第二章
第3話 “宇宙人ごっこ“
家に帰って、風呂場で半分湯船に沈みながら、大和のことを思い返していた。僕は小四のときに、父親の転勤で、横浜から山梨に引っ越してきた。大和とはそのときにクラスは一緒だったはずだ。
クラスの端っこで、何を考えてるかわからない、目立たないやつ。そんな印象しかない。
僕はというと、何かとうまくやれる性格のおかげでで、すぐにクラスに馴染むことができた。友達もすぐにできて、一緒に遊ぶようになった。
一度、何気なく友達に大和のことを聞いてみたことがある。
「なあ、田中大和って、どんなやつなの?」
すると、友達はまるで虫を追い払うような顔つきになって言った。
「あいつ、嘘ばっかりつくんだよな。だから、みんなに相手にされてないんだ。」
——なるほど、そういうやつか。
そんなことを聞いたせいもあってか、なんとなくこちらから積極的に関わろうともしなかったし、大和もこちらに絡んでくることはなかった。小中学校と数回、必要最小限の交流をしただけだ。そもそも気にもとめていなかった。
そんな大和が、あんなにキラキラした顔で、僕に話しかけてくるなんて、思いもよらなかった。そして、自分のことを“宇宙人”だって告白してくるなんて…
そんなことを考えていたら、いつの間にか一時間も湯船に浸かっていたらしい。完全にのぼせてしまった。茹でられたタコのようになってしまっている。まるで僕が火星人にでもなったみたいじゃないか。
——気にすることはない。ただの冗談だ。明日になれば、同じ日常があらわれる。
そう、結論づけた。
家族に心配されながら風呂から上がった。数学の難問を一問だけ解いてから、いつものとおり、眠りについた。
僕はクロスバイクに乗って、苗が青々と伸び出した田んぼの中の農道を走っていた。いつもと同じ、高校への通学だ。甲府盆地を取り囲む山々の稜線は薄く霞がかかっている。緑色になり始めた稲、水田に映る青い空のコントラストが心地よい。
山梨県立甲府中央高校は、山梨県中央市にある高校だ。山梨県内では一番の進学校で、僕がいる進学クラスは東大、京大をはじとした国公立大、医学部や、難関私大を多く輩出している。とはいえ部活動にも力を入れていて、特に陸上部は県内でも上位のほうだ。
農道を走り、山梨大学医学部のキャンパスの脇を通り抜けて、
「おはよう、イプコム星人」
ちょうど常永駅の近くのカーブを曲がったところで、後ろから少し落とした声で、声をかけられた。
振り返ると、チェーンの錆びたママチャリに乗った大和だった。中学のときに買わされた丸いヘルメットをかぶり、僕の自転車に並走してきた。
「おう、おはよ」
僕は、イプコム星人のことはスルーして、いつも通りの笑顔になって声を返した。それから、しばらく校門まで並んで自転車を走らせた。
「右膝、大丈夫そうだね。よかった。」
自転車に乗っているとはいえ、右膝の違和感はない。走ってみないとわからないけど。
「おう、そうだな。……地球人と違って回復が早いんだよ。」
大和の顔が再び輝いた。
「そうだよね。イプコム星人は身体能力抜群だよな。匂いとか地味な能力のタルサス星人としては羨ましい限り」
「ははは…」
僕は乾いた笑いで、自転車を走らせた。
でも、なんだか、変な感じだった。悪い気はしなかった。
大和の冗談なのか、本当なのかわからないその感じが、僕の少し乾燥した心に、ふっと違う風が吹き込んだ気がした。
「——今度、タルサス星のこと教えてくれよ」
目の前の宇宙人は、にこりと笑って頷いた。
そのときから——
僕らの奇妙な“宇宙人ごっこ“は始まった。
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