第27話 再チャレンジ

その後、俺は三日ほど眠り続けた。


正確には寝て起きては飯を食い、また寝るという生活だ。


そして四日目の朝、いつもより少し遅い時間に目が覚めた。


「……よし、大分戻った」


若さとは凄いもので、もうほぼ完璧に近い。

俺は立ち上がりストレッチをし、そのことを実感する。

良い加減身体が鈍ってしょうがないので、部屋の外に出ることにした。

すると、丁度セレナ様と出くわす。


「アイク! まだ起きちゃダメです!」


「いや、もう平気だ。ほら、この通り」


「確かに良さそうですけど……」


「これ以上寝てると身体が鈍ってしまう」


「むぅ……無茶はダメですよ?」


「ああ、わかってる」


「では、私もついていきますから」


そう言い、俺の後をついてくる。

そして階段を降りると、階段脇に隠れてた二人を見つけた。

二人は何食わぬ顔で挨拶をしてきたので……。


「覗いてたのはバレてるぞ?」


「ほほっ、なんのことやら。しかし、我々が言うべきことを言われてしまいましたな」


「ん、早速尻に敷かれてる」


「そ、そんな、尻にだなんて……うるさい女でしょうか?」


「いえいえ、この朴念仁にはそれくらい言って頂かないと」


「ん、間違いない」


何だが、酷い言われようである。

だが、日常が戻ってきた気がして良いか。

その後、俺はいつもの様に素振りを行う。


「ふぅ……鈍ったか」


「三日で鈍るのですか?」


「ああ、寝たきりだったしな。取り戻すのに一週間くらいかかりそうだ」


筋トレやスポーツの世界と同じで、鍛えるにはどれだけ継続して続けられるかだ。

これは一から鍛え直す良い機会だと思って、初期から見直すとするか。

あのような出来事があっても、二度と無様な姿を晒さないためにも。


「……戦う人って大変なのですね。私、わかってるつもりでわかっていませんでした」


「知らないで済むならそれが良い。そのために、我々騎士がいるのだから」


「アイク……でも、私は色々知りたいです。戦いのことも経営のことも、そして……貴方のことも」


「俺でよければ何でも応えよう」


「……そういう意味じゃないのですが」


「ん? 何か言ったか?」


「い、いえ! 邪魔をしてごめんなさい!」


俺は気にしないで良いと言い、再び素振りを行う。

鍛錬後はシャワー浴び。少し早めの昼食をとる。

その際に、セレナ様からとある提案を受けた。


「もう一度、父上の治療をしたいと……」


「はい、よろしいでしょうか? あの時の感覚を思い出して鍛錬をして、何となく感覚が掴めたような気がするのです」


「俺としてはもちろん有難いが……なんで顔を逸らすし、耳まで真っ赤なのだ?」


「き、気のせいですっ!」


「いや、しかし……」


「気のせいったら気のせいですからっ!」


そう押し切られたので引き下がることにした。

ただ部屋を出る際にオイゲンとサーラに『デリカシーがない』と責められた……解せぬ。

その後、ひとまず午後の仕事をひと段落したので、約束通りに皆で父上の部屋に向かう。

ベットの上の父上は死んだように安らかに眠っている。


「父上……では頼む」


「はいっ」


セレナ様が目を閉じて集中し、俺たちは邪魔をしないように静かに見守る。

それからどれくらい経ったか、セレナ様の頬から汗が流れ出た。


「……大丈夫か?」


「はいっ、いきます……聖なる水よ、かの者を癒したまえ——ハイヒール」


部屋を覆い尽くすほどの光が溢れ、それが父上に収束されていく。

眩しさが収まると、セレナ様が膝をついた。


「平気か!?」


「だ、大丈夫です……それより、お父上を」


「……ここは……」


その声に反応し、俺は顔を上げる。


それは数ヶ月振りに聞く、父上の声だった。

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