スナック【H後屋】
おじやん
記念すべき第一話(高倉和奏)
ここは日本の何処かにある、なんの変哲もないスナック。
強いて特徴を上げるとするならママであるアタシがオカマってことかしら。
ま、このご時世珍しくもないでしょう。え?それだけかって?そうねぇ…お客さんも面白い方いっぱい居るわよー?それ以上の情報は…残念好感度が足りないわね。いっぱいお店に来てくれたら教えてあ・げ・る♡
おっと、もうこんな時間じゃない。お店開けないとね。
掃除ヨシ。お酒ヨシ。つまみヨシ。うん、バッチリね。
それじゃ、お店を開けましょうか。いったい今日はどんな子がやってくるのかしら。
アタシはスタスタと出入口に近付き、外に掛けてある《CLOSE》を《OPEN》にひっくり返そうと扉を開けると、一人の女性と目が合った。
「あ、ママ」
「あらわかなちゃん。お待たせしちゃったかしら?」
「ううん、今来た所だから大丈夫だよ」
「あらそう?取り敢えず入って入って。手荷物貰うわよ?」
「ありがとママ」
ささっと板を返してわかなちゃんを中へと迎え入れ、店の隅から持ってきた手荷物を入れたかごをわかなちゃんが座ったカウンター席の下へ置く。そして、くるりと美しいターンを行いカウンターの中へ。
「今日は何飲む?」
「キープしてた芋焼酎の水割り氷なしと、前出してもらったそら豆ってまだある?」
「塩ゆでのやつ?あるわよ」
「じゃあそれでお願い」
「はぁい」
それじゃ、準備する間にこの子の紹介しちゃうわね。
この子の名前は
今から1年位前に初めて来店してもらって、週に1~2回くらいのペースでお酒を飲みに来てくれるわ。あと特徴を挙げるとするなら…これは見てもらった方が早いわね。
「はい、芋焼酎水割りとそら豆ね」
「ありがと」
彼女が感謝をしてグラスを掴み、柔らかな唇を飲み口に当てると…。
ゴキュキュキュキュキュキュキュ
グラスの中身が一瞬で無くなった。
「ぷはー。これで喉が潤ったわ。おかわり」
「相変わらずねぇ。」
これよこれ。見てて気持ちがいいわねぇ。わかなちゃんは必ず1杯は速攻で飲み干すのよ。あんまりマナーはよろしくないかもだけどウチはOK!
「ねぇねぇママ、ちょっと相談なんだけど…」
「なぁに?」
おっと、記念すべき第一話の相談ね。大事な出発点だからしっかりと答えて満足してもらわないとね。ママ頑張っちゃうぞ♡
「最近性欲ヤバいんだけど」
「お前記念すべき一話目が性欲の話とか許されると思っとるんか?」
ねえ今そのバリバリ清楚な見た目から一発目で性欲の話題出たの?脳みそバグりそうなんだけど。ジャブだと思ったら強烈なボディー喰らったんだけど?
「じゃあこの店の名前は?」
「………スナックH後屋」
「異論は?」
「ありませぇん」
くっ、語呂が良くてなんか面白いって理由でこの名前にするんじゃ無かったわ。
「で、話を戻すんだけど」
「ああ、戻しちゃうのね。二度と戻らなくて良かったのに」
裏手に埋めて置いてあげるわよ。
「最近ご無沙汰だからさ、ホントヤバい」
「そ、そうなのね」
「仕事忙しくて全然ないの」
そう!何を隠そうわかなちゃんはしごできで後輩思いのいい子なのだ!偶に終電逃したりしてるからウチ泊めてあげたりしてるわよ。是非出世して報われて欲しいわ。そしていっぱいお金落としてね♡
「社内恋愛とかは?最近あったじゃないそんなドラマ。わかなちゃん綺麗だし彼氏なんてすぐ出来るわよ」
「ダメダメ。恋愛は今お呼びじゃないんだよ。おかわり、同じのね」
「はぁい。恋愛はお呼びじゃないとか、これを聴いたら会社の男性陣はガッカリしちゃうわね」
わかなちゃんは新しく注いだお酒を一口飲んで天を仰ぐ。お店の天井を見ながら大きなため息を吐くと両腕をだらりと垂れ下げながら言い放った。
「ぶっちゃけるとセフレが欲しい」
「ぶっちゃけ過ぎじゃない!?」
男性陣ガッカリ超えて幻滅でしょ。なんだこのビ○チは。
「ママ、お店の名前は?」
「いいわよ続けなさい」
「会社の人と身体の関係とか絶対面倒な事になると思うんだよ」
「うーんそうねぇ周りにバレた場合を考えちゃうとねぇ。意外と分かるわよ?雰囲気も変わるし二人っきりでの飲み会とか結構バレるんだから。セフレ解消した後なんて気まずいし」
わかなちゃんは身体をすっと戻すと、テーブルに肘を載せて顔の前で手を組んだ。
「やけに詳しいね、体験談?」
「ぶっとばすわよ?」
今度はアタシが強烈なボディーをお見舞いする番ね。シュッ!シュッ!
