第二十五話 サトラムス渓谷防衛戦 (4)

 仁がガイウス、ジェリルと戦い始めたのと同じ頃、耕助は、二体の魔装騎士マジックメイルと対峙していた。


「異世界人。名前を聞いておこうか?」


 ゼフィルスは、腰に手を当てて拡声器の魔道具で耕助に語りかけた。


「人に名前を聞くなら自分から名乗るのが礼儀だぜ?…まったくこの世界の騎士ってのは躾がなってないな!」


 耕助は、同じように腰に手を当てて答える。


「そりゃそうだったな。俺はゼフィルス=シルヴァン。ゲイルドラゴンの名を預かる者だ。」


「そりゃどうも。俺の名前は神代耕助。見ての通りの戦争屋だ。」


「それでは、早速だが神代耕助!…死んでもらおう!」


 ゼフィルスは、そう叫ぶと同時に両手に持つ双剣を振り下ろすと二本の剣先からそれぞれ疾風の刃が飛ぶ。

 耕助は、瞬時にそれを見切って一本を避けた後、もう一方を金砕棒で弾き返した。


「なるほど、物理攻撃には間違いないってことか。」


 感心したように呟くと、左側のズッシリとした、いかにも重量級の魔装騎士マジックメイルが、手にしていた大盾を地面に突き刺す。


 すると、耕助の足元がグラリと揺れる。

 そして、バランスを崩した耕助に向かってゼフィルスが再び疾風の刃を放った。


「おお!やるじゃねえか!」


 耕助の目が歓喜に見開く。


「強がりがどこまで言えるかな?」


 ゼフィルスは、更に横薙ぎに剣を振って更に二本のの刃を二文字に飛ばした。


「しゃらくせえ!」


 耕助は、態勢を崩しながらも四本の刃を金砕棒でまとめて叩き落した。

 そして、ゆっくりと不敵な笑みを顔に見せる。


「よぉし、わかった。…お前ら、強いな?」


「当たり前だ。お前如きが叶う相手でないことを教えてやる!」


 ゼフィルスは、そう叫ぶと同時に目にも止まらぬ速さでジグザグに走りながら耕助に肉迫した。

 ゼフィルスの風魔法の効果である。


「速ええ!」


 耕助は、瞬間的にリニアブーストで後方に下がって距離を取ろうとする。

 しかし、ゼフィルスはそれよりも速い速度で追い詰めながら双剣を振り下ろしてきた。

 

 なんとかそれを金砕棒で捌きながら、耕助はそのまま距離を取るために下がる。


 だが、その背後に突然、地面が迫り上がり壁を作って耕助の後退を阻んだ。

 アースドラゴン、オーベル=グラナイトの土魔法によるものだ。


 壁にぶつかりながら、上段から降り注ぐ双剣を金砕棒でまとめて弾き返しながら、咄嗟にレールマシンガンを取り出して横一文字にフルオートでばら撒く。


 しかし、リニアブーストよりも速い動きで稲妻のようにそれらを避けると、耕助に相対する位置に距離を取った。


「こいつ、なかなかやるな!」


 俄に耕助の顔に凶悪な浮かび始める。


「どうやら、貴様よりも俺の方が速いようだな!」


 ゼフィルスは、余裕の笑みを浮かべた。

 そして、再び疾風の刃を二本、飛ばす。それに、耕助が反応して後ろに下がりながら金砕棒を振り上げた瞬間、オーベルの方から直径二メートルはある岩石が勢いよく飛んできた。


