09.正体見たり
「襲撃だ――ぐああっ!!」
門番を殺したナイフを、次は見張り台から叫ぶ二人目に投げつける。
シュンと風を切る音がして、クリーンヒット!
――ドシャアア……ぐちゃっ
と見張りの男が降ってきた衝撃音で、村の空き家からわらわらと人が飛び出てきた。
バシュン!と音がして銃弾があたしの脇をかすめる。
確実に当たる位置だったけど、ラブカが持ってる炎魔法が障壁を展開して鉛弾を溶かした。
「あっぶな……!!」
そういえばこの世界って銃があったんだっけ。
前世で親父がコレクションしてたようなフルオートマシンガンとは違って、連射もできない旧い銃だけど、当たったら普通に死んじゃいそう。
【敵は戦術を心得ている。すぐに応援に向かうから、しばらく身を隠せ!】
「うわ! 何!?」
敵の思わぬ飛び道具に戸惑っていると、アイリスの声が聞こえてきた。
【お前にかけた
「げえっ! やめてよ変態!」
【右側の納屋から二人。銃を持ってる。近くにある荷車の影に身を隠せる】
あたしの視界で見えてないものも見てない……?
とか思ったけど、感覚共有と状況把握どっちもアイリスくんの能力とは言ってないか。
あたしとアイリスくんが魔法を使えるように、他の子が使えてもおかしくない。
(通信・偵察能力持ちを敵に回すのは危ないよ、ソレイユちゃん……)
【すぐに合流する】
「いいよ、敵の場所がわかれば十分」
【何を言っている! この馬鹿!】
ここはいっちょ、このラブカちゃんの力を見せつけてやろう!
あたしがめちゃつよってわかったらアイリスくんビビって、
「おっと」
――パンッ!! パァンッ!!
と、銃声が響いてくる。
敵は十数人。
ナイフ一本じゃとても太刀打ちできないし、ここはラブカの魔法もガンガン使っていこう!
大地を踏みしめると、身体をめぐる魔力が足に集中するのがわかる。
魔力による筋力強化、これは本当のラブカは使ったことのない魔法。
でも、あたしがやりたいって動きを、ラブカの体がサポートして魔力を動かしてくれる。
タッ、と踏み出すとあたしは数メートルの高さを跳躍する。
「
落下の勢いを利用して、足に炎をまとったとび蹴りを放つ。
ぐしゃり、と足にやわらかい感覚がして、1人死亡。
その勢いのまま踊るように回転蹴りを喰らわせると、炎の茨が敵に絡みついて、じわじわと窒息させた。
さて、これで4人。
まだ人数いるみたいだし、そろそろ派手な大技で――
「その魔法、貴様……まさかラブカ嬢か?」
そう思った時、家の中からひとりの騎士姿の男が現れた。
明らかに他の野盗とは違うそいつに、楽勝ムードだった気分が少し引き締まる。
「へえ。あたしのこと知ってるのー?」
「無論。魔術素養を持たぬ平民の中から生まれた希望の星。そして貴族に媚び売り平民の誇りを穢した悪女だ、と」
「あたしがどう生きようが自由じゃん。好き勝手言っちゃって」
こいつは油断ならない。
雑魚狩りとはわけが違うと判断して、アイリスくんにさっさと前言撤回する。
「アイリスくん、強いの出ちゃった。やっぱ雑魚狩りはお願い」
【……わかった。行くぞ、オルタンシア】
アイリスくんは呆れながらも、あたしの言うことを聞いてくれた。
「じゃ、やろうか。おじさん」
「よい覚悟だ……ふっ、噂に聞いていた話と違うな」
次の瞬間、おじさんは剣を構えて距離を詰めてくる。
剣先が一閃して、空気が切り裂かれる。
しゃがみ込む。頬のすぐ横を、金属の刃が滑り抜けていった。
肌をかすめた風が、痛いくらい冷たい。
「ぐっ……!!!」
避けられたと思ったのに、剣にまとわりつく風が鞭のようにしなってあたしに襲い掛かる。
やばい、と思って腕でガード。
間一髪首が取れるのは防げたけど、腕はずったずたになっちゃった。
「いったぁあー!」
「よく避けた。ラブカ・ディオール」
「当たってんだよ!」
アイリスくんとおなじ、剣に何かまとわせるタイプの攻撃……だけど衝撃波じゃなくて広範囲の風の鞭。
こいつはかなり厄介な相手だ。
「
という名の、大暴れ!
