のじゃロリお師匠さまは今日も振り向かない

常石及@努力は俺を裏切れないコミック3巻

第0話 バディ・ネーム『S組のバカップル』

 皇立シュバルツブルク士官学校では、年に2回、大規模な軍事演習が行われる。夏は南部の離島で臨海大演習が、冬は北部の山岳地帯で冬季大演習が催され、若い士官候補生達が文字通りに血と汗を流しながら必死の覚悟で己の生き残りと査定の評価を懸けて砂や泥の中を駆け回るのだ。

 今日は冬季大演習の4日目。皆いい感じに疲労が溜まってきて、脱落者がちらほらと出だす頃合いである。


「逃げろーッ! ギガント・マンモスだ!」

「え、Aランクの魔物がなんで……っ。聞いてないぞッ」

「いいから逃げろ! 死にたいのか!」


 向こうのほうが騒がしい。どうやら一士官候補生の手には負えない魔物が割と近い場所に出没したらしい。


「ギガント・マンモスか。ふむ、確かに普通の学生には少しばかり厳しそうな魔物じゃな」

「どうする? マイヤさん。ここで倒しとけば教官の評価も上がるかもよ」

「妾は、今の立場なんぞしょせん仮の姿じゃし別に目立たんでも構わんが……お主は正真正銘の士官候補生じゃ。ここで顔を売っておいたほうが良いのではないか?」

「そうだね。……じゃあ行ってくるか!」

「他を巻き込むでないぞ」

「わかってるよ。マイヤさんも来る?」

「まあ、お主の活躍を見守るくらいはしてやってもよいかの」

「じゃあマイヤさんにいいとこ見せないとな」


 一見すると10代前半の少女にしか見えない長命種族のマイヤさんを伴って、俺は騒ぎの現場へと駆けつける。『身体強化』を発動した俺達の移動速度は、全力を出した馬と並ぶほどだ。あっという間に現場へと辿り着く。


「お、おいっ、お前達! ギガント・マンモスだッ、早く逃げないと死ぬぞ!」

「ちょっと待て、こいつら『S組のバカップル』だぞ」

「なに、本当か⁉︎ 助かった……のか?」


 逃げてくる士官候補生の片方が、俺達の顔を認めてそんなことを呟いている。相変わらず俺達の客観的な評価が随分なことになっているようだ。俺としては嬉しいことこの上ない評価なんだが、マイヤさんはどうなのかな?


「まったく、人のことを好き放題に呼びおって……。妾らには別の正式な二つ名バディ・ネームがあるじゃろうがっ!」


 あ、特徴的な長耳が少し赤くなっている。これは照れている時のマイヤさんの特徴だ。


「マイヤさん」

「ん」

「見ててね。俺が『S組のバカップル』の名を全校に轟かせてみせるから!」

「阿呆。さっさと行け!」


 照れ隠しのジト目と罵声に蹴っ飛ばされながら、俺はその勢いのまま、逃げてくる学生らの前に躍り出る。茂みの向こうから雪の積もった木々を薙ぎ倒して突進してくる魔物のサイズは、なるほど「ギガント」の名に恥じぬほどのデカブツだ。上背など、屋根の高さくらいはあるだろう。


「だがデカいだけだ。大した脅威じゃない」


 俺は腕に巻いた腕輪型収納装置インベントリからダーツ状の金属矢を1本取り出すと、そのまま魔力を込めて脳内で魔法式を構築する。


「いくぜ、俺の鋼擲矢アイゼン・ダート


 組み上げるのは俺オリジナルの術式『加速』。指定した対象を任意に加速するこの魔法は、極めればどんな弓や槍よりも強力な武器となる。


「――――『流星メテオール』」


 ――――ドンッッ……!!


 空気を切り裂く衝撃波が鼓膜を震わす。目にも止まらぬ鋼鉄の擲矢ダートが瞬きほどの時間で彼我の距離を駆け抜け、ギガント・マンモスの頭部へと命中した。


「ブモ……ッッ…………!!」


 直撃と同時に爆散する頭部。あわれ、ギガント・マンモスの命の灯火は、圧倒的な運動エネルギーの前に呆気なく消え去ったのだった。


「余裕じゃの」

「まあ、この程度はね」


 ズシン……という重たい音を轟かせてギガント・マンモスの巨体が崩れ落ちる。まあ、伊達にマイヤさんのもとで10年以上修行を積んでいない。

 それに、俺はこの1年でまたさらに大きく成長したのだ。それもひとえにマイヤさんと常に一緒のスイート学生生活キャンパスライフを過ごせているからだというのは、もはや語るまでもあるまい。


 これから語るのは、天涯孤独の戦災孤児だった俺が、最愛のお師匠さまにして最愛の想い人であるマイヤ・メイカライネンに愛を教わり、そして愛を贈り返すハートフル・バトルラブコメディである。

 とくとご覧あれかし。





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