第4話 "いやぁ、なの #1/3"

 明後日にはダンジョン探索開始。胸躍らせ待つ2日間。

 と、思いきや紗雪を胸元に抱きかかえ自室に戻り、その極小住居ぶりを目にして思わず零れ落ちたのだろう

「聞いていた通りね」

 物悲し気なつぶやきが耳に飛び込む。


 よくよく考えれば彼女の部屋も用意することができない、狭きワンルーム。

 身長60㎝の彼女ですら狭いとわかるスペース。

 普通の人類並みの体格を有するパートナーと契約した場合どうしているのだろう?と疑問を覚える。

 それを察したのだろうか

「ランクが上がって、スペースの余裕が生まれるまでパートナー異星体は別の施設に用意された部屋に泊まるのが普通だそうよ。でも、私は貴方と片時も離れたくないから。ごめんなさい、気にしないで。机の上に座るためのクッションだけ置かせてもらえるかしら?睡眠も不要なのだから、それで充分よ。」


 光の速さで腕の端末にアクセス。

 意識操作で開く”人形種”限定ショップ画面。

 帰りの移動用ビークルで目をつけていたセットをカートへ。

「ちょ、ちょっと何をしているの!? 大切な活動準備資金でしょう! お、お待ちなさいって」

 即、決済完了。


 机の上で慌てふためく紗雪を、椅子に腰かけ愛で眺めること30分。

 ガコン、と通販のお届けドローンから荷物が届くや開梱。あわせて購入した自分用のラフなシャツとズボンに着替え、設営開始。

 途方に暮れたような、呆れつつも嬉しさを隠しきれない彼女に培養ポッドの蓋の上で待機いただく事もう30分。


「ふふ、用意出来ましたよ、紗雪姫!」

「何を言っているのかしら、もう……オーナーったら、困った人だこと」

 一人用机を占領し立ち上がる、狭いながらも意外としっかりとしたつくりをした、高さ80㎝のコーナータイプのパネルハウスには、クッションベッドとスイッチ式スタンドライトが据えられていた。

 美しいゴシックドレスを身にまとう彼女には不似合いな雰囲気になってしまったが、予算の範囲で買えるのがこのカントリー調のデザインのものだけだったので今は我慢。

 板に壁紙を張る自作ハウスなどできないものかとみてみたものの、かえってそうした部材は今のご時世貴重らしく、存在しなかった。代わりに見つけたのは、デジタルパネルで背景を切り替えるタイプのもの。だが、予算にはまらず。

 まして職人手作りのハウスなどとてもとても。

 その代わり、クッションベッドは今後のお着換えにも無難に対応できるよう、クリーム色にフェイクファーのカバー付きで羽毛”風”のフカフカ品質から選択。(天然羽毛はみなかったことにする。ゼロの桁が、桁が~!)


 〆て7,000Neuro。残高720Neuro (72,000Yen)


「初めてのお食事、できれば豪勢にしたかったのですが、それは改めて余裕ができてからで。ごめんなさい」

 すっと差し出すのは合成甘味料の塊であろうチョコケーキ風味のミニ合成食チップ。

「いいえ、充分よ。繰り返しになるけれど、飲食は本来不要なの。厳しい今、無理は決してしないで。ね?」

 甘いものは好みに合ってくれたらしく、優しくポリポリと、小さな口でじっくりと味わうようにチップをかじりつつ、念を押す彼女の幸せそうな姿に見惚れ、夜は更けていった。




「確かに!? 初期に攻略されるG級ダンジョンは基礎の通路型。モンスターも動物に毛が生えた程度。種別も”ハックアンドスラッシュ”タイプが大半、もしくは、比較的容易な攻略が可能となるギミックが用意されています。で・す・が! 生誕直後のナオさんの身体能力は大崩壊前の人類成人男性と同程度! 武器防具もなく挑むものではありません! そ・れ・な・の・に! お金ほぼ使い切っているって何事ですか、も~~!」

 装備や共に戦う架空体(キャラクターカード)を見に、紗雪を腕に抱きふらふらと組合3階にやって来た2人。

 ショーケースに飾られる煌びやかな上級向けカードを、将来の夢の一端と眺めていた最中。

 後ろにすーっと現れたミキにつかまり、カウンターにひきずって行かれ、お説教に突入。


 可愛らしい顔でぷりぷりと怒る姿は愛くるしさが際立ってしまい、怖いと感じられない一方、申し訳なさと情けなさは弥が上にもいやがうえにも刺激されてしまう。

 それはそうと、彼女はなぜ俺の残高を知っているのだろう、謎だ。


「細かい分類とかは置いておきますが、先々は”地球文明に記録されている空想物語や、神話に取り込まれるタイプ”、”逃走不可で強力な特殊個体との決闘場タイプ”、”全く別の技術体系が必要となる騎乗機械活用タイプ”、”大規模戦場シミュレーションタイプ”、本当にさまざまなダンジョンがあるのです。それぞれに対策や準備も必要! こんな初っ端でやらかしてしまうなんて、不安で不安でもう……!」

 ダンジョンという名称がつけられてはいるが、その内部は何も洞窟に限定されるわけではなく、それこそ生態系を取り込んだような自然空間から、宇宙空間を模したものまであるほど多種多様らしい。との記憶が、確かにある。


「仕方がないので、ナオさんが無事探索者活動を始められるよう、今日はサポートしてあげます」

 ふん、と両こぶしを胸の前で握りしめるミキ。

 今日は動きやすいよう裾は膝上丈に抑えられた、甘い桃色のプリンセススタイルドレスを身にまとっている。

 本当に制服なのだろうか……


「とはいえ、予算700Neuroでは最低限必要とされる武装1種、キャラクターカード1枚の2点を選んで揃えることもできません。まずは初回1回だけ無償でご利用いただける召喚室を使いましょう。その結果を見て、予算の範囲で不足したものを見繕う感じで」

 召喚室はダンジョン空間の1種で”魂に刻まれた生誕前の架空世界における経験から抽出具現化”によるカードが高確率で生まれ出るそうだ。

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