だ、ダメだぁ~……」
少年の名前はニルヴァ。
物心ついたときから両親はおらず、孤児として寺院で暮らしている。
今日はニルヴァの料理当番の日で、いつもは火打ち石を使って火をおこすか、魔法が使える他の人に火をつけてもらっている。
しかし、ニルヴァは魔法を使えるようになることを諦めてはいないので、たまにこうやって練習をして……不発に終わる。
「やっぱり、ぼくには『魔力回路』が無いのかな……」
魔法を使うには、魔力が蓄えられている『魔石』を使い、体内の『魔力回路』から魔力を取り込んで発動する必要がある。
しかし、ニルヴァが持っている赤の魔石は一滴も魔力が減っていないように見えた。
「体の中に魔力を取り込めてたら、魔石の色がもっと薄くなっていくもんね……」
魔石には色々な性質のものがあり、それぞれ赤色、青色、黄色のように色が付いている。
魔石を使って魔法を発動すると、魔石の中の魔力が減って色が薄くなっていき、蓄えられている魔力が無くなると『無の魔石』と呼ばれる無色透明の結晶になる。
ニルヴァは今、2回ほど魔法の発動を試したが……残念ながら魔石から魔力を取り出すことができなかったようで、まったくもって色が落ちていない。
「あ~腹減った~……って、まだ全然できてねえじゃん!」
「何やってんだよニルヴァ~!」
「ご、ごめんなさい……」
寺院で暮らす孤児たちが、お腹を空かせて調理場の様子を見にきてしまう。
しかし、そこには料理どころか、火もついていないカマドの前で魔石を握りしめて落ち込むニルヴァがいるだけだった。
「魔法使えないんだから、さっさと火打ち石でやっとけよも~!」
「あっ……」
様子を見にきた子供の一人が、ニルヴァから赤の魔石を奪い取る。
そのまま左手で魔石を握り、右手をカマドの中の薪にかざして魔法を発動した。
「火よおこれっ」
シュボッ……パチパチ。
「ほら、腹減ってんだから早くしてくれよな」
「う、うん……ありがとう」
魔法で火をつけてくれた子供が、赤の魔石をニルヴァに返す。
ニルヴァが魔石を確認すると、それは確かに色が薄くなって少し透けていた。
魔石に蓄えられている魔力が使われた証拠だ。
「料理できるの遅くなりそうだし、もうちょっと遊んでよーぜ」
「火つけてやったんだから、俺のぶん大盛りにしろよ!」
「わ、わかった……」
「じゃあな“色なし”!」
そう言って、子供たちは料理を手伝うこともなく調理場を出ていった。
「色なし、かぁ……」
『色なし』というのは、ニルヴァのあだ名である。
黒髪・黒目・褐色肌という外見の人が多いアルビアク人の中で、ニルヴァの外見は銀髪・薄水色の瞳・雪のような白い肌……この国では少し浮いていた。
更にニルヴァが魔法を使えないという事もあり、魔力を使いきった無の魔石のような無色透明の存在という意味も込め、子供たちはニルヴァが何か失敗をした時などに悪口として『色なし』と呼ぶことがあった。
「いつか、魔法が使えるようになったら色なしって呼ばれなくなるのかな……って、そんなことより料理を作らないと」
さっきみたいな事はよくあるので、今さら色なしと呼ばれたところであまり落ち込むことは無いが、それでもいつか魔法を使えるようになって皆を見返したいと、強く思うニルヴァであった。
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