辺境侯はかく語りき


「小型ダンジョンになってくると、近隣の村が負担の割に得られるものが無さすぎるって問題もある」

「それは確かに」

「だから、どの村が依頼を出すかで揉める」

「なるほど……」


 ネイトは肩をすくめ、げんなりしていた。私も絶対微妙な顔してるわこれ。

 水利権ならぬダンジョン利権とはこのことか……。確かに冒険者の滞在費、払う報酬を考えたら全然赤字に決まってるよな。公共系はどうにか調整出来ないかな。考えとこ。


「俺達側も気まずいしな」

「あんな感じの奴、軍でどうにか出来ないの?」

「……難しいですね」

「そうなの?」

「えぇ。戦費が掛かり過ぎます」

「どういうことでしょうか?」


 ダリア、ケイシーが?になってますね。ちょっと混乱させてる感じが。いや実際さ、戦費が掛かるんですよ。パーティー四人が自由に動くのと、分隊を動員して動くのは違うんです。


「食料、給料、その他依頼管理。恐らく、冒険者の数倍は掛かります」

「そうなんだ……」

「数を絞ればよろしいのでは?」

「絞ると、冒険者の方が強いんですよ」

「あぁ……」


 軍隊の強さは数と統制にあるからなぁ。数が少なくなれば、統制があっても個人技で負けちゃうのよ。そりゃ前世の特殊部隊レベルになってくると話は違うけどさ。連れてきた魔法銃兵はめちゃめちゃ訓練させて強いけど、今度は強すぎて依頼のレベルに合わないんだよね。遠くで遊ばせてらんないし。


「小回りが効き辛いのが軍隊なんです」

「そうかぁ……」

「動員は無理ですが、依頼の負担額は掛け合ってみましょう」

「……出来るんですか?」

「勿論」


 雑に増やすと不正が増えるから、こっちもめんどいんだよなぁ。存在しないダンジョンが死ぬほど増えそう。依頼補助金の不正受給とかありそうでしかねぇ。

 てか、やっぱり私を信じてないっすねぇ、皆さん。実権無い貴族令嬢にしか見えないよね、そりゃ。まぁ詳しく身分話してない私が悪いんだけどさ。でも、こうしないと生の意見が聞けないんだもん。許して~。


「他はどうです?別にギルド関連以外でも、構いませんよ」

「そうだなぁ……」

「では、私からよろしいですか?」


 悩むケネスを尻目に、ダリアが手を挙げた。私は無言で目線を向けて頷いた。どうぞ~。


「リードラル様は、貴族についてどうお考えですか?」


 真剣な顔でこっちを見てくるダリア。質問の範囲広くね?ちょっと絞るか。


「責任的なお話ですか?」

「はい。失礼ながら、シリッサの貴族は責をこなしていないように見えます」


 おっ貴族批判か。私以外に言ったら終わってたと思うけど、そこを見誤るようには……見えるかもしれない。だってネイトもケイシーも滅茶苦茶焦ってるもんこれ。


「ダリア、駄目だ」

「止めときなよ」

「嫌です」


 聖職特有の真面目さが出てるような気がしますね。先生、私が絶対怒らないのをいい事に静観してますね?一人だけ、面白い質問してるな~って思ってそうなのが見えてますよ。こいつ。

 私は手を組み、少しだけ考える。シリッサの貴族、全員が腐敗してるとは思えない。でも、上は粗方全滅っぽいからなぁ。言いたいことは分かるっちゃ分かるんだよね。


「難しい話です。私はシリッサに長く居る訳ではありませんから」

「では、シリッサに限らずとも」

「ダリア」

「嫌です」


 語気強いなぁ。どうやら本気らしい。今日が初めてですって言ったらバレそうだし、なんかふわっとさせとこ。

 てか、質問の意図が見えないっすね。どうしたら働くのか?それとも、本当に働いてるの?って話なのか。


「質問の意図としては、貴族は本当に働いているのか?という話でしょうか?」

「……そう捉えて頂いて構いません」


 攻めるねぇ。ネイトとケイシーが立って窓に寄ってる。不敬で捕まりそうになったら窓割って逃げる気だろこれ。二階ですよここ。てか、直衛相手に逃げるのは無理だと思うよ。


「まず、明言しましょうか。私はこの質問を不敬と捉えません。故に、逃げる準備は不要です」

「ソフィア様は、この程度で捕まえるような方ではありませんから」

「本当か……?」

「この程度で捕らえるなら、先生は永遠に檻の中です」

「そそ、そんなに失礼してますか……?」

「私は気にしてませんから」

「それ、失礼しまくってるって事じゃない……」


 先生は冷や汗ダラダラで、色々と思い出しているのだろう。視線をあっちこっちに振り回している。

 二人はその様子を見て、窓側から元の椅子へと戻った。流石先生、パーティーの潤滑油ですね。


「話を戻しましょう。どちらも居る、というのが私の結論です」

「どちらも居る、ですか」

「ただし、働いてない貴族の方が目に入りやすい」

「なるほど?」


 働いてない貴族って暇なんすよ。やることないから街に出て、店とか行く訳じゃん。ちゃんと働いてると毎日店を冷やかしてる暇はないんで、そもそも遭遇率が低いって言う。後、働いてるタイミングで平民と会わないって話もある。