「あと絶対に一人だけとか無理。何人も欲しい。毎日3回はしたい。でもおじさんは嫌」
「節操がなさすぎるし性欲が強すぎる」
まぁ性欲なんて個人差だし、上手く付き合っていけるのが一番いいわ。生まれ持った欲の強さはどうしようも出来ないものね。
「会社で複数人と関係持ってそれがもしもバレたら絶対おじさん来るじゃん。あ、そういえば後輩の藤田君のチ○ポがクソデカいって話は聞いたよ」
「どっからの情報よ」
「同期が藤田君と寝た」
「あまりにも信憑性に富み過ぎているし早速バレている」
「ちなみに同期は部長とも寝たらしいよ」
「わかなちゃんの進化系いるじゃん。いやら進化してんじゃん」
ほしがるにしめつけるしてみだれづきからのタネばくだんで藤田くんも部長もひんしにしたんでしょう!セクモ○!ゲットだぜ!
「ま、やっぱり相性だからね、デカいと痛いだけだし。」
「それには同意だけど…性欲の解消が目的なのよね?やっぱりオモチャではダメなの?」
「まったく、分かってないなぁ」
やれやれと頭を振りながら肩をすくめる。右手にそら豆が乗っており、それに気付いたわかなちゃんはひょいと口に放り込み、キメ顔で言う。
「あのねママ、私はチ○ポが欲しい訳じゃないの。セフレが欲しいの」
「取り敢えず何が違うか聞くわね」
何かしら、人肌を感じたいとか、ぬくもり的な感じかしら。
「だって、デ○ルドは止めようと思ったら止まるの!もうダメ無理…ってなってからが本番なのにもう私動けないんだから!挿れたら勝手に抜けるし、電マもそう!腰逃げちゃうし腕疲れちゃうんだもん!いじめ抜いて欲しいの!分かる!?」
この子は一体何を力説してるのよ…。あらもう顔赤いじゃない。興奮していつもより早く酔いが回っちゃったのね。この事思い出して後悔しなければいいのだけど。
「だから自分が動けなくても動いて欲しいってわけ!」
「ならバイブ固定ベルトとかピストンマシンとかでは駄目だったの?」
するとさっきまで喚き散らしていたのが嘘かのように静かになった。整っている赤い顔が真っ直ぐにアタシを見据える。
「………ママ、その話詳しく」
でもその顔で聞くのがアダルトグッズなのよねぇ!
「えぇ…と言っても名前の通りよ?ベルトに電マとかディ○ドを固定して外れなくするのよ。手足を何処かに固定したり縛っちゃえば自分では外せなくなるからSMに使われたりするわ。というか、そもそも抜けないバイブとかあるじゃない?それは試してみたの?」
「ママ」
うわすっごい真剣な顔。でも何故か瞳の奥に溢れんばかりの光が見えるわ。無視したい。
「なんか物凄く嫌な予感するけどお客様だからね、一応聞くわね。なぁに?」
「営業終わったら一緒にオモチャ屋さん行かない?」
「ぜったい嫌よ!」
「そこをなんとか!宿泊費いつもの倍出すから!」
「嫌!」
その日の深夜、オモチャ屋でオカマとOLのペアが観測された。
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