第19話 神話とのリンク

 何でもないように見えるのは、何でもないふりをしているからだ。

 彼らの場合は、全員くらいがそうだ。


 二年七組。

 その教室の真ん中辺りを陣取っているのは、学年の幹部達。


 今回は特に何か議題などがあるわけでもなく、用事すらない談笑のための集りだ。


「それでー・・・」


 プレイステイションの新しいヴァージョンが出るとか、満が言っている時だった。

 棗の携帯のバイブレーション機能が働く。

 彼はポケットに携帯電話を入れる癖があって、意外そうな顔をして携帯電話にかまった。


【こんにちは。昼休みですね。お食事中ですか?三浦樹理です。また夢を見ました。まさかと思って調べてみたら、『リン』っていう女の子にいきつきました。北欧神話に出てくるようです】


【何神話って書いてある?】


【ほくおうしんわ、です】


【ああ、解った。で?】


【オーディンの妻フリッグの侍女 だと言われている、だそうです】


【誰情報?】


【久也君です】


【ああ、前に聞いた】


【北欧神話なら、ルシファーじゃなくて、ロキだって久也君が言っていたので、何か心当たりないかなぁって思ってメールしてます】


【ロキ?イタズラ好き】


【何で知ってるんです?】


【ゲームのキャラクターでそんな名前のがいたけど、それ?】


【分かりません・・・】


【俺も夢を見た。リンがいなくなる夢だった】


【どこに?】


【どこにもいない、夢を見た】


 一分ほどで返って来ていた返事だったが、次の返事は五分ほどの間になった。


【さびしかったですか?】


 棗はしばらく、携帯画面を見つめた。

 自動で暗くなる画面。

 ボタンを押して、また明るくする。


【さびしいなんて、ものじゃない・・・】



「棗?」

「ん?」



 棗は携帯電話の画面から目を離し、満を見た。


「何?」

「何?はこっちだよ。どったの?」


「いや、最近・・・変な夢を見てて・・・三浦もそうなんだ」

「ジュニア?」

「そう」


 数秒の沈黙。

 満が何かを言いかけた時だった。


「俺はにゃんこの夢を見る」


 皆が葉介を見た。


「に・・・にゃんこっ・・・」


 相楽考司が、飲んでいた牛乳を思わず口から吹き出した。


「きっ、たねっ。何だよっ」


 考司は必死で口を押さえ、かぶりを振る。


「葉介から『にゃんこ』は意外な単語だが、俺はあえて、笑うの我慢だ」


 棗が少しにやつきながらも、冷静を装って言った。


「じゃあ、てめぇも牛乳口にふくんでみろっ・・」


「牛乳口にふくむ、っていう行為じたいがマジウケるから、かんべん」




 * * *




 珍しくなってきた折り畳みじゃない携帯電話をあえて使っている久也。

 機種が違うと、絵文字が通じないのが難点だ。


 学校の廊下。

 

 彼は携帯電話のアンテナ部分を無意識に噛んだ。

 考え事をする時に、何かを噛むのが久也の癖だ。


 メールを打つ。

 宛先人は・・・三浦樹理。


「やっほー。樹理ちゃん。その、同じ夢を見てるかもしれない人物について質問、っと」


 一分ほどで返事が返ってくる。


【何?】


【そいつはルシファーの夢を見るんだね?危なくない??】


【悪魔崇拝とかはしてない、って前にメールで聞いた】


【ああ、そう・・・彼の名前は何て言うの?】


【広瀬棗】


「ひろせ・・・何て読むんだ・・・?」


 ベルが鳴った。

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