第25話 いやいやいや、ペナルティって言われても……俺、別に悪いことしてないよな?!
ギミックを(強引に)越えてしばらく進むと、通路はゆるやかに下り坂になっていた。壁の刻印はさらに密度を増し、淡い光の筋が脈動するように点滅している。
「だいぶ奥に来た感はあるけど……敵影なし。これは逆に不安だって」
油断はしないまま歩き続けていると、再び視界が大きく開ける。
今度の空間は先ほどほど狭くはなく、ドーム状の広間。床には巨大な円形装置が埋め込まれており、その中央に石碑が佇んでいる。
そして──
【中央装置:解除済みギミックを引き継ぎます】
石碑に文字が浮かび上がった。
「……なにそれ嫌な予感しかしない」
円形装置が淡く輝き、地面がぐるりと回転を始めた。
クロは身構えて後退する。
床が落ちるとか敵が出てくるとか、そういう類いを覚悟したが──
現れたのは、複数の台座。
それぞれの台座には「数字」と「素材アイコン」が表示されていた。
《1:光苔石 ×?》
《2:虹晶核 ×?》
《3:霧草 ×?》
《4:??? ×?》
「ははぁ……算数から今度は数合わせかよ」
中央の石碑にさらに文字が浮かぶ。
《合計値 120 を作れ》
《ただし各素材には個別の数値が設定されている》
《素材の数を調整し、合計値が一致した時のみ道が開く》
「……素材の価値当てゲームか。錬金術師なら素材の相場で分かるってことかね」
もちろんクロは知らない。
軽く素材を台座に乗せては値が変化し、光がついたり消えたりする。
試行錯誤を繰り返し、徐々に素材の価値が見えてくる。
「光苔石=10ぐらい……虹晶核は……たぶん20前後? 霧草が5? で、最後の第四枠だけ不明……」
石碑の横に、薄く光る箱のようなものが置かれているのに気づく。
中を覗き込むと──
《第四素材:破損した魔導結晶》
バキバキに割れたクリスタル片が山盛りで入っている。
「絶対に沼る枠じゃんコレ」
試しに何個か置くと、数値変動。
「1個で3……半端! 圧倒的に半端!」
120にぴったり合わせるため計算を始めるが、素材数を調整しては微妙にオーバー、微妙に足りないが連発。
「……運営、楽しい?」
肩が落ちる。
しかし諦めるクロではない。
「よし。考えよう。……じゃなくて──楽をしよう」
インベントリから取り出されたのは無骨な道具。
ツルハシ(耐久:ほんの少し残っている)
「石碑壊したら解除扱いになったりしない?」
石碑に近づき、【破壊の目Ⅰ】で現れる淡く光る点軽くコンと叩いてみる。
ヒビが入る。
「入るんだ!?」
次の瞬間、迷いはない。
ガンッッ!!!
ヒビが網状に広がり、石碑の文字が一斉に乱れる。
《規定外行為を確認》
赤文字。嫌な予感。
「うんうん、分かってる。怒られる前に壊す」
ガアアアン!!
《警告:解除処理を強制スキップします》
「……あっ、スキップって言ったな。つまり──」
石碑が眩い光を放ち、粉々に砕け散った。
円形装置が震動。足元の床が沈み、代わりに奥の通路への階段がせり上がってくる。
「ほら見たことかぁ! 突破は突破なんだよ!!」
ツルハシを肩に担ぎ、満足げに歩く。
「ギミック多め? 上等。全部ブチ抜けば
階段を下りると、ひんやりとした空気が吹き抜けた。
通路の奥には大扉が見える。
おそらく、次の区画……ボス部屋手前だ。
「ペース良いぞ……!」
クロは指を鳴らしながら笑う。
「攻略ってのはな、賢くてもバカでもできる。問題は折れない事だ」
そのまま通路を進む。
大扉の向こうから、淡い光と魔力のざわめきだけが微かに漏れていた。
大扉を押し開いた瞬間、冷たい空気が肌を刺した。
そこは縦に長い通路で、奥まで光が走り、左右の壁には巨大な魔導機械仕掛けが並んでいる。
そしてまた、石碑。
《試練:異なる素材同士の量の調整》
《尚、実際の素材ではなく、素材と同じ質量のアイテムが使用されます》
壁の魔導装置が唸りを上げ、三本の水晶パイプに光の粒子が流れていく。
赤・青・緑。
