第9話

 傭兵団の列の最後尾。俺はずっと、盾を持たない騎士の背中を見ていた。

 【契約可能:対象 騎士:ゾルド】


 ウィンドウを開いた瞬間、詳細が浮かび上がる。


 ――剣術:標準。

 ――盾術:使用不可。

 ――特殊:魔法障壁(未解放)。


 「……やっぱり、今のままじゃ全く使えない」

 タンク役であるはずの騎士が盾を持てないなんて致命的だ。

 この世界のルールで、職業に合わない武器は体に拒絶される。

 盾を持てない騎士など、誰も後ろにつこうとしない。

 その証拠に、彼の背中は仲間に守られることもなく、孤独に走っている。


 俺は唇を噛んだ。


 「……こいつを仲間にすれば、俺の経験値ポイントを全部つぎ込むことになる。

 そうすれば“魔法障壁”を解放できるかもしれない。

 でも、その間はリリアもイーリも経験値ゼロだ。しばらくただ働きになる……」


 胸の奥で葛藤が渦巻く。

 リリアとイーリを犠牲にしてまで、未知数の“盾なし騎士”を育てる価値があるのか?

 だが、今後を考えれば……タンクは絶対に必要だ。


 そんなとき、明るい声が背後から届いた。


 「アンタの好きにせーや。ウチらはアンタを信じとる」

 振り返ると、リリアがにっと笑っていた。


 「はい、私もです」

 イーリも真っ直ぐな瞳で頷く。


 「……しばらく経験値なしになるぞ」

 俺は思わず念を押した。


 「問題あらへん!」

 「はい!」


 その声に、胸の迷いが吹き飛んだ。


 「……よし。決めた」


 俺は盾なしの青年の前に立ち、声をかけた。

 「おい、あんた。俺と契約しないか?」


 青年は目を丸くした。

 「……俺を? 無能な俺を、どうするつもりだ?」


 俺は真っ直ぐに答える。

 「無能なんかじゃない。ただ育ってないだけだ。俺には考えがある」


 そのとき、ウィンドウが光を放った。

 【契約しますか? YES/NO】


 青年は長く黙り込み、やがてぽつりと呟いた。

 「……騙されてもいいか。どうせ俺にはもう何もない」

 そして――頷いた。


 光の輪が彼を包み込み、新たなユニットが追加された。

 【騎士:ゾルド(剣士・障壁適性あり)】


 「……ゾルド。それが俺の名だ」

 「俺は鈴木たける。よろしくな、ゾルド」

 「ウチはリリアや! 獣人やけど、まぁ見たまんまやな」

 「私はイーリ。魔法使い……補助専門だけど」


 ゾルドは驚いたように三人を見渡し、わずかに笑みを浮かべた。

 「……名前を呼ばれたのは、久しぶりだな」


☆☆☆


 俺は【再現戦闘】を選んだ。効率がいいのは、昨日の盾騎士戦だ。


 「リリア、丘の上だ!」

 「任しとき!」

 「イーリはスロー! ……それとアーマーダウンも!」

 「はい!」


 そして最後に、俺はゾルドを前線のマスへとスライドさせた。

 「行け、ゾルド!」


 光に包まれた彼が戦場に現れる。

 剣を構える姿は勇ましい。だが防御の手段がなく、敵の攻撃をまともに浴びてしまう。


 ドゴォッ!

 「ぐっ……!」

 HPゲージが一気に削れ――0に到達した瞬間、ゾルドの姿が光の破片のように弾けて消えた。


 「……やっぱり今のままじゃ無理か」

 俺は拳を握りしめた。


 【戦闘終了】

 ウィンドウに、経験値ポイントが加算されていく。ゾルドが消えたとしても、戦闘で得た分はちゃんと入っている。


 「戦闘に出せるのは一度きり……消えても、経験値は無駄にならない。なら、周回で育てるしかない」


 俺はためらわず、ゾルドにポイントを注ぎ込んだ。


その日から俺たちは、ゾルドを鍛えるための周回を始めた。

 戦場に出せるのは一日に三回まで。

 HP0になれば光の破片となって消えるが、それでも経験値はしっかりと蓄積されていった。


 「……ぐっ!」

 ゾルドが敵の槍を受け、光となって弾ける。

 俺は戦闘終了後、迷いなく彼にポイントを振り分けた。


 リリアとイーリに経験値を与える余裕はない。

 それでも二人は不満を口にせず、黙々と支えてくれた。


 「アンタの好きにせーや」

 「はい、タケルの判断でいいです」

 その言葉に、俺は歯を食いしばりながらゾルドを育て続けた。


 そして数日が過ぎ――気づけば一週間。

 ゾルドは何度も戦場でHP0になっては消え、再び戦場に送り出される日々を繰り返した。

 その度に経験値を注ぎ込んだ結果、ついにレベル15に到達する。


 【スキル解放:魔法障壁】


 ゾルドの体から光の膜が展開し、半透明の障壁が前方を覆った。

 敵の矢が障壁に弾かれ、火球が当たってもかき消される。


 「……これが、俺の……盾」

 ゾルドの瞳が震えていた。


 「そうだ。お前は盾を持たない騎士じゃない。盾を纏う騎士だ!」

 俺は拳を握りしめ、声を張り上げた。


 リリアが尻尾を振りながら大笑いする。

 「やるやん、ゾルド! アンタ、これからは“盾なし”やなくて“最強の盾”や!」

 イーリも笑顔で頷く。

 「うん、ほんとに……強いよ」


 ゾルドは静かに剣を掲げた。

 「……ありがとう。俺は、やっと騎士になれた気がする」

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