第19話 空間がぁぁぁ、空間がぁぁぁぁ
19 空間がぁぁぁ、空間がぁぁぁぁ
「な、に?」
ワルキュールとザザンは――生身の状態で宇宙に投げ出される。
だが宇宙空間でも生存している二人は、何とか冷静さを保った。
「と、ここは私が頭の中で作った、疑似宇宙だから安心して。
二人はただ、巨兵化するイメージを浮かべてくれればいい。
さっきも言った通り、その状態でレベル一の私を倒せたら、今日の授業は終了ね」
疑似宇宙な為か、リーシャは普通に語り掛けてくる。
だが、五十万キロは先に居るリーシャの声が、ここまで届く筈がない。
やはりこれはある種のテレパシーみたいな物かと、ワルキュールは解釈した。
「わ、分かったよ。
だったら――先手必勝!
速攻で決めさせてもらう……!」
ワルキュールが、巨兵化する。
ザザンも無言で、それに倣う。
リーシャも一応巨兵化して、右腕を薙ぎ払う。
その時点でワルキュール達の巨兵は、一刀両断されていた。
「――はぁぁぁぁぁ?」
正に〝はぁぁぁぁぁ?〟な状況だった。
何せ速攻で撃墜されたのは、ワルキュール達の方だったのだから。
というか、五十万キロ先まで飛ばせるビームがある事を、ワルキュール達は知らない。
少なくとも彼女達の常識には、無い現象である。
だからこそ、彼女達はリーシャの攻撃を避ける、という発想さえなかった。
「え?
今の、何?
いえ。
確かに、ベルディウス軍に対しても、遠距離攻撃とかしていたけど――」
あの時は、二十万キロ先からの攻撃だった筈。
だと言うのに、レベル一のリーシャは、五十万キロ先から攻撃して、それを命中させた?
つまりリーシャはベルディウス軍と戦った時、レベル一の力さえ出していなかったのか?
「え?
まあ、そうだね。
レベル一以下の状態で戦っていたんだけど、それが何か?」
「………」
アホ過ぎる。
ある意味、アホ過ぎる。
一体この赤毛の少女は何者なのだと、ワルキュールは心底から疑問視した。
その間にも、再生した〝オゼ〟や〝エッド〟に対する攻撃は続く。
「アレ?
ちゃんと、避けないとダメだよ。
こんな攻撃、普通に避けられるでしょう?
だって――レベル一の業なんだし」
「………」
ダメだ。
この先生は無意識に、生徒のプライドを滅茶苦茶に破壊するタイプである。
まず自分がどれほど規格外な事をしているか、気づいていない。
ワルキュール達が、自分の攻撃に反応さえしていない事が、分かっていない。
よってワルキュールとザザンは、百度目の撃墜を経験する。
ここまで来て、ワルキュールは遂に絶叫した。
「――一寸待って!
ぶっちゃけ、私、先生の攻撃とかまるで見えていないから!
後、五十万キロ先から攻撃するって、絶対レベル一の力じゃない!
私が自分の間合いに先生を引き込むだけで、私は多分、千回は死んでいると思う!」
この意見を聴いた時、リーシャは本気で驚く。
「――えっ?
そう、なの?
……おかしいな。
私、ワルキュール達に、自信を持ってもらう為に、この授業を始めたんだけど」
「………」
つまりそれは、レベル一のリーシャにワルキュール達を圧勝させるつもりだったという事?
そうなればワルキュールの尊厳は回復されると、リーシャは思った?
だが、実際はこれだ。
ワルキュール達の実力では、レベル一のリーシャにさえまるで敵わない。
逆にリーシャは〝そんな筈はない〟とさえ思っている。
〝本当に何なんだよ、この先生は?〟と、ワルキュールは震撼した。
「……え?
本当に先生って、何者なの?
私が思っている以上に、ヤバい人――?」
と、この時口を開いたのは、ザザンも同じだった。
「というか、先生って今、どれだけ力を押さえているんです?
何分の一の力?」
「え?
多分、五千兆分の一以下の力かな?」
「………」
五千兆分の一以下の力で、この実力差?
ワルキュールがそう愕然としていると、ザザンは更に思わぬ事を言い始める。
「だったら、一度本気を出してみてください。
僕はぜひ、先生の本気が見てみたい」
「――は、いっ?
何っているの、あんたっ?
私は現時点で、プライドがズタズタなのよ!
その追い打ちをして、何の得があるっていうの――っ?」
ザザンは、ここでも冷静だ。
「いや。
だって、目標にしている人の本気位、知っておいた方がいいでしょう?
頂点がどこにあるか知らないと、僕達は一生、神様の掌に居る事になる。
それでは僕達も、モチベーションを保てないと思うんだ」
「………」
成る程。
確かにそれは、その通りかもしれない。
リーシャの本気を知れば、この出口が見えない暗闇に光明が見いだせるかも。
リーシャの力も無限ではなく有限なのだと知れば、精神的に楽になれる可能性がある。
ワルキュールはそう納得して、もう一度毅然としてみた。
「――わ、分かった。
なら、先生の本気とやらを、見せてもらおうじゃない……!」
「んん?
二人がそれでいいなら、私もいいけど」
これもリーシャとしては、軽い気持ちだ。
ただ彼女も、学習はしている。
例のヤバイ魔力は発散しない様に、リーシャは本気を出す。
途端、ザザンとワルキュールは、錯乱する事になる。
本当に意味が分からなくて、彼女達は思わず吐きそうになった。
〝一体なんだ、これは?〟と思いながら――ワルキュールは泣き叫んだ。
◇
「……確かに、僕は浅慮だったのかもしれない」
シミュレーションを終えた後、ザザン・エッドは呟く様に言う。
「あれだけドス黒い魔力を発する人の本気が見たい、と言った時点で僕は何かを間違えていた」
彼は明らかに後悔していたが、その様子はワルキュールに比べると、まだマシだ。
ワルキュール・オゼは両手で頭を抱え、俯きながら、涙さえ流す。
「……空間がぁぁぁ。
空間がぁぁぁぁぁぁ。
空間がぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ」
第三者が聴いたら意味不明な事を、ワルキュールは何度も何度も口にしていた。
この様子を見て、リーシャは首を傾げる。
「え?
もしかして二人も、発狂した?」
「やかましいわ。
まさか現代人にアレを見せるとは、俺様でも予想外だったぜ。
確かに、アレは酷いからな。
俺様でも、初見では意味不明な気分に陥ったわ。
それを素人同然の人間にかますとか、普通に発狂してもおかしくないぞ」
「そうなんだ?
でもジュジュは、普通に対応してきたじゃない。
私としては、そっちの方が驚きだったんだけど?」
「対応しなければ、普通に死ぬからな。
それこそ、死に物狂いで対応したさ。
だがこの二人は――いや、いい。
今は二人が立ち直るまで、待とう」
と、ザザンは比較的早く復調したが、ワルキュールは、そうはいかない。
彼女は結局三時間以上、何かに対して煩悶していた。
気が付けば――昼食の時間になっていたのだ。
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