それぞれ脈動しており、隣に数値パネルが浮かび上がっていた。
《赤:〇/300》
《青:〇/500》
《緑:〇/200》
「はぁ〜……今度は調整系ってわけか。錬金術師の腕を問うってやつ」
クロは装置の前に歩く。
足下には三種の結晶が転がっていた。
《燃素石(赤)/注入量=50》
《青羽草(青)/注入量=25》
《湿石苔(緑)/注入量=10》
「やって欲しいことは分かる。素材を投げ入れて調整しろって話だろ」
試しに燃素石をひとつ放り込んでみる。
赤のカウンターが「+50」上がった。
「……はいはい。赤は6個、青は20個、緑は……」
指折り数えて――即、やめた。
「いや、待て。絶対途中で『オーバー=最初からやり直し』とかあるやつだろ?」
思考の方向性が一気に曲がる。
普通の錬金術師なら計算しながら素材を追加して調整するところだが……
「この流水、赤→青→緑の順で繋がってるんだろ。つまり」
クロは壁に手を当て、【破壊の目Ⅰ】を発動。
淡い光点を探す。
三つのパイプの交点あたりに、小さく光る弱点。
「よし、そこだ」
取り出されたのは──ツルハシ(耐久:ぎりぎり)。
「調整なんかより配線ブッた切った方が早い」
迷いは一切ない。
ガンッ!!
赤ラインが激しくスパークし、灯りが半分消える。
《赤回路 停止処理開始》
「お、止まった。次」
ガガンッ!!
《青回路 停止処理開始》
最後の緑ラインがチリチリと火花を散らす。
「トドメっと」
ドゴンッ!!
三本のパイプ全てが停止。
光が中央へ収束し、石碑の文字が急激に書き換わる。
《規定外調整を確認》
《警告:試練を簡易処理に移行します》
「ほら、怒り始めた」
《装置の安全装置を作動させます》
ガコンッ!
床が沈み、奥の通路に続くプレートがせり上がった。
――また開いた。
「ハーハッハッハッ。調整ってのは楽をする方法を見つけるって意味なんだよ」
インベントリのツルハシを見る。
耐久値はミリ単位。
「あとワンパン分くらい。頼むぞ……」
通路を進むと、目の前に広大なホールが広がった。
空気は張り詰め、魔力が渦巻く。
奥にある円形舞台が青白く輝き、その中心には巨大な石像が静かに立っている。
ドラゴンを模した儀式像だ。
そして、足元に文字が浮かぶ。
《想定外の侵攻を確認》
《規定外攻略へのペナルティを開始》
「…………アレ?」
石碑の文字が赤く明滅し、ホール全体が低く唸った。
円形舞台に刻まれた紋様が蛇のように走り、儀式石像の足元へ集束していく。
クロは肩をすくめる。
「いやいやいや、ペナルティって言われても……俺、別に悪いことしてないよな?!
返答代わりに、洞窟そのものが震えた。
儀式石像の胴体に亀裂が走り、内部から眩い光が漏れ始める。
「うわ、絶対怒ってんじゃん」
パキン、と鋭い音。
石像の表面が外殻のように崩れ落ち、中から別の本体が姿を現す。
形はドラゴン。
ただし骨格と魔導機構がむき出しになった、自律兵器のような姿だ。
紫青の魔力が全身に脈動し、口腔部には儀式光がチャージされている。
《エリアボス:儀装竜・アルマ=ルクス》
「名前かっこよ!!」
クロのテンションは一瞬だけ上がったが──
《モード:ペナルティ》
《推奨人数:6~8》
《単独侵入を確認》
《難度係数を引き上げます》
今までのエリアボスの時には現れなかったウィンドウ。
「気のせいかもしれないけど!? めっちゃ怒ってるよね!?」
儀装竜の眼孔が赤熱。
頭部がわずかに持ち上がり、照準を合わせるようにクロへ向けられる。
魔力濃度、急上昇。
「……ふむ」
クロは軽く前傾姿勢を取る。
手にはまだギリギリ耐えているツルハシ。
「ボス戦か……」
儀装竜の背部ユニットが展開し、魔導翼が広がった。
発射寸前の輝き。
クロの黒い瞳に炎のような光が映る。
「上等」
次の瞬間、儀装竜が咆哮とともに魔力光線の予備動作を完了させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます