第10話 感染拡大②(2025年11月)

~私の調査メモ~

感染症は拡大を続けています。もう病院では対応のしようがない…。「あの場所」へ行くしかないのかもしれないけど…。カイト君に謝らなきゃ…


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カイト君と別れて数日後。

謎の奇病による搬送患者の数は減りません。

それどころか、先日とは比較に出来ない程の発症者数になっています。

突然発狂し、病院に運ばれる。

搬送された頃には、既に意識不明の重体か、自らの身体を傷付けて死亡しているか。そのどちらかです。


全身血まみれで、喉元からドクドクと血を流し続ける患者。

息も絶え絶えながら身を掻き毟り、残された力でヒューヒューとした声を出し続ける患者。

その姿に、人としての尊厳は、既にありません。

そして、治療として私達に出来ることも、何もありません。

体を拭い傷を誤魔化す死後処置だけを淡々と行います。


体液が流れ出さないように、人体の穴という穴に綿を詰め込む私。

生体反応の消えた死者の喉元の傷を修復する私。

恐怖にかられた表情のまま死後硬直した死者の瞼を無理矢理閉じる私。

死者の中には、私に【おじさん】の事を教えてくれた女子高生もいました。無残な死に様でした。


いずれ、私も、こうなるのかもしれない。

脳を掻き回されて突然発狂し自らの身体を切り裂き傷付け、死に至る病。

そこから逃れる術があるのでしょうか?

今、この瞬間、脳を破壊する頭痛が生じるかもしれません。

その恐怖から、逃れる術はあるのでしょうか?


…。

あります。

【おじさん】の故郷。

【呪われた血】の発祥の地。

そこに行けば、この奇病の謎が解ける。

もしかしたら、助かるかもしれない。

その村の場所のメモは、カイト君が持っています。

彼の知識と洞察力。そして、村の存在。

それだけが、最後の希望でした。


彼は、どんな事態になっても、考えることをやめずに、私に行動を促してきました。

そんな彼の言動力あったからこそ、答えまで後一歩のところまで来れたのです。。

私には…なんとも情けないことですが…彼の助けが必要でした。


カイト君が私に見せようとしたサイト…『水とペスト』

そこには、こんな文章が示されていました。

『1875年。欧州三度目のペスト流行で人類は遂に疫病の正体に辿り着く。ネズミが感染の媒介である事を突き止た人類から、病は空気中の「瘴気」が原因と言う通説は消え去った。

 今でこそ常識となっている「伝染病」の考え方はここで確立した。そして同時に現在の様な「清潔」と言う概念が生まれたのである。

当時の欧州では衛生概念が乏しかった。

その時代の間違った衛生観念の一つが「香を焚く」ことである。

不潔は悪臭を伴う。当時の人はこれこそ疫病の正体である「瘴気」と信じ、悪臭を香りで打ち消せばペストが去ると考えた。

だが、香を焚く行為は感染症の対策には全く意味を為さない。

真の感染源は、鼠と、鼠が触れる水、である。

「香を焚く」行為が感染を防げると信じた民衆は、真の感染の温床である水の汚染には全く無頓着であった。

むしろ、清潔への考えを歪め、ペストを更に拡大させる一躍を担ってしまったのだ。

誤った衛生観念で疫病の本質を見失い、疫病を避けようとする行為が更なる感染を広める負の連鎖を引き起こしたのである。』 


この内容が示すこと。それはつまり…。

『常識を疑え』

そういうことか。

カイト君が、医師に言いたかったのは、この事なのだろう。

けれど何故、あの時カイト君は、何故医師にこの可能性を詳しく伝えなかったのだろうか。

緊張…以外の理由があった?

または、信じてくれるはずがないから?


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