生存圏の外で、君と二人
山羊山黎
第1話 呼吸をする死体
受精卵、胎児、幼児、少年、青年、壮年、老年。
受精卵、胎児、幼児、少年。
受精卵、胎児。
受精卵、胎児、幼児、少年、青年。
純粋な生命体として思考を巡らせたときに、不必要な他者とのコミュニケーションの需要なんてものが精神的成長に必要な生命体としてこの地球に生まれ落ちてしまったこと。集団社会生活の規範がすでに完成してしまっている。私にとって、それこそが苦痛であり、過ちであり、罰である。
原罪を、背負ってしまっているのだ。
このような、このような。
マイナス次元方向への悟りに至るまでに、私は17年の歳月を過ごしてしまった。
私は異常者である。社会不適合者である。一般でなく、普通ではなく、しかして普遍である。不変でもある。
私のこの思考が変わることはないであろう。
私は一般的には学生と呼ばれる立場である。学生とは「学びに生きる」と書く。学びに生きている生き物であるのか。自分の立場を改めて考えてみる。周りの同種の生き物は到底そのようなものには思えない。自分もまた然りだ。
この思想に至ってから、2年の歳月が経った。学校には通っていない。休学中である。
社会は狭い、私も中学の同級生とは違うところで高校生活をしていたが、大学になりまた会うことが増えた。しかし、休学となれば話は別だ。今は少し黄ばんだ天井を視界に、聴覚はただ流れるだけのノイズとしてテレビジョンからの音声を認識している。国のトップがまた変わったらしい。自分にはわからないものだ、興味もない。
言ってしまえば、この思想に至るまでに私は三度の絶望、一度の喜びと満足を通過した。
その全てが社会への絶望、未来への恐怖である進路を快速特急のように勢いよく過ぎ去っていた。私は普通電車しか停まらないような無人駅に取り残されたのだ。
友人は、線路の上を談笑しながら鉄の箱に揺られて進んでいる。
そのような自己認識の現実世界の狭い部屋で、私はただただ瞼の裏に闇を描いているだけだった。
ふと、闇を切り裂くのがそこにあった。光だった。光から逃げようと目を閉じようとする。しかしこの体の瞼に限界よりも閉じるような機能はない。その時、それが夢の中だと認識した。
光が体を包み込んでくる。優しさのある温もりは、鎖のように私を縛った。脳に響く。
「あなたの辛さは甘えである。あなたの苦しみは救われぬ。あなたは、あなたを助ける必要がある。」
心に響く、刺さる、誰一人として指摘してこなかった事実が私を縛り上げた。夢の中でまでこの思想が侵略してきたのは初めてだった。夢自体が久しかった。
「やりなおす機会があるとするのならば、夢の中か二次元の世界の話である。しかし、〇〇を望むのならば気まぐれは訪れるだろう。」
「やりなおしたい。俺だって、やりなおせるなら。」
「ならば、あなたは動けるはずだ。」
「なぜ、動かない?何もしないのならば死体の方がいいだろう。」
「……。」
沈黙してしまった。いや、言い返すにもない。ただの無気力でここまで事態が悪化したのは自明だったから。変えなければいけない現実をそのままにただ呼吸だけをしていたのは、私だったからだ。惨めだ。けれども、それを受け入れている。それがなお、私を惨めにしていた。
会話が終わってしまうのだろう。夢から覚めるのだろう。体の周りの温かさは、ヌメりを持った悪意に変わった。現実が自分を呼び戻す。
「考えすぎだ。」
その言葉を最後に、瞼が開いてしまった。その日の天井はいつもより白く感じた。
漠然とした希死念慮が体の隅々まで行き渡ると、部屋のカーテンには熱があった。寝過ぎたのだろう。すでに日差しは直上まで登っている。窓際の布団には汗ばんだシーツと呼吸する死体があった。無論、私自身である。
いや、おかしい。私の視界には、”私”が映っている。私を眺める、私がいる。
「そこで、眺めていろ。」
死体が私の目を見て喋った。私には、それが誰かわかってしまった。
「俺は変わると決めた。そこで俺を眺めていろ。お前にとって最悪なものを見せるのが、俺の”気まぐれ”だ。」
私は身体を盗まれたらしい。
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