「そも、貴族には優雅たれという前提もあります」

「優雅たれ?」

「はい。努力や苦しんでいるところを見せない、言わば美徳ですね」

「それは、分かるかもしれません」


 まぁ聖職者もそうだよね。笑顔で愛を願う、苦しみも悩みも受け入れながら。近い部分は間違いなくあると思います。私たちは優雅で贅を誇り、苦しみや悩みを責任とする。う~ん、同じか。


「ですから、全員働いてないように見えるのは当然なんです」

「でも、実際に働かない貴族も居ますよね?」

「えぇ。ですが、それにも背景があります」


 失脚して権限ゼロの貴族にされてるとか、そもそも傀儡化されてて無理、次男以降のスペアで据え置きされてるから暇、みたいな感じで色々パターンはある。

 結局、どう見るかなんだよな。ベスト尽くしてなくね?と言われれば難しいけど、環境的にベスト尽くせなくね?っていう話で。


「背景……」

「権限無し、傀儡化も普通にある世界なので……」

「そもそも個人では、どうしようもないと?」

「そういう事もあります。ま、ただ責任を放棄している貴族も居ますが」


 そういうのは西方鎮圧の時に結構潰したからな。職務怠慢が許されるのは平民までっすよ。てか、経済的な損失がデカすぎるから無理。せめてやった上でサボるとかにしてくれ、それならいいから。

 あ、汚職は論外です。百害あって一利なし、王国大法に違反するってことは、罪に問われて裁かれるってことですからね。


「リードラル様は」

「?」

「どのような貴族を目指しておられますか?」

「どんな貴族……?」

「はい」


 いやそんな理想とかないです。むしろやりたくないっす。やれやれ言われてるからやってるだけで、人を統治する事に対しては何の野望も無いです。でもこれ言えないよなぁ。なんかいい感じに出来ないか……?


「許せる貴族、ですかね」

「というと?」

「人は自身が何かに縛られている時ほど、他者の自由を許せないものです」

「そう、ですね」

「しかし、自由は一つの側面でしかない訳です」

「ふむ……」

「縛られているが、自由。自由だが、縛られている。どっちでもあるんです」

「なるほど」


 まぁ、結局どこからどう見るかで変わりますからね。他者を許せないのだって、正しさよりも自分の感情が優先されてるってこともあるから。


「故に他者の自由を許せる。そして、自分の自由も許せる貴族でありたいですね。無論、義務は果たした上で、ですけど」

「……ありがとうございます。貴女のお陰で、貴族を見る目が変わりそうです」

「構いませんよ。このような問答に答えるのもまた、貴族の責任です」

「重ねて感謝を」


 深々と頭を下げるダリアを何となく眺める。なんか、いい感じにしめれたようで何よりです。ま、それでも消さなきゃいけないものは消さなきゃいけないんですけど。自由と抑圧は両立するから、多分。


「ソフィア様……」

「先生?」


 何かうるうるしてません?大丈夫そ?ネイトとケイシーはポカーンってなってますね。えっ何すか、話しただけっすよ。


「ソフィア様!!」

「ぐぇ!」


 先生が抱きしめてきた!力がなんか強い!私のか弱い身体がちょっと悲鳴上げてます。あの、痛いっす。私ちっちゃいから包み込まれてますね。あったけ~。

 周りが見えませんけど、絶対暖かい目で見られてんだろうなぁ。とか思いながら顔を上げる。数滴、涙が私の顔へと落ちてきた。泣いてらっしゃる?どうして。


「そうですよ!許していいんです!」

「……先生」


 そうか、先生も許せなかったから。完璧に縛られていた私たち。少しずつでも許していけたらいいなってのが、私の奥底にあったんだろうな。

 自分の所業について思う所が無い訳じゃない。粛清や解任も、やりたくてやる訳じゃないから。優しくありたいが、人は優しさで自分を律する事が出来ない。この辺は複雑なんだよね、私も。


「……私、嬉しいです」

「そんなにですか?」

「そんなにです」


 正直、そこまでの話なのか私にはよく分からなかった。でもまぁ、先生が喜んでくれてるならいいかと思って、とりあえず考えるのをやめました。ちょっとした薬品と安心感のある花の香りが、私の思考を停止の方に持って行ってくれる。眠くなってきちゃうな。

 先生の表情は影になって見えづらかったけど、優しさと嬉しさがごちゃ混ぜになっていたのは間違いなかった。私は珍しく、優しげな顔をしてたと思う。体感で目じり下がってたし。


「……アイヴィー、入れ込み過ぎじゃない?」

「間違いない、アレは相当だぞ……」

「…………」


 しばらくそのまま、特に何も言われず言わずで抱きしめられていました。人前なんですけど、一応。まぁでもいいか、先生だし。マントのお陰であったか~い。

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