「すげえ!そんなことも出来るのか?!」


 耕助は、すかさず金砕棒を横薙ぎに振り替えながら回転して岩石を避けると、その避けざまに岩石を蹴飛ばし軌道を変えると二本の刃を弾き飛ばした。


「…お前、何者だ?」


 その動きに無口なオーベルが呟く。


「アレ?名乗らなかったっけ?」


 耕助は、惚けたように笑う。

 そして、そこに凶悪な色を濃くするとラグに言った。


「しゃーねえ。俺もちょこっと本気を出すぜ。…ラグ。リミッターカットだ。」


『搭乗者の身体への影響が懸念されます。再考を。』


「うるせえんだよ!さっさとリミッターを切りやがれ!」


『…YES。』


「何をごちゃごちゃと!」


 ゼフィルスが、耕助に距離を詰めようとしたその時だった。その目の前からラグナロクが消える。


 リニアブーストには、元々、パイロットの身体能力を遥かに上回るほどの速度が出せる。だが、それは搭乗者を著しく消耗させるためリミッターが掛けられていた。


 耕助は、そのリミッターを外し、通常の人間では到底耐えることのできない速度を発生させた。


「どこだ?!」


 そうゼフィルスが叫んだ時には、耕助はオーベルの大盾を避けて懐に飛び込むと、低い体勢から金砕棒を突き上げていた。


 ガァイイン!!という金属音を上げて搭乗席を覆うキャノピーの下腹部辺りに直撃してヒビが入る。

 オーベルは、振り払うように大盾を振った。

 しかし、すでに耕助の姿はない。


 次に姿を見せた時はゼフィルスの脇腹を蹴り飛ばしていた。そして、再びオーベルのヒビの入った同じ場所に金砕棒を突き上げる。


 すると、そこにポッカリと穴が開く。


「グラナイトの旦那!!大丈夫か?!」


 あまりの事態にゼフィルスは付いていけず、オーベルを庇うように立った。

 だが、もう一度同じように耕助に蹴り飛ばされて目の前に横倒しになる。


 そして、次にその姿を目で捉えた時には、耕助のラグナロクがレールマシンガンの銃口を、金砕棒で穿った穴に突っ込んでいる所だった。


「な、なにを…」


 耕助は、ニヤリと笑いながらトリガーを引く。

 そして、狭いコクピット内でのたうち回るオーベルを只の肉塊に変える。


 銃口を引き抜くと、赤黒いドロドロしたものが溢れて来て、オーベルの魔装騎士マジックメイルはうつ伏せに倒れた。


「さあて、次はお前の番だぜ!!」


 耕助は、翻すとまだ倒れているゼフィルスの魔装騎士マジックメイルの片足を破壊しようと金砕棒を振り上げた。


 ゼフィルスは、必死に前に飛び出すと転がりながら膝をついて立ち上がり双剣を構えた。


「往生際が悪いぞ!騎士の風上にも置けないな!」


 耕助は、楽しげに笑う。

 ゼフィルスは、搭乗席で顎に伝う汗を拭うと覚悟したように言った。


「強い。確かに、貴様は強すぎる。…だが、そこまでだ。」


「ああん?」


「俺は、四竜騎士の中でも一番下の男だ。今、貴様の片割れが相手をしているのが、一番目と二番目に強い者だ。」


「なんだって?!」


「驚いたか。今頃は、どんなことになっているのかな?そして、その戦いが終わった時には…」


 そこまで、ゼフィルスが語った時だった。

 その目の前に、上半身だけになったガイウスとジェリルの死体が転がる。


「なんだよ。そんなに強くなかったから殺しちゃったぞ?」


 二人の死体を投げ捨てた仁が、ため息を吐きながら言った。


「…は?」


 ゼフィルスの顔が一旦、呆けたような表情になり、見る見るうちに青ざめていく。

 そこに転がったガイウスは、顔の半分が砕かれて、眼球がぶら下がり、ジェリルは、大口を開けて白目を剥いていた。


「てめえ!仁!!またお前はいいとこ取りしやがって!!汚えぞ!!」


 耕助は、絶叫して悔しがる。そして、呆然としているゼフィルスに振り向くと、戦意を完全に失っているその機体を蹴飛ばす。


「クソガキ!てめえがガチャガチャ絡んでくるから、こんなことになったんだぞ?!どうしてくれるんだ?!」


「い、いや、お、俺は…」


 ゼフィルスには、今の状況が全く飲み込めない。


(なぜ、ここにガイウスとジェリルの死体が転がっている?この二人は、一体、なにを揉めている??)


