科学哲学史の時代区分

■ 概要


科学哲学史において時代区分を設定することは、単なる学説の整理にとどまらず、「自然観」「認識論」「方法論」「社会制度」「価値観」の変遷を通して、人類がいかに世界を理解し、変革してきたかを体系的に把握するために重要である。


以下では、哲学史・科学史・社会史の節点に基づき、科学哲学史を9つの時代に区分する。



■ 1. 自然哲学期(古代ギリシア~ヘレニズム)


・時期

 紀元前6世紀~紀元後3世紀頃

・特徴

 自然を「コスモス(秩序ある全体)」として観想し、哲学と科学の未分化な探求が展開。

・主要人物

 タレス、アナクシマンドロス、ピタゴラス、プラトン、アリストテレス、

 プトレマイオス、ラエルティオス

・思想的意義

 自然哲学は科学哲学の源泉であり、存在論と認識論の原型を形成した。



■ 2. 神学的世界観期(中世スコラ学)


・時期

 4世紀~14世紀

・特徴

 自然は神の創造物とされ、知の体系は信仰と理性の調和を目指す。

・主要人物

 アウグスティヌス、トマス・アクィナス、アルベルトゥス・マグヌス、オッカム

・思想的意義

 自然研究は神学の一部とみなされ、科学的探求は宗教的秩序の枠内で進展。



■ 3. 科学革命期(近代初期)


・時期

 15世紀後半~17世紀末

・特徴

 観察・実験・数学化による新しい自然認識が成立。

 自然は法則的因果の体系として捉えられる。

・主要人物

 コペルニクス、ガリレオ、デカルト、ベーコン、ニュートン

・思想的意義

 「機械論的自然観」と「方法論的合理主義」の確立。近代科学哲学の原型が形成。



■ 4. 啓蒙合理主義期(18世紀)


・時期

 17世紀後半~18世紀末

・特徴

 理性と経験の統合による普遍的知識体系の追求。科学は人類進歩の象徴とされる。

・主要人物

 ライプニッツ、ロック、ヒューム、カント

・思想的意義

 経験主義と合理主義の対立を超え、科学的認識の条件を哲学的に定式化。



■ 5. 実証主義期(19世紀)


・時期

 19世紀前半~後半

・特徴

 科学を経験的法則の発見と社会秩序の基礎とみなす立場。哲学の「科学化」を志向。

・主要人物

 コント、ミル、スぺンサー、マッハ、サンダース・パース

・思想的意義

 科学を知の唯一の基準とする「科学主義(サイエンティズム)」の台頭。

 社会科学の成立に連動。



■ 6. 反証主義期(20世紀前半)


・時期

 1900年頃~1950年代

・特徴

 科学の言語的・論理的分析が進展し、科学哲学が独立分野として成立。

・主要人物

 ラッセル、カール・ポパー、カルナップ、ネーゲル、ナーゲル、ポランニー

・思想的意義

 論理実証主義と反証主義の対立を通じ、科学理論の構造・検証基準が精緻化。



■ 7. 歴史社会的転回期(1960~1980年代)


・時期

 1960年代~1980年代

・特徴

 科学は歴史的・社会的文脈に依存する営みと再定義。

 パラダイム転換論・相対主義の登場。

・主要人物

 クーン、ラカトシュ、ファイヤアーベント、ラトゥール、グッドマン、トゥールミン

・思想的意義

 「科学の客観性」から「知の構築性」への転換。科学社会学・科学技術社会論の発展。



■ 8. ポスト近代科学哲学期(1990年代~)


・時期

 1990年代~21世紀初頭

・特徴

 科学と技術、倫理、社会との相互作用を重視。複雑系・情報科学・生命倫理が中心課題。

・主要人物

 ジャサノフ、ハラウェイ、デュプレ、カートライト、カレン・バラド、

 ハーバーマス、ハッキング、ファン・フラーセン、

 内井惣七、村上陽一郎、戸田山和久、伊勢田哲治、野家啓一

・思想的意義

 フェミニズム、構成主義、ポストヒューマニズムなど多元的科学観が展開。



■ 9. 機械知性哲学期(21世紀中葉以降)


・時期

 21世紀中葉以降(予測的区分)

・特徴

 AI・量子情報・合成生物学など、科学と機械知性の融合領域が主題化。

・思想的意義

 科学哲学は「人間の哲学」から「知の進化論」へと転換する可能性を内包。



■ 締め


この時代区分は、科学哲学史を「自然観の変遷」から「知の自己反省史」として位置づけるものである。


科学哲学は、存在・認識・方法・制度・価値の5層が時代ごとに新たな均衡を模索する過程として展開してきた。


したがって、科学哲学史の理解とは、人間が「世界をどう知りうるか」という根源的問いを、社会・技術・倫理の変動のなかで更新し続けてきた歴史そのものの読解である。

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