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『寝室は、これからもずっと別でお願いします』


 一応、結婚初夜の夫婦だが、夫の千歳からはそう言われていたので寝床は別々。緊張でどうにかなりそうだった椿にとっては、その申し出はとてもありがたいものだったが、やはり千歳には大きな壁を作られている。


「はぁ……明日からどうしましょう」


 千歳の部屋は招集があれば、すぐに家を出られるようにと、玄関から一番近い場所にある。千歳からは、自分が不在の間は戸締りをきちんとするようにと、それだけは念押しされていた。


 だが、それ以外の屋敷での生活は「ご勝手に」というスタイル。自由に過ごしていいと言われると、逆に困ってしまうものである。


 四ノ宮邸には、いつも誰かがいたので仕事の手伝いをしたり、話し相手になってもらったりとしていたものだが、院瀬見邸には常駐の使用人はいないというし。家の周辺を散歩したり、街へでかけてみようか。


「そういえば明日の朝は、通いの女中の方が来るっておっしゃってたわね……」


 だったら、と思い立った椿は、よし!と心に決め、眠ることにした。


 灯りを消して部屋を暗くすれば、障子越しに夜空を照らす月明かりが差し込んでくる。静まり返った室内にいると、時折鳴く虫の音がよく聞こえた。


「おやすみなさい……」


 ふかふかの布団に顔を埋めながら、ひとりそう呟く。初めての場所でなかなか寝付けないかと心配した椿だったが、幸い疲れが溜まっていたせいか、その日の夜はぐっすりと眠ることができたのだった。

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