第一話 適応者

「痛い!やめて!」

なんどもなんども僕は叫んでいた。

だけど、みんな笑いながら僕を痛めつけてくる。

もう限界だ。

なんでこんな目にあうのかわからない。

もう限界だ。

このコンクリートの牢獄から早く抜け出したい。

あと3年なんて‥持つわけがない

もう‥限界だ。


気がつくと僕は屋上にいた。

目の前には悠然たる山々が見える。

あぁ、ここから向こうへ歩けば僕は自由になれる!

僕は躊躇うことなく、フェンスを乗り越え、何もない場所へ足を踏み出す。

視界が逆転し、地面が近づいてくる。

はは、走馬灯なんて流れないや。

でも、思い出したくないことばかりだからありがたい。

ただ、おばぁちゃんの唐揚げはもう一度食べたかったなぁ‥


ぷぉん


なんだろう、プヨプヨして、なんだか暖かいや。

ここは天国かな‥?

僕はそっと眼を開ける。

僕の眼にはいつもの、あのドロドロした校舎がうつった。

嘘だろ?

死んだ後もここにいなきゃならないの⁉︎

僕はひどく落ち込み、癇癪を起こしそうになる。


「おぬし、おぬし!」

急になにかの声が聞こえる。誰か呼んでいるのか?

これはもしかして、僕のことかな。

「だ、誰かいるんですか?」

「下、下にいるでごじゃる!」

「し、下‥?」

僕は下をみる。

「う、うわ!」

プヨプヨした何かが僕に押しつぶされている。

「ご、ごめんなさい!」

僕は慌てて変なものから降りる。

「い、いいでごじゃるよ。おぬしが死んでしまうよりかはね。」

「助けられたってことか‥。」

「そう、それがしは命の恩人。さぁ、わしの願いを聞いてもらおうかのう!」

いきなり、な、なんなんだ、こいつは。しゃべり方も変だし‥これは夢なのか‥?

「さぁ、心して聞くが良い!わしの願いはおぬしの身体にわしを入れてもらうことじゃ!」

「‥はぁ、嫌だね。そもそも僕は死にたかったんだ。なんで、まだ生きなきゃいけないんだよ!」

「嘘じゃろ‥こ、断られた⁉︎それに、し、死にたいじゃと‥!?」

これまでの適応者の反応とはまるで違う少年に「それ」は戸惑う

「こんな希望もないただ辛いだけの世界に、もう存在したくないんだ!それとも、お前を身体にいれれば幸せにでもなれるの⁉︎」

「それ」はニヤリと笑った

「その言葉を待っていたぞよ!わしを受け入れればお主の願いはなんでも叶えることができるぞよ!」

「なんでも‥?例えば、僕をいじめる奴らを止めることも?」

「そんなことは当たり前にできるぞい!わしは全知全能だからのぉ!」

「よし、わかった。受け入れてやる。ただ、主導権は僕だ。僕の言う通りにすることが条件だ!」

「わかった、よかろう(この適応者、なんて上から目線なんだ‥まぁよい、入ってしまえばこっちのもん)」

「契約成立!って、どうしたらいいんだ?」

「何もせんでよい。そのままじゃ」

「それ」は丸い液体になり、少年の鼻の穴から入り込む。

「い、痛い!」

一瞬、痛みが走ったがすぐに収まる。なんだか、身体があったかい。

『適応完了!』

頭の中で声がする

『よし、探索じゃ』

血が全身に波打つ感じがした

『ほお、お主。なかなか中身は健康な身体じゃな。居心地がよい。次は骨格じゃ』

また全身を虫が走る感じがする

『なんと!こんなに骨にヒビが入っとるとわ!よう、歩けてるのぉ。』

「それは‥病院にも行けないから‥」

『ふむ、よし、まずはお主に奇跡を見せよう!』

手が勝手に動きだし、僕の足やら手をさすっている。

自分の手なのになんだか、あったかくて気持ちがいい‥

『よし、終わったぞ。歩いてみてみぃ。』

僕は恐る恐る歩く。

「嘘⁉︎全然痛くない⁉︎」

『フォッフォッフォ!これぞ、奇跡!安心してわしに身体を委ねよ!』

『それから‥』

ポンっと銀色の物体が現れた

『話しづらいじゃろうから、お主にしか見えないワシを出しておいた。そのうち、お主の好きな形に変わるじゃろう」

「‥そうなんだ。まぁ、とりあえず、明日1日、僕がいつも何をされているか観てから判断して。それでも、生かしたほうがいいのかってね。」

『ふむ‥よかろう。そういえば聞いておらんだったわ。お主の名前は?』

「彩田 誠(さいだ まこと)」

『彩田誠‥ふむ、誠よ、これからよろしく頼むぞ』

こうして僕と変な生き物との生活が始まった。

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