Dawn Fairy ―夜明けの妖精―
煩悩
Dawn Fairy ―夜明けの妖精—
序章 『夜が明けない世界』
――座標:北緯35°15′ 東経131°10′(日本近海・EEZ)
――高度:3,200 m
――グリニッチ標準時:2076/02/21 19:21:19 日本時間:2076/02/22 04:21:19
――状況:東側有人機+UAV群 侵攻数 推定120機以上
――第四、第七航空団飛行群、全体損耗率58%/通信断続
――日本海本土防衛線
夜が明ける前の空は、いつだって重い。
世界はまだ眠っているようで、息をするのをためらうほど静かだ。
だが――この空の下では、眠ることすら許されない者たちがいる。
《UAVの増援ですッ‼ 第四航空隊の大半は損耗率が5割を超えていますッ!
増援をッ――ひっ、押しつぶされ――!》
無線の向こうで、叫び声が潰れる。
爆発音。ノイズ。途切れた声。
その音は、竹中にはもう雑音と同じだった。
レーダーの光点が一つ、また一つと消えていく。
誰かの帰還信号か、あるいは墜落信号か――もう区別もつかない。
赤い点が消えるたびに、誰かの人生が終わる。
それでも竹中の指は動く。
"次"を迎撃するために。
心のどこかではもう、意味を探すことをやめていた。
《これ以上の戦線維持はできませんッ‼ 撤退の許可をッ、このままでは――!》
また、ポツリと。
まるで
それほどまでに、空は真っ暗で、
竹中はヘルメットのバイザー越しに、黒く沈む海と、暗雲の立ち込める空の境界線を見つめていた。
世界は夜明けを拒むように冷たく沈んでいる。
竹中は短く息を吐いた。
冷え切った指先で、手汗にまみれた
その吐息には、生の感情よりも、機械の排熱のような冷たさがあった。
空の底に沈む光を見つめながら、これでいい——。心のどこかで呟く。
彼の中では、もう何も燃えていなかった。
心の奥の
戦友も、部下も、家族も――全て失って。
ただ、壊れた空と、自分の呼吸だけが残っている。
それでも、生きている。
生きてしまっている。
――あの空に、彼女が現れるまでは。
あの日から、世界は変わったのだ。
——眩しいくて目を開けていられないくらい。
夜明けをもたらした彼女の存在が。
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