動物になれるリリア。実はとても腹黒でした!?~連載中~

ライフリー

0、始まりは…

「このものをひっとらえよ!」

おおきな、おおきな屋敷の前で、静かに、そして厳格な声が響き渡った。


「やめてください!二グスさん!あなたは、私の味方じゃなかったんですか?」

 とらえられた彼女の声に、二グスと呼ばれた男が静かに答える。


「私の味方は、旦那様のみです。」

 彼女は、裏切り者!とも叫ばず、ただ、そう、とうなずいた。

 

うつむいた彼女は、もう泣きそうだ。

 その場にいた人は、全員そう思った。

 

事実、彼女の口元は、泣かないように引き締められているように見えた。

 

そして、彼女は罪人が入れられる鉄格子がついたおんぼろな馬車に乗せられる。

 彼女は、まだ、十歳だというのに。


 彼女は、たった一週間前までは、この場にいる誰よりも裕福な暮らしをしていた。

 それが変わったのは、たったの三日前。


 彼女は罪の疑いをかけられた。

 その罪の名前は

 「能力偽造罪」

 

のうりょくぎぞうざい、と読むその罪の内容は、動物に関する能力を偽っていたと      

 いうものだ。


 動物。

 この世で最も、大切にすべき存在。

 そして、この世に生まれてくる人々は、すべて動物にかかわる能力を持っている。

 

例えば、動物と話せる、とか。

 はたまた、動物のしっぽを生やせる、とか。


 そうした中でも、あまり動物にかかわらない能力を持って生まれてきたひともいた。

 

そういう人たちは、荒れ果てた、貧しい土地に追放される。

 そこでは、生き抜くのが難しい、だの、大きい動物にかみ殺されるだの怖い噂が飛び交っているが、大半の人は、貧しい土地を見たことがないという。


 彼女は、能力の中でも、最も希少な動物になれる能力を授かった子だった。

 つまり、彼女は誰よりも、贅沢ができる立場だったのだ。

 しかし、今ではこうしてみじめな姿をさらしている。

 

その場にいた人も、彼女の顔も、名前も全く知らないというのに新聞越しに彼女を知った人も、みんな彼女のことをあわれんだ。

 

そうして、彼女を乗せた馬車は、ゆっくりと、動き出す。

 あわれみはしても、彼女がいなくなったことを惜しむものは誰もいなかった。

 

馬車が行く道が、みるみると荒れ果てていくのが格子越しにもわかる。

 彼女は物珍しそうに、外の世界を見渡していた。

 

そして、ふとした瞬間に、泣きだしそうになるのをこらえるかのようにうつむく。

 そうしたことを、何回繰り返したか。

 

やっと着いたみたいで、馬車の扉がギギイと開いた。

 彼女が静かに降りてくる。

 

反抗する気はないようだ。

 その目も、やるせなく濁っているように見えた。

 

彼女の目の前には鉄の門が立っている。そこに、門番が十人くらいたっ    

 っていた。

 

おそろいの制服を着て、きちっと立って…、いや、二人くらい猫背のやつがいる。

 だが、その二人とも、顔は真剣だ。

 

この鉄の門が開かれることはそうそうない。


なのに、門番がここに立っているのは、なぜなのか。

 彼女を見張るためか、はたまた、貧しい土地からの逃亡者が出ないように、か。

 なんにせよ、門番の目は明らかに彼女を馬鹿にしていた。


 彼女は、その小さい体を縮こませる。

 場所が違えば、もしくは、裕福な時の彼女だったならば。

 そんな態度をしたら、その門番のほうが、捕まえられていただろう。

 

だが、現に今、立場が下なのは、彼女だ。

 彼女のみじめな姿に、門番が薄笑いを浮かべる。

 

門番というのは、もともとくらいも立場も弱い人がなる仕事だ。

そんな彼が、彼よりも立場が弱い彼女に、八つ当たりしてしまうことは当たり前なのかもしれない。

 

彼女にとっては理不尽なことだけれど。

 

鉄の門が少しだけ開いた。

 門番が、その小さい隙間に彼女を押し込む。

 彼女は抵抗もしていないのに。


門の隙間から、彼女が転んでしまったのがかすかに見えた。

 足首がカクっとあり得ない方向に曲がる。

 彼女の痛そうな顔、その直後に鉄の門が閉まった。


猫背の門番が、少しだけ心配そうな顔をしていた。

 まあ、言っちゃ悪いが、この門番、年齢的にはおっさんだ。

もしかしたら、彼女と同じ年ぐらいの娘でもいるのかもしれない。

 

そうして、鉄の門が彼女を遠ざけるかのように、バタン、と閉まると、その門の向こう側で彼女は、ゆっくりと顔を上げた。

転んでしまったせいで、服が汚れてしまっている。


しかし、彼女はそんなことこれっぽっちも気にしていなかった。

あげた顔はとても悲しそうな哀れな顔なのかと思いきや、そうでもなかった。


彼女の、口角がじんわりと上がっていく。

少しして、満面の笑みが彼女の顔に咲いた。

 

たぶん、ここに人がいれば、なんでそんな、この場に似つかわしくない顔できるんだ、とツッコミを入れたことだろう。

 

まあ、人がいないので、彼女は思う存分笑った。

 ひとしきり笑った後、彼女は独り言を元気よく放つ。

 

「ここまで来れて、計画通り!というか、泣き真似絶対私、下手だったよね?は   あ、演技下手だと、苦労するなあ。」

そう言ってにっこりと笑っている彼女の名前は、リリアといった。




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