呆然とするゼフィルスを見て、耕助は向き直る。


「決めた。お前はなぶり殺しにする。俺にこんな思いをさせたことを後悔しながらゆっくり死ね。」


 耕助は、そう言うと金砕棒でゼフィルスの魔装騎士マジックメイルの両足を粉砕して逃げられないようにした。

 そして、無理矢理キャノピーを引き剥がすと、中のゼフィルスの体を引き摺り出して放り投げた。


「グアァァァ!!」


 ゼフィルスは、引き摺り出された際に、右足を骨折したのか違う方向に足先が向いている。


(一体、なにがとうなっているんだ?!)


 激痛に見舞われながらも、ゼフィルスは信じることが出来なかった。


 自分達は、ロナルディア世界に名を轟かせていた四竜騎士だった。今まで、多くの戦に参戦し圧倒的な強さで勝利を収め続けてきた。

 それが、わずかな時間の中で三人が失われ、自分の命もあと僅かとなっている。


 ゼフィルスが、顔を上げるとその眼前に仁が転がしたガイウスとジェリルの変わり果てた姿が目に入る。


「ヒッ!」


 ゼフィルスは、悲鳴を上げると這いつくばって、周りを取り囲む味方の方へと進み始めた。


「誰か!!誰か、俺を助けろ!」


 砂と小石が混ざった地べたをズルズルと進みながら、その場所からでも分かるほど青ざめた兵士達に向かってゼフィルスは絶叫する。


 それを耕助のラグナロクがゆっくりと歩み寄る。

 そして、あと十メートルほどに近づいた時、耕助はキャノピーを開き、ゴーグルを上げるとその兵士達に語りかける。


「…助けるのか?」


 兵士達は、顔を見合わせて戸惑った表情を浮かべた。もう一度耕助の顔を伺う。


「助けるのはいいが、その時はお前らを皆殺しにする。それでもいいなら、助けろよ。…お前らの英雄なんだろ?」


 その顔は、まるで子供をゲームに誘う悪い大人のようにも見える。


「なにをしている!助けてくれ!頼む!」


「ごちゃごちゃうるせえ!」


 耕助は、金砕棒を折れていない左足に叩きつけて潰す。


「き、貴様ぁ!殺せ!一思いに殺せ!」


 ゼフィルスは、絶叫する。

 しかし、その言葉は耕助の怒りに触れてしまう。


「なんで俺がお前の言うことを聞かなくちゃなんねえんだよ!!」

  

 そう叫ぶと、今度は左側腕を粉砕する。


 すると、それを見ていた兵士の一人が言った。


「あ、あんたの好きにしてくれ!俺は、そんなヤツは知らない!」


 その言葉が関を切ったように他の兵士達も口々に叫ぶ。


「俺は、家に妻と娘がいる!こんなところで死にたくない!」


「俺もだ!あんたの好きなように殺してくれ!」


 その姿に、ゼフィルスはただ呆然とする。つい、一時間ほど前まで羨望の眼差しで自分達を見ていた兵士達が自分を見放そうとしている。


「ようし、わかった!お前らは助けてやる。さっさと武器を捨てて逃げな。」


 耕助は、そう言うと金砕棒を上に向けた。


「本当か?本当に助けてくれるのか?!」


「ああ。俺は約束を守る。安心して逃げるがいい。」


 そう言って、優しく微笑む。

 兵士達は、媚びるような歪んだ笑顔を浮かべると手にしていた武器を捨てて走り始めた。


 …だが、その瞬間、その後ろから仁のラグナロクがマシンガンをばら撒いて逃げ始めた兵士達を肉の塊に変えた。


「おいおい!なんで、撃つんだ?!俺は、助けるって約束したんだぞ?!」


 仁は呆れたようにため息を吐く。


「俺は約束してないぞ?…それよりも、もういいだろ?さっさと殺せよ。行くぞ?」


「チッ!わかったよ。」


 耕助は、そう言ってキャノピーを閉めると虫の様に転がったゼフィルスの頭を握って肩まで上げる。


 ゼフィルスは、ほとんど意識がなかったが、只々、疑問を口にしていた。


「ナンデ、コンナコトニナッタンダ…」


 次の瞬間、耕助はゼフィルスの頭をクジャっと音を立てて握りつぶした。

 そして、そのまま投げ捨てると、戦いの一部始終を見て、すっかり戦意を失っている帝国軍に向いた。


「さあ!第二ラウンドだ!!」


 






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