第24話  

 雪はすっかり溶けたのに、未だに凍える様な2月の第二週の土曜日、私はアルトラの誘いを断り、家で一人泣いていた。


 この頃、スズとアルトラの雰囲気が一気に変わった。きっとアルトラは──スズを完全に受け入れたのだろう。

 私は──スズからのメッセージを、何度も、必要もないのに何度も見ては、その度に終わりを感じては、いたずらに枕を濡らす。

『2月25日に、全部終わらせるからね』

 あと二週間で、スズはアルトラに告白する。

 ──あと二週間で、幸せだった時間は、全部終わる。

 アルトラ──私の大好きな人、なのに、彼の顔を見るたびに心がぐちゃぐちゃにされて、息もできないくらい苦しくなって、私は──

 私は、何も出来ない。あの日と一緒だ、ずっと、言われるがまま、為されるがまま、自分が何をしたらいいのか分からないまま、勝手に進んでいく話に置いていかれたまま、気が付けばそれを受け入れるしかなくなって、気が付けば泣くしかなくなって。

 あの日と何も変わらない、誰かに助けを求めることもせず、誰かが気付いてくれるのを、ずっと待っている。


『リン、いつだって、相談に乗るから』

 スズのメッセージを見ていたら、アルトラからのそんなメッセージの通知が入る。

 なんで──そんなに優しいの。今、スズと二人でいるんでしょう?

 私の事なんかに構っていたら、アルトラは幸せになれないよ。

 ──きっと、助けを求めれば、私のヒーローは、助けてくれる。

 でも、助けを求めることなんて、許されない。

 それは、彼の幸せを、私のわがままで潰すことなのだ、また私を助ける為に──彼が苦しむのなんて、嫌だ。


 でもそれで──いつかまた、過去今日を泣くのなら──。

 あの日と何が違うんだろう。

 それで、いつか、悪夢を見るのなら──。

 ──あの日。私が彼に話しかけた日。

 私は、何を捨てたんだろう。


 アルトラがまだ上手くみんなに笑えなかった時。

 あの不器用な笑顔を知っているのは、私だけ。


 アルトラが心に傷を負って私に助けを求めた時。

 泣いた後のあの顔を知っているのは、私だけ。


 アルトラと花火大会に行って隣を歩いた時。

 手を触れないように歩く姿を知っているのは、私だけ。


 アルトラが私を助けてくれた時の、あの恐ろしい目も、寂しそうな目も、彼が人に心を開いていく姿も、知っているのは、私だけ。


──あの子は知らない。

  私だけが、知っている──。


 ──諦めきれない。

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