ダイヤ編
第19話:イドちゃんの過去
人物ファイルにあるお姉さんのページを読んで、閉じた。
なんか、腑に落ちちゃったのが嫌になる。
私よりずっと美人だけど、おとなしそうな雰囲気は似ていた。
多分、イドちゃんが妙に甘えてくるのは、単に姉代わりだったってだけ。
確かに、妹がいたらこんな感じなのかなって思うことはあったけど、なんていうか、パートナーって関係性ではあったと思っていたのに。
そんなことを、姉を亡くしていた事実よりも大きく捉えているじめじめした自分にも嫌になる。
「お姉さん、二つ上なんだね」
「そうです」
「良子さんっていうんだ」
「はい。『りょうちゃん』って呼んでいました」
そっか。「
すでに「りょうちゃん」がいたからなんだ。
だったら「
「仲はよかったの?」
「よかったと、少なくとも私は思っています。誰も幽霊が視えることを信じてくれないなかで、唯一信じてくれた存在ですから。ダイヤの世話もりょうちゃんと協力していました。散歩は交代制で、掃除はマメに、ブラッシングはどっちがするかで喧嘩したこともありましたね。懐かしいです」
過去を馳せるように睫毛が伏せられる。
「ダイヤが行方不明になったのは小学三年生のときです」
その睫毛が、沈んだ。
「もちろん、すごく落ち込みました。特に、りょうちゃんは」
うつむいた顔にかける言葉選びは、難しい。
「散歩は交代制って言っていたよね。その日はりょうちゃんが担当だったの?」
「そうです。リードを持つ手をうっかり緩めてしまって、駆けて行ってしまったそうです。戻ってくると信じていましたが……」
七年も経っている。生きているって考えるのは、さすがに楽観的。
「実は、まだそのときは、頑張れば動物霊が視えるかもって思っていたんです。手段さえあれば。交霊会からの勧誘を受けて入会したのは、小学四年生のときです」
交霊会がイドちゃんを引き入れるために行方不明にしたって可能性は……ないか。それならイドちゃんが散歩しているときを狙うほうが効果的なはず。
「交霊会からの学習支援はすごく頑張りました。考えたくはありませんでしたが、万が一、ダイヤが霊になっていたとしても、動物霊が視えるようになっていれば会えると思いましたから。ボランティアにも積極的に参加して、浄化のいろはまで覚えました。ただ、私には、素質がなかったんです」
「素質?」
「はい。学習支援やボランティアを通して、私のことを調べてくれたんだと思います。交霊会から直々に言われました。少なくとも、生きている間に動物霊が視えるようになることはないって。これは、小学六年生のときですね」
小六。ちょっと待って。確か、人物ファイルには……。
「リーちゃん先輩は凄いです。多分、考えているとおりです」
ページをめくろうとした手が止まった。
イドちゃんが小六のとき、お姉さんは二つ上だから中二。
お姉さんの生い立ちはそこで止まっていたはず。不慮の事故のせいで。
「柔らかい表現を使えば、絶望、ですね。ダイヤには会えないと分かって、姉も失いましたから。調査をお願いして、りょうちゃんが霊となっていたことが分かって、無指定に区分されたのですが、未だに会えてはいません」
「無指定って分かったのに会えないの?」
「居場所が不特定とのことでした。一度見つけて、そのあと見失ってしまったのかもしれません」
不特定、か。
「中学生になったあたりで、交霊会からは動物霊が視える人に頼むべきだと言われました。そのときに動物霊が視える人の人物ファイルをもらったんです。でも、素性調査という形で、観察した結果をレポートに書くことくらいしかできなかったんです。私は無気力になっていて、不登校にまでなっていましたから」
イドちゃんが、不登校……?
「びっくりしましたか?」
した。したけど。
「どうしてそんな明るく言えるの?」
「まさに今、願いが叶っているからです」
「今?」
イドちゃんは頷いた。
「いろんな方を観察しているうちにひらめいたんです。動物霊が視える人と組んで、私自身から依頼すればいいと。動物霊が視える人と幽霊が視える自分がいたら、目で視えなくても全員が再会できます。自分の力を活かせるわけですから、今までの努力も無駄になりません」
「それで目をつけたのが、私?」
「そうです」
なんて明るくて、残酷な笑顔なんだろう。
姉代わりどころか、仲介役でしかなかったんだ、私。
でも、だから引き受けない、なんて断るのは性に合っていない。
決めたんだから。誰をも救う存在になるって。
たとえ、心にもやもやしたものがあったとしても。
「そもそも、動物霊になっていることは確認できているの?」
「確かめられたわけではないです。ただ、行方不明になった動物は、飼い主に会えない寂しさを抱えて霊になることが多いと聞きました。なので、ダイヤも私とりょうちゃんに会えば浄化されると思っています」
「じゃあ、まずは探すところからかな。見つけ出そうね、絶対」
「はい!」
そう言い交わしたのに、イドちゃんはいなくなった。
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