第10話 秘書って何
――まさか、本当に「秘書」なんて役職を作られるとは思わなかった。
そう心の中で呆然とつぶやいた。
もっと特別な仕事でも任されるのかと思いきや、実際はそうでもなかった。
毎日届けられる調整済みのスケジュールを確認のために読み上げ、アレクシスの行動に同行する――それが透真の日課となっていた。
(……これ、俺がいる意味あるのかな?)
こっそりとルーカスに相談した所、主にアレクシスのやる気のような部分に影響があるらしい。いまいち良く分からない。
やる気。
曖昧な言葉に透真はさらに困惑し、眉を寄せた。納得していない顔を見て、ルーカスが続ける。
「気安く話せる相手が近くにいると、なんとなくやる気がでるでしょう?」
なるほど、そういうことか。
つまり、仲の良い存在がそばにいるとやる気が出る――そういう理屈なら分かる気がした。
車での移動中、アレクシスからワインを勧められることがある。
だが透真は、毎回丁寧に断っていた。
たとえ仕事帰りでも、職場に着くまでは勤務中。
そう考える透真にとって、断わるのは当然のことだ。
正しい判断ですよね! とチラリとルーカスに視線を送ると、僅かに苦笑を漏らしているのが見て取れた。
何かとアノックへと視線を送る透真の様子にアレクシスは僅かに眉をひそめた。
何かとルーカスへと視線を送る透真の様子を横目で見ていたアレクシスが、わずかに眉をひそめる。
ぐい、と突然ネクタイを引っ張られ、透真は驚いて彼を見上げた。
「お前は酒が飲めないのか?」
透真のことを『お前』と呼ぶのは、感情的になっている時の彼の癖だ。
慌てて「まだ勤務中ですから」と困ったように返すと、彼は目を眇めて手を離した。
「真面目なやつだ」
そう言って、乱暴に髪をかき混ぜる。
整えていた前髪が乱れ、透真は思わず抗議の視線を向けた。
だがアレクシスは気にも留めず、「あとで部屋に来い」とだけ告げる。
「……はい」
従順に返事をしながら、透真はいそいそと髪を整える。
そんな二人の様子を、アノックが遠巻きから微笑ましそうに見つめるのが車内の恒例となっていた。
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