05.リサ・ラグナウッド
「――反乱軍」
クラヴィスの麗しい瞳がリサを見つめた。青年の指が引き金にかかる。
「僕のバックにある勢力です。
淡々と抑揚のない声だった。
「そんな……じゃあ、今までの爆破は……」
リサの一言に青年が不思議そうに首を傾げた。ゆっくりと探るような視線をはわせる。
「ええ、いい囮になってくれたみたいですね……こうして、あなたを追い詰めることが出来たのだから」
クラヴィスは嗜虐的な笑みで微笑むと、リサの上に跨るように腰を落とした。
彼の冷たい碧眼がリサを見下ろす。
リサはたまらず視線をそらした。
「ああ、そんなしらばっくれても無駄ですよ。リサ・ラグナウッド……」
クラヴィスの顔から笑顔が消えた。
青年は言葉をかみ砕くかのようにゆったりと、一言一言を強調しながら言葉を紡ぐ。
「
ゆったりとしたクラヴィスの口調に哀愁がにじむ。
「――あの
リサが再び彼を見上げれば、青年の瞳がどこか遠くを見つめるように視線を遠くに向けた。
「……誇り高く生きた僕の
クラヴィスの声に震えが混ざる。
「
◇
リサの脳裏に、1つの記憶が蘇る。
――
業火を纏い煤煙をまき散らす小さな母屋と、その場に崩れ落ちる一人の男性。
溢れる涙を流しながら膝をつく中年男性。そして、その隣で震える12歳の
中年男性の胸を濡らす鮮血を少年が布で必死に抑えていた。
リサの口から出る白い息が宙を舞い――それが合図であったかのように男性が叫んだ。
『逃げろ』
同時に男性がリサの視界を覆い、反射でリサは引き金を引いた。
銃声。白い雪の上に鮮血が舞う。
男性は絞り出す最後の力で少年を庇い、リサの前に立ちふさがった。
恐怖に歪められた男性の顔を、リサは今でも覚えてる。
そして――短い脚を必死に動かし、小さくなっていく少年の背中も。
◇
「思い出しましたか? リサ・ラグナウッド」
クラヴィスの冷たい声が、リサを現実に引き戻した。
碧眼がすぐ近くでリサの瞳を覗いていた。
「
冷たい殺気が、クラヴィスの瞳に宿る。
「あの人の訃報が一体何人の仲間を絶望に追いやったか」
クラヴィスの指が、ゆっくりと引き金を引き始める。風がスミレの香りを運びリサを刺激する。
「――彼は僕の恩師でした」
クラヴィスはゆっくりと言葉を紡いだ。
「僕に技術を与え、
クラヴィスが一瞬空を仰いだ。亡き人に何か懺悔をするようなそんな間だった。
「家族のいない僕にとって唯一と言っていい……父のような存在でした」
クラヴィスの碧眼が再びリサを見つめた。咎めるような視線ではない。ただ、何かを確かめる瞳だった。
「――彼の名を覚えていますか?」
クラヴィスの一言にリサはゆっくりと目を閉じた。
自身の罪を、その許しを請うかのように、リサは静かに言葉を落とした。
「ノア・
その名前をリサは何度も頭の中で反芻した。
ノアの罪と、彼が残した小さな「光」を。
再び目を開けば、月明かりが悲痛に歪んだクラヴィスの顔を闇の中で照らしていた。
「なんだ、分かってるじゃないですか。それなら遠慮はいらないですね」
何かを確信したような瞳だった。たまらずリサは目を閉じた。
遠くで聞こえる泣き声が今もリサの胸を締め付ける。
何度も手を伸ばそうとした。
けれど触れようと手を伸ばすたびに、その姿は泥のように崩れ落ちリサを飲み込む。
小さな音色が何度も蘇る。
いつの時代の曲だろう。優しい音色。
リサが一番好きで一番嫌いな曲。
切ない音色の
――銃声がリサの鼓膜を震わせた。
しかし、次いで来たのは痛みではなかった――金属が衝突する冷たい音に続き、苦痛に満ちた
目を開ければ宙を舞う数滴の鮮血と、腕をおさえゆらゆらと数歩後ずさるクラヴィスが視界に映る。
小さな部屋に設けられた唯一の扉が開き、短い銀髪を揺らしながら一人の少女が姿を現した。
――
それは闇の中でも一際光彩を放つ色だった。
「だ、誰だ……」
クラヴィスの碧眼が突如現れた少女を視界に捉え、同時に驚きで目を見張る。
「
幼さを残した青年の小さな声が室内に反響し、タイミングを合わせるように、
「こんばんは……あるいは初めましてと言った方が宜しいでしょうか?
ヨウ・エルディアの冷たい声がこだました。
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