第35話 先に答に辿り着いたのは――
35 先に答に辿り着いたのは――
実の所、隔離空間と現実世界の時間の流れには、齟齬がある。
隔離世界で何百年と過ごそうと、現実世界では一秒も経過しない。
故に隔離空間で二年もの時間を過ごしている二人は、現実世界に戻れば元の時間軸に戻る。
二人の感覚で言うなら、メイビスとウエルブが戦死した後という事になるだろう。
だが実際は、異なる。
実は既に、ゾルダ人の滅亡まで、三分を切っている。
その事を知らないリーシャとジュジュは、自分にとって最後の戦いを大いに楽しむ。
今も猛攻を続ける〝レグゼム〟と、それを回避し続ける〝ドリグマ〟――。
やがてリーシャはこんな事を、言い出した。
《ねえ、ジュジュ――スローライフって知っている?》
《……スローライフ?》
断言するが、今も二人は殺し合っている最中だ。
だが、二年間ぶっ続けで戦い続けた二人には、無駄口をたたき合う余裕があった。
《ええ。
こうも忙しい私達が、何もかも捨てて、隠居暮らしの様な生活をするの。
それは本当に自由な時間で、私達を縛る物は、何もない。
好きな事だけして過ごせる私達は、きっと時間を持て余す様になる。
信じられないでしょう?
でも、もし私達がスローライフを送れるなら、これ程楽しい事は他にないと思わない?》
《……ああ》
それは本当に、ユメの様な、話だ。
リーシャと共に、好きな事が出来る。
仮にそんな事が叶うなら、それは本当に何物にもかえ難い事だろう。
だからこそそのユメは本当に美しく、自分達を魅了してやまないのだ。
《本当に、叶うといいな、スローライフ。
そうだ。
俺様達は、そもそも働き過ぎなのさ。
もうこの辺りで、楽隠居を決め込んでもいい》
《そうだね。
願わくは、二人一緒に引退したいところだけど――》
この時、リーシャ・レグゼムは淡く微笑む。
《――ああ。
そうもいかん、か。
俺様達には、背負っている物があり過ぎる》
ならば、今こそ、決着をつける時。
両者は心底からスローライフという物に憧れながら、意を決する。
ジュジュはこの時、その流れ弾を計算していなかった。
《つっ?》
一光年とは、光の速度でも一年かかる距離の事だ。
だが、リーシャの艦隊はその一光年先まで配置されている。
つまりその戦艦のビームは二年かけなければ、この場に到達しないと言う事。
現にそのビームは今この場に飛来し、油断していたジュジュの進路を阻む。
急停止した〝ドリグマ〟は更なる異常を、体験した。
あろう事か空間を球状で支配しているリーシャは、その空間を回転させたのだ。
ビームが一斉掃射されたその状態で、空間を回転させる。
つまりそれは、ビームの軌道が予測できない程、複雑になる事を意味していた。
空間自体を回転させるその業は、正に常軌を逸している。
ならば、その業さえ回避するジュジュ・ドリグマとは何者か?
リーシャは、こう予想する。
(恐らくジュジュは己の周囲に魔力を張り巡らせ、その中に入った異物を反射的に回避する。
その反応速度は、正しく私以上。
でも、これなら、どう?)
今、間違いなく〝ドリグマ〟は撃墜の危機にある。
それ位〝ドリグマ〟は体勢を崩されていた。
そこに止めの一撃が、放たれる。
『必中』を発動したリーシャは、ジュジュの最期を見届けようとする。
何せ『必中』とは、一種の呪いだ。
狙った対象を射抜く為なら、どの様な手段も行使する。
それを防ごうとする物体や、術さえ破壊して、その光線は標的に命中する。
いや。
質が悪いのは――その一撃は標的が死ぬまで命中し続ける点か。
ならば、この戦いは、ここまでだ。
例えジュジュ・ドリグマであろうと『必中』を躱す手段は、ない。
ましてや、最悪のタイミングで敵の必殺は放たれた。
だったら、彼はもう死ぬしかないではないか。
《な、に?》
《くっ!》
だが、ジュジュはその一撃さえ凌ぎ切る。
彼の異能は『貫通』だ。
彼の『貫通』は、あらゆる物を貫通して破壊する。
至近距離で放てば〝ドリグマ〟の装甲の固ささえ無視して、かの機体を崩壊させるだろう。
だが、それが『必中』に対抗できるカードなのか?
答えは――イエスだ。
〝ドリグマ〟はこの時『必中』の術式ごと貫通する。
術式が破壊された『必中』は、ただ破壊されるしかない。
いや。
敵が最高の策を以て自分の隙をついたという事は、敵もまた隙だらけという事。
いや。
この時、リーシャ・レグゼムは、ジュジュ・ドリグマより先にその境地に達した。
《そう、か》
《リーシャ――》
《本当に、私が求めていた物は――》
《――レグゼムぅぅぅ!》
《――ジュジュとのスローライフだった》
だが、数秒、遅い。
その時は、遂に訪れる。
途端――〝レグゼム〟に接近した〝ドリグマ〟は『貫通』を発動した。
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