02.國盟連合軍《こくめいれんごうぐん》
柔らかい日差しが照る小さな丘の上に大きなケヤキの木が立っている。
つんとした草木の匂いがしてヨウは瞼をあける。
気持ちのいい風が吹き、柔らかい髪をさらっていく。
オレンジ色の光が
『ヨウ』
少年の優しい声が――
「起きてください。ヨウ・エルディア」
布団が剥ぎ取られ、朝の眩しい日差しが差し込んだ。容赦ない冷気がヨウを襲った。
「さむいっ」
ヨウは思わず小さな悲鳴をもらした。
早朝6時。時刻を告げる
慣れない宿舎、慣れない固いベッドの上で、ヨウは寒さで体を縮こまらせた。重たい瞼を何とか開き頭上を見上げれば、赤毛の癖毛が良く目立つ室内着姿の女性――リサが立っていた。
女性は顔に苛立ちをにじませていた。
「ま、まだ6時ですよ……」
ヨウがだらしない声を上げると、リサがため息とともに、
「今日は会議があるって言いましたよね?」
リサの一喝にヨウは「えぇ……」と再びだらしない声を出した。
ベッドの上に一人取り残されたヨウは、冷たい風を噛み締めていた。
3年ほど前から、ヨウが所属する組織だった。
正式名称を「
ヨウの元々の所属先は「本部」――この
一方で、ここ「
100を超える支部の中でも大國――
そしてその支部の最高責任者。小麦色の髪に琥珀の瞳を持つ男性、ライア・エスタリカ。
ヨウはただ、ライア首衛官を本部に案内すべく支部に立ち寄った……そのはずだった。
(それがどうしてこうなったのか……)
ヨウは再び小さな溜息をもらした。
◇
リサが案内したのは、支部の巨大な建造物の一角――奥まった場所にある小さな一室だった。
室内にはU字型に椅子が配置され、見るからに階級が高そうな人々が数名腰を下ろしていた。
美しい金髪を襟足で短く切り揃えた女性。角刈りの強面の男性。やつれた雰囲気の顔色の悪い中年男性など、容姿は様々だ。
室内は人々の話し声で充満している。
リサにつられヨウが足を踏み入れると、散らばっていた視線が一斉にこちらへ向けられた。
白髪に翠玉の瞳。異質な容姿が否応なく注目を集める。
聞こえないほど小さな溜息をもらし、ヨウはリサに続いた。2人はU字型に並べられた椅子の端、二列目の後方に腰を下ろした。
ヨウはそっとリサの耳元で尋ねた。
「今から何があるんですか?」
リサはじっと鋭い目線で一度ヨウを睨むと、また前方へ視線を戻した。
「会議です。昨日言ったでしょう?」
「え、ええ、まあ……?」
ヨウは曖昧に返答した。正直なところ記憶になかった……。
リサは呆れたように一度言葉を切ると、真っすぐヨウを振り返った。
「今、ライアさんがこの支部を離れられない原因……」
開きかけた口を一度閉じ、そして意を決したように再び開く。
「
――RYCOLAS――
一節【
「『
それは、ここ最近
犯行時には遠隔操作型の爆弾が用いられ、
とりわけこの犯罪者の厄介な点は、男が使う「遠隔操作技術」と、殺人を
――ライア・エスタリカの透き通った声が室内に響き渡った。
騒がしかった室内は一気に静まり、姿勢を変える衣擦れの音が聞こえる。
「そこで、我々は『
ライアの視線がゆっくりと動き、その視線の先を椅子に腰かけた人々が追う。
嫌な予感がしてヨウの喉がわずかに鳴った。
「その前に、本部から派遣された技術班の
ライアの琥珀の視線がヨウを捕らえた。
とっさにヨウは視線を逸らすが、リサがすぐさま腕で小突き追い打ちをかける。
椅子の足が床をこする冷たい音とともに、ヨウは渋々立ち上がった。
人々の視線がヨウに集まる瞬間が煩わしかった。
「ヨウ・エルディア二等兵だ。挨拶をお願いできますか?」
ライアの視線にヨウはただ黙って頷いた。リサの鋭い視線が酷く痛い。
ヨウは浅く息を吸い込み口を開いた。
「……ヨウ・エルディアです。本部では『技術班』に所属していました。暫くの間、お世話になります」
億劫さが滲んだヨウの挨拶に、微妙な沈黙がその場に流れた。
◇
「そういう訳だから、申し訳ないけど暫くは協力してください」
ライアの琥珀の瞳が申し訳なさそうにヨウを見つめた。
会議の後、ヨウはリサ、ライアの3人で、支部の3階にある食堂で昼食を済ませていた。
周りでは活気のある國連隊員たちが、各々楽しそうに会話を弾ませている。
ヨウは小さく息を吐いた。
「はぁ……それは構わないんですが、まだうまく状況が呑み込めていません」
会議が終わった途端、溢れる疲れがどっとヨウを襲った。
(情報過多もいいとこだよ……)
ヨウは脳裏によぎる
様子を察したのか、ライアが申し訳なさそうに声を落とした。
「すみません、なんせ相手も高度な技術――遠隔型の技術を使うので、あなたのように技術力に長けた人材が必要なんです」
ライアは最後に付け加えた。「手伝って欲しいと私からお願いしたんです」と。
ライアの疲れ切った顔に、ほんの少し同情が芽生えた。
(……それでも事前に一言くらい言ってくれたらいいのに)
ヨウは食べかけのパサパサのパンを口に頬張った。
「事情は大方分かりました。問題ありません。その代わり、私の方法で手伝わせてください……」
ヨウの言葉にライアは少し視線を泳がせ、暫く考えたのち軽く頷いた。
「良くないですよ」
ぴしゃりと冷たい声が、2人――ライアとヨウの間に割って入った。リサ・ラグナウッド。昨日補佐役としてつけられた赤毛の女性だ。
「ライアさんが良くても、現場の者が許しません。私たちは彼女をまだ仲間だとは認めてません」
リサが射るような目つきでヨウを睨んだ。
赤毛が揺れ、強い
「あなたのいた――『個』を重視する本部とは異なり、
リサは語尾を強めた。
「人の
リサの力強い言葉に反論するだけの熱量を、ヨウは持ち合わせていなかった。
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