足から、腕から、髪の先まで、炎が花びらみたいに舞い上がる。
踊るように相手の急所めがけて蹴りや拳を突き出すけど――おじさんは怯まない。
剣であたしの技をいなし、攻撃ラッシュが止まる一瞬の隙をついて大きく振りかぶる。
「くそっ!」
避けきれない。
咄嗟にナイフを逆手に構えて、金属の刃を受け止める。
火花が散って、腕が痺れた。
(力で負けてる……!)
押し負けそうになった瞬間、背中から風が吹いた。
――ヒュンッ
まずい、風の鞭……!!
剣の軌道の外から放たれる鞭が今度こそ首を狙う。
体全体で剣を抑え込んでいて、動くことができない。
「終わりだ」
大ピンチ!
――だとでも思った?
「ルガール・デュ・ディアーブル」
悪魔の眼差し――という名前の、魅了魔法。
ここまで近づけば相手の目はばっちり見える。
あたしの炎魔法で照らされたおじさんの瞳に、あたしの姿が映る。
「しまっ――!!!」
「喧嘩盛り上がって忘れちゃった? あたしの最強の力はこれだって」
「だめだ、だめだ、だめだ…………」
おじさんは必死に抵抗しようとしたけど、じわじわとあたしの瞳に脳を侵略されていくのがわかる。
「おじさん。あたしのこと、好き?」
そして、堕ちた。
「はい」
***
「ええー、女の子もう逃げたの?」
おじさんの後始末をどうしようかと悩んでいたら、アイリスくんと合流した。
アイリスくんはあたしがお願いした通り、残党を始末。
ついでにオルタンシアくんが女の子を逃がしてくれたらしい。
「あたしこんなに頑張ったんだよ! お礼くらい言ってもよくない!?」
「怯えて話になりませんでしたので、騎士に送らせました」
こんなに頑張ったのにお礼も言われないし、姿も見せないし、やるんじゃなかった。
そうやってぶーたれていると、アイリスくんが話しかけてくる。
「辛い思いはしたようだが、彼女たちは解放を喜んでいた。お前が頑張ってるのは知っているさ」
そう言うと、アイリスくんは私の頭を撫でて優しく言った。
「よくやったな」
それは初めて見る、アイリスくんの穏やかな微笑みだった。
笑うと少し幼く感じる顔つきが意外で、ちょっとびっくりしたらそれまでの怒りはどっかへ行っちゃった。
「……で、このおじさんはどうするの?」
「野盗の集団の中で、この男だけ異質だった。お前の魅了魔法が効いているうちに尋問しよう」
あっぶね、殺さなくてよかった。
命令したらまじで死ぬのかな? と思ってたけど、アイリスくんには狙いがあるみたい。
「おじさん、だあれ?」
「私は騎士。現在は革命軍「灰の花々」の幹部として働いています」
強いと思ったら騎士なんだ。
「なんでここにいるの?」
「命を受け、アイリス殿下のお命を狙うために潜伏しておりました」
「誰に命令されたの?」
あたしにべた惚れのおじさんは迷うことなく答えてくれた。
「アンネロッテ・エーベルハルト・フォン・ローゼンハイム」
あたしたちのターゲット、アンネロッテ。
その名前を聞くと、アイリスくんはまた氷のような表情に戻った。
「アンネロッテって、A王国の人だっけ?」
「ああ。目的地変更だ。A王国に向かうぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます