第6話 ハーピィ

「逃げた方がいい」

「え、いやあの…」

前回あなたの部下に心意気が~とか話聞いたばかりなんですが…。

「逃げた方がいい」

ふぅ…ちょっと落ち着こう。

「海王さん、私はもう逃げるつもりはありません。それにこれは魔族を守るための戦いでもあります。この件はどうにかしてみせます」

「そうか、であればもう言うことはない。死ぬなよ」

そう言って念話を終える。

あの人頭に雷の槍刺さったって聞いてたんだけど…。

不死身かな?


「さて…」

正直に言えばもう手はない。

王への手紙は何度も出しているけど返事はなし、人を使って勇者を懐柔する手も前回のやらかしで潰えた。

後は本人と直接話をしてどうにかするしかない。

とはいえもう少し時間が欲しい。


「魔王様」

そう言ってハーピィが入ってくる。四天王のハルさんだ。

「ハルさん」

「勇者が山に入り我々の巣の近くを通過しようとしています。それで、」

「いや、戦わなくていい。ハルさんの仲間たちまで何かあったら大変だから。あの常識外勇者のことだから仲間が怖がっているでしょう」

「いえ、戦争の準備と言わんばかりに血気盛ん過ぎて私でも止められない状況に…」

「なんでやねん」

「直接突撃をしてハーピィ爆弾になることも辞さないそうです」

信仰心高すぎて怖いよ。

「やめて、あの勇者だからどうにかなるとも思えないけど少なくとも誰かを殺すような意思はないから」

「何とかやってみますが仲間がどう言うか…」

「そうだな…じゃあ、私がやってほしいのは足止め、山の天気を操作して悪天候にしてほしいと魔王が直々に言っていたと伝えて」

「天気ですか…」

「おそらく天気を操作する手段は向こうも持っているはず、みんなで操作すれば打ち勝てるでしょう。私がそれを望んでいると。何なら念話で指揮を取るから」

「いえそこまでは…ですがわかりました。その言葉を伝えれば何とか納得するでしょう」

そう言って退出する。

ハーピィどうなってんだ、そんな種族だったか。



「ハルさん!準備はできていますぜ!いつでも突撃できます!」

「体に炎をまとって突撃するのはどうでしょう!?ファイアーバードチャージと名付けました!」

いつからこんな野蛮な種族になったのだろうか、私のせいだろうか…。

「これから魔王様直々のお言葉を告げる!足止めに徹せ!山の天気を操作してやつらを立ち往生させるのだ!」

「えぇ~!?宿敵がここまで来ているんですよ!?」

「やつらの強さは異常だ!魔王様の考えを深く読むんだ!」

「そうですか~…魔王様が言うならしょうがないか」

よかった、わかってくれたようだ。安堵しつつ勇者のいる方向へ目を向ける。



「ここトレーニング場所として使えるな」

「すごいな戦士は、魔力も酸素も薄いから僕はもう二度と来たくない」

そんなことを言いつつ山をずっと上って越えて行く。

その時天気が崩れだす。

「お、これは」

「天気が…魔力薄いからあんまり疲れさせないでほしいんだけど」

そう言って杖を取り出して魔法を唱え始める。

「あれ?出力弱くしすぎたかな、変わらない。もう一度」

魔力を込める



ハーピィ側では

「なんだこの…!押し負けるぞ!気合い入れて悪天候にしろ!」

「やつらほんとに人間ですか!?くぅ~もう我慢ならない!」

1匹飛び出してそれが連鎖するように総突撃を開始する。

「おいバカやめ…!くそっ!」

ハルも飛び出す。



「ハーピィの群れだ!やつらが天候の邪魔をしていたみたいだな」

「すごいな、燃えてる、焼き鳥だ」

「僕、ねぎま串好きなんだよね」

「俺は鳥より牛肉の方がいいな」

のんきに魔法使いと戦士が会話をしている。

「僕がやるよ」

そう言って無数の雷の槍を出現させる魔法使い。

合図とともにハーピィたちへ飛ばしていく。

「おー、面白いように当たる」

バチバチといってどんどん落ちていく。

「魔法使いさんこれはやりすぎでは…」

僧侶の問いにニコッと笑う魔法使い。


「くっお前たち…」

そう言って最後にハルが飛び込んでくる。

「君が長か、ダメじゃないか、こんな無謀なことをさせて」

「責任はとる、勝負しろ!」

そう言って風の力で剣を作る。

振った瞬間その風に相手が引き寄せられるため不可避の一撃となる一撃必殺の剣だ。

しばらくの沈黙後。


「わかった、俺が出る」

そう言って戦士が前に出る。

「行くぞ!」

剣を振り戦士に当たる。

「ふん!」

キンッ!と音がして果物ナイフで切れた程度の血が胴から出た。

「う、鉄でも切れる剣を…どんな体だ…」


「戦士が相手だとちょっとずるいだろ。魔法使い、お前がこの惨状を生み出したんだから行くんだ」

「僕?わかった、確かにそうだね。どこからでもかかってきな」

魔法使いが前に出る。

「お前がこの惨状を…行くぞ!」

そして怒りとともに魔法使いに切りつける。

しかし当たらず…というより当たる直前剣がぐにゃりと曲がり当てることができなかった。

「魔法操作は得意なんだ、風の力をちょっといじっただけ」

「な…ど…えぇ…?」

「麻痺」

「ぐあ!」

そう魔法使いが唱えるとハルの体が動かなくなる。


「落ち着くんだ、大丈夫、ちゃんと死なない程度に手加減してあるよ」

「なに…ほんとか!?…いやほぼひん死なんだが…」

見回してみるとギリギリの状態のものがほとんどだった。

「あれ?ごめん、ちょっとやりすぎたかも…」

「な…えぇ…」

立ち去る勇者一行。

呆然となり麻痺の効果が消えるまでその場にいるしかなかったハルであった。

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