第13話 陽太への疑問とノアの決心

 拠点に着くと、涙目のケイがドタバタと足音を鳴らしながら飛び出してきた。


 「マスター……! 陽太……ノア!」


 そのまま二人をぎゅっと抱きしめる。


 「良かったよーー。心配で心配で、ずっと尻掻いてたよーー」


 陽太は“何してんだ”と思いつつも、泣きつくケイを宥めた。

 ノアは少し表情を曇らせ、二人へ頭を下げる。


 「すみません。私がプログラムされていたせいで、ご迷惑をおかけして……」


 「さっきも言ったけど、プログラムした人に責任があるんだし、ノアが悪いわけじゃないよ」


 ケイも続ける。


 「俺が脅されて作らなければ、ノアが陽太を傷つけることもなかったし……」


 空気が重くなりかけたのを察して、陽太が話題を変えた。


 「とりあえず! みんな無事だったし、今日はゆっくりしようよ」


 二人はその提案を受け入れ、拠点へ戻った。


 


 陽太はシャワーを浴び、ベッドに横になる。

 今回の件は一段落したが、まだ終わってはいない。ケイを脅してノアを作らせ、心を上書きした人物がどこかにいる。


 深くため息をつきつつも、今日は体を休めることにした。


 

 その頃、ケイの部屋の扉がノックされ、ノアが入ってくる。


 「マスター。陽太さんのことで、お話があります」


 ケイは大事な話だと察し、遊んでいたゲーム機の電源を落とした。

 机の上の正方形の箱を床へ落とすと、箱が椅子に変形する。

 ノアはそこに座り、本題を切り出した。


 「記録されている陽太さんは、自分の命より他者を優先する……まさに聖人です。

 しかし、私が屋上から落ち、魔法で作った鎖が陽太さんの脚に絡んだ時、陽太さんは少しの躊躇いもな迷いも無く、脚を斬り落としました。


 いくら部位が再生する薬を持っていたとしても、普通の人間があの判断を即座に取れるとは思えません。


 ……失礼だとは思いますが、陽太さんの優しい目も、どこか空虚に見えます。

 陽太さんは“壊れている”ように感じるんです」


 「うん。俺も短い時間しか一緒にいないけど、陽太の自己犠牲の激しさは感じた。

 自己犠牲って言葉じゃ足りないくらい、自分の利益も命も視界に入ってないけど」


 少しの沈黙のあと、ノアが続けた。


 「恐らく、これからも陽太さんは戦いに身を投じ、傷ついていくと思います。

 私は転生者を殺すために作られ、戦闘能力に長けています。でも、マスターが私に“心”を与えてくれました。


 その心を目覚めさせてくれた陽太さんを……私は支えていきたいです」


 ケイは穏やかに笑う。


 「俺もできる限り陽太を支えるよ。それに、ノアの心が目覚めた理由が何となく分かった」


 ケイがニマニマした笑みを浮かべると、ノアは顔を真っ赤にし、両手で覆った。


 「ちょ、マスター!? 今は関係ないですよね!?」


 その反応に、ケイはさらに煽る。


 「うへぇーい。まあ、まだ合ってるか分かんないけどね?

 どうする? 確認してみる? え? え?」


 ノアは拗ねた表情で椅子から立ち上がる。


 「今日はもういいです! お時間を頂きありがとうございました!」


 そう言い残して部屋を出ていった。


 


 翌朝。珍しくケイが早く起き、顔を洗いに行くと、リビングのノアに会う。陽太がいない事に気付き、ノアに尋ねる。


 「陽太さん、まだ寝てるんじゃないですか? 何か用事ですか?」


 ケイはニマニマしたまま答えた。


 「ちょっと起こしてくる」


 「ダメです」


 ノアが腕を掴んで止める。

 だがケイは聞かず、陽太の部屋へ向かい、そのまま扉を開けた。


 ベッドへ駆け寄り——


「おはよーーー!!」


 勢いよく陽太の腹に飛びかかる。


 陽太は困惑と激痛で声が出ない。

 追いかけてきたノアが慌てて駆け寄った。


 「大丈夫ですか!? 陽太さんが可哀想ですよ!」


 「かっ、可哀想じゃないよな?」


 陽太は困惑混じりの笑みで言う。


 「可哀想じゃないよな!? めっちゃ痛いんだけど!!」


 ノアはケイを持ち上げて床に立たせた。

 陽太はお腹をさすりつつ起き上がり、遅く起きた事を謝罪する。


 「まったくー、俺はこんなに早く起きたのに」


 ケイが勝ち誇ったように言うと、ノアが小声で呟いた。


「マスターの起床時間は十時ですけどね」


「……まあ、起床時間は人それぞれだよね」


 ケイは目を逸らしながらつぶやく。


 すると陽太が、思い出したように切り出した。


 「そういえば、ケイを脅して武器を作らせた人たちって、今もケイを探してるの?」


 「うん。まあ、隠れるしか方法はないかな。あいつら、国から支援された強力な武器を持ってるし」


 陽太は自分の限界を理解しているため、この件から手を引くと決めた。

 そして、毛布を掴み——


 「よし! 今日はやることもないし……寝る!」


 布団に潜り込む。

 だが、もちろんケイが許すわけもなく、ベッドから引きずり出そうとする。


 二人がわちゃわちゃしていると、ノアの携帯機に通知が届く。


 「……氷のドラゴンが現れた?」


 ノアの声に、陽太がベッドから飛び出す。

 勢い余ってケイと頭をぶつけ、二人で悶絶した。


 陽太はノアのスマホを受け取り、ニュースを確認する。

 そこには空を飛ぶ巨大なドラゴンの画像。

体は氷に覆われ、漆黒の鱗をまとっている。


 陽太には、なぜかそのドラゴンがある人物に見えた。


「スズナ……さん?」

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