自称『運命の人』な銀髪美少女が僕の失恋をほっといてくれない件
マホロバ
第一章
第1話『傷心旅行』
ガタン、と大きく列車が揺れる。
その衝撃で僕─
スマホを確認すると午後4時と表示されている。家を出たのが朝の10時だったから、時間で考えると6時間は移動してるみたいだ。
程のなくして列車が駅に到着した。
僕はキャリーケースを引いて1人ホームへと降り立った。知らない町の匂いが、改札口を抜けた直後の僕を歓迎している。
いくつになっても長旅は疲れるな。僕は席に座ったまま大きく背筋を伸ばした。
「えーっと予約してた宿は……少し歩くのか」
地図を確認しながら知らない町を進んでいく。
地元とは何もかもが違う。立ち並ぶ店や看板など、どれもが見たことの無いものばかり。ただ歩いているだけでも新鮮な味わいがある。
本当なら一緒に行く歩く人が居た。1人で歩くつもりなんてなかったんだ。
この旅行は付き合って1年になる彼女と行くつもりだった。
大学に入ってすぐにできた彼女。親睦会で声をかけてくれて、そこからはすぐに彼女に告白されて付き合うことになった。
大学生になるまで色恋に縁のなかった僕は、やっと自分にも春が来たと舞い上がっいた。
初めてできた唯一の恋人。ずっと大切にしていこうと思っていた。
ただどうやら――彼女にとっては少し違ったらしい。
1週間前。彼女の浮気が発覚した。
あろうことか彼女は僕の家で他の男と密会していた。問い詰められた彼女は何やら言い訳を長々と語っていたが、内容はよく覚えていない。
怒りに身を任せて彼女を追い出し、なし崩し的に僕らは別れた。人生最初の春は苦い思い出となって今も僕の胸を締め付けている。
「あーあ……マジ何でこんなところにいるんだろ……」
宿のキャンセル料を払うのが嫌で、結局1人で旅行に来る羽目になってしまった。
まぁ2人分で宿代を支払ってるから既に損はしてるんだけど。
それでもせめて気分転換にでもなればと、単身で2泊3日の旅行へとやってきた。
そんな嫌な回想をしつつ、僕は予約していた宿へと辿り着いた。立派な外装の門がこの地に訪れる観光客と歓迎している。
「すいません、予約してた久島です」
「お待ちしておりました。ご予約では2名となっておりますが、お連れ様はいかがされましたか?」
「あー……ちょっといろいろありまして…今は1人で大丈夫です……」
「かしこまりました。お部屋はこちらになります」
受付の人に軽く傷を抉られたが、何とか吐くことだけは我慢した。
通された部屋は大き目の和室。1人にしてはやや広すぎるくらいだ。
備え付けの布団や寝間着はどれも2人分。複数用意されたノベルティを見るたびに虚無感に苛まれてしまう。
「それではごゆっくりどうぞ」
扉が閉められ、部屋の中は僕1人になった。
荷物を降ろした後、窓辺に座って外を眺めた。外に見える山々には秋の兆しを感じさせる紅葉が垣間見える。
なんとなく眺めた景色の中に僕の興味を惹くものがあった。
「ロープウェイか……どうせ暇だし行ってみるか」
この宿を選んだ理由の1つがあのロープウェイだ。
宿を出て歩くことわずか15分。すぐにアクセスできる観光名所として、彼女と2人で来るつもりだった場所だ。
僕は最低限の荷物だけを持ってロープウェイ乗り場へと向かった。
乗り場での待ち時間はほとんどなく、僕の前に2,3組が並んでいるのみ。
当たり前のように1人なのは僕だけだ。
前の客が順番に乗り込んでいき、ようやく僕の番が回ってくる。流れてきたゴンドラに乗り込み、1人で頂上までの時間を楽しもう…そう思っていた時だった。
「すいません、私も乗ってもいいですか?」
誰かがゴンドラに駆け寄ってきたみたいだ。係員さんが閉まりかけていた扉を慌てて開ける。
乗り込んできたのは綺麗な銀髪の美少女だった。
やや大き目なパーカーを羽織り、短いスカートをなびかせて乗り込んでくる。肩上で短く整えられたショートヘアも相まって、幼そうな印象を抱く。年齢は中学生か高校生くらいだろうか。
可愛くまとまった服装とは真逆に表情は硬い。凛とした目線は威圧感すら感じるほどだ。
「ど、どうも……」
「…………」
なんとなく挨拶してみるも、少女はじっと僕を見てくるのみ。表情は真顔のまま、何かを確かめるように視線だけが動き回っている。
気まずいから返事くらいしてくれよ……
10秒ほど黙って僕を見つめた後、少女はようやく口を開いた。
「やっと会えた……私の運命の人……!」
「すいませんどちら様ですか!?」
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