第15話 授業開始!

     15 授業開始!


 ゾルダ連合政府が僅かに焦ったのは、ジュジュ達が全ての国家に挨拶をし終えた時だ。


 一月はかかるだろうと見込んでいたそれを、リーシャ達は五日程で終わらせてみせた。

 お陰で連合政府も、ジュジュ達の授業を受ける候補生の選出を急ぐ事になる。


 ジュジュ達はその後三日ほど自由な時間を送ったが、遂にその時を迎える事になった。

 連合政府は生徒の選出を終え、各国のエリート達が一堂に会したのだ。


 場所は、ある大学の教室。

 その教壇に立つのは、一組の男女。


 リーシャ・レグゼムとジュジュ・ドリグマは己が生徒達と対面し、教鞭を振るう事になる。


 ただその試みが成功するかは――まだ誰も知らない。


     ◇


「えー、皆様におかれましては、この授業にご参加いただき、誠にありがとうございます。

 私共は教鞭をとらせていただく、リーシャ・レグゼムと――」


「――ジュジュ・ドリグマだ」


 何時もと変わらない様子で、二人はまず生徒達に挨拶をする。

 片や生徒達は、それどころではない。


 美少女であるリーシャと、強面だが外見だけはいいジュジュを前にして、心が浮き立つ。

 あの美形な二人こそが世界を救った英雄なのかと、彼等は感嘆の声を上げていた。


 因みに、生徒の数は二百五十七名だ。


 なぜ二百五十七名なのかと言えば、答えは一つ。

 全ての国の為政者が――各国から一名ずつ生徒を出すと決めたから。


 この平等とも言える案は連合政府でも承認され、国が異なる人々が集められている。

 けれど既に翻訳機が開発されているこの時代において、言葉の壁は無い。


 初対面ながら気が合った者達は、気軽に会話を楽しんでいた。


 そんな中、いよいよ件の英雄達が姿を見せたのだ。


 生徒達の興奮は、高まるばかりである。


 その最中、金髪を背中に流す勝気そうな少女が、手を上げた。


「というか、質問。

 あの戦闘映像って、ガチなの? 

 戦意高揚の為、政府の方で加工した物じゃない? 

 何が言いたいかと言えば、マジであんた達は相応の実力があるかという事。

 私の先生になる資格がマジであるのか、先ず確認しておきたいんだけど?」


「ほう?」


 中々強気な娘だ。


 自分で言っている通り、彼女もジュジュ達とベルディウス軍の戦いは、映像で観ている。

 その上で本当に二人の実力は本物なのか、挑発的に問い質してきた。


 これは生きのいい子だと思い、リーシャは満悦する。


「えーと、あなたは――」


「――ワルキュール・オゼ。

 ミディア・アッシュ首相の――隠し子よ」


「………」


「例の会談では、母が随分お世話になった様ね。

 その仕返しという訳じゃないけど、私はまだあんた達の力に関しては懐疑的なの。

 そもそもなぜ一個人に過ぎない巨兵使いに、あんな真似が出来る? 

 その時点で、意味不明なんだけど」


「成る程。

 えっと、ワルキュールと呼んでもいい?」


「どうぞご勝手に」


 ワルキュールがにべもない返事をすると、やはりリーシャは微笑む。


「では、まず私達が戦闘時、何をしているか説明するね。

 という訳で、ジュジュ、解説してあげて」


「あ? 

 ……あ? 

 何で、俺様が? 

 こういうのは、明らかにリーシャの方が得意だろう?」


「やっぱり、思った通りなんだ? 

 私に、授業を完全に丸投げする気なのが、ジュジュなんだね?」


「………」


 ここでも、リーシャは笑顔を絶やさない。

 それが怒っている時の笑みだと、ジュジュは勿論心得ていた。


 だが、ジュジュが何かを言う前に、リーシャは説明に入る。


「私達が行っている事は、それほど大げさな事ではないよ。

 ただ自分と世界の繋ぎ目を、ゼロにしているだけ。

 世界が内包している力を、自分の手足の延長線上だと考えるの。

 自分の魔力と、世界自身が発している魔力を同調させる。

 その力を己に繋ぎとめる事で、私達は世界その物を、自身の力にする事が出来るの。

 一番近い言い方だと――外気功がそんな感じかな」


「……外気功?」


 と、現代人らしく生徒達は一斉にスマホで〝外気功〟という単語を検索する。

 調べてみれば確かに外気功とは、リーシャが言う通りの力だ。


 世界の気を自分の力の一部に変えるそれは、世界自身を己が武器に変える技術だ。

 だがこれは、完全なオカルトである。


 魔力と言う概念があるこの世界においても、外気功なる業を習得している人間は居ない。


 お陰でワルキュール・オゼの機嫌は、更に悪くなる。


「マジで、意味不明なんですけどー。

 本当にそんな力とか、ある? 

 適当な事を言って、誤魔化しているだけなんじゃねえ?」


 と、リーシャは益々喜ぶ。


「うん、うん。

 そうやって何事も疑うのは、いい姿勢だよ。

 何か現代は詐欺が蔓延しているっていうし、疑問を抱くのは本当に大事」


「………」


 感心するリーシャとは裏腹に、ワルキュールの猜疑心は刻一刻と増していく。

 彼女は基本、自分でみた事しか信じないタイプだ。


 いや。

 あの会談で母を侮辱されたと感じているワルキュールは、だから攻撃的だった。


「というか、皆も全然納得していないでしょう? 

 理解出来ない技術を、自分達はどうやって習得すればいいと疑問に思っている筈。

 だとしたら、こんな授業なんて意味がなくない? 

 少なくとも私はそう思うけど、皆の本音はどうなのさ――?」


 自分だけでなく周囲の人間も巻き込んで、ワルキュールはリーシャ達を困らせ様とする。


 いや。

 本当に彼女は、ジュジュ達を少し困らせたいだけだった。


 まだ十七歳の少女に過ぎない彼女は、優秀な反面、子供らしさも残っている。

 そんな彼女の企みは、こう報われる事になった。


「そうだね。

 ワルキュールの、言う通りだね。

 じゃあ、私がその力の一端を見せるよ。

 外気功を行った状態で、魔力を解放してみる。

 そうなれば少しは私達の力が分かってもらえると思う」


 リーシャとしては、本当に軽い気持ちで提案した事だ。

 断言するが、彼女には全く悪意はない。


 ただ、自分と他人を計る物差しが、おかしいだけ。

 その事を知らぬリーシャは、外気功を行いながら魔力の発散を行う。


 途端、この教室は――只の地獄と化した。

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