惑星メーサ

槙 秀人

土の章

襲われた村

第1話 買い出し

  四の戦士の超常力

  魔の王に及ばず…

  敗れ、約を交わす

  超常力、高め集う。遥かなる未来


  《予言の書》第十四項 より抜粋





 - ワイワイ ガヤガヤ -



 活気に満ちたざわめきが山間に響き渡り、人々がいそいそと動き出す。空は晴れ渡り、雲ひとつない。その空を我が物顔で鷹が舞い、山々には鳥のさえずりがこだまする。澄み切った空気とすがすがしい朝日の下、またいつもと変わらない一日が始まる。



 村は、数日後に控えた祭りの準備に追われていた。

 広場には台ややぐらがいくつも組まれ、その周りを村人達が何やら忙しそうに動き回っている。


 その村の人々のざわめきとは遠く離れたところ…、とても村人達が気づきもしないところに、突如恐ろしく不気味な静寂が妖気と共に現れる。

 そこには鳥のさえずりも消え失せ、ただ小さな点となった村人達のざわめきがかすかに聞こえてくるのみである。



《あの村ですか?》

 山の木の陰から、隠れるように村を見つめてそれはそこにいた。姿は見えないが…。


《そうだ…》 

 そして、もうひとつの意識もそこにあった。


《あの村に奴がいる。奴の超常力(ちから)を感じた…》

 迫力のある低い声が響き、なおも言葉を続ける。


《奴らは、生かしておいてはならぬ…奴らがいては、我が計画に狂いが生じる…始末せねば…》

《しかし…》

 不信がるようにそれがいった。


《なぜあなた様ほどのお方が…》

 聞こうとして、その声は途切れた。それを睨むようにして木々の間に開く2つの光が見えたからである。


《…》

 それが押し黙ってしばらく…、その光はゆっくりと消えた。


《いえ…はい…分かっております…リガードに吹き込み、あの村を襲わせましょう…で、では…》

 よほど恐ろしいのか、慌てふためいてそれはそこから消えうせた。続いて妖気も消えうせ、何事もなかったように鳥たちのさえずりがそこに戻っていた。



 誰も山の方の変化を感じた者はいなかった。村人達は、相変わらずあちこちと忙しなく動き回っていた。



「ラグドル!!」

 祭りの準備で賑わう広場に、ひときわ大きな声が響いた。

 やぐらを組み立てていた青年が振り向き、緊張した面持ちで駆け寄ってくる。


「何でしょうか、父さん」

 ラグドルと呼ばれた青年の前に立つのは、彼の父、トルナス・キシェカ。


 村長であるトルナスは、祖父デルタス・キシェカから長の座を受け継ぎ、以来数十年この村を守り続けてきた。

 刻まれた皺には風格が漂い、体は未だ衰えを知らず、逞しくがっしりとしている。


「ちょっとすまぬが…」

 少し間を置いて、トルナスは続けた。


「お前、仲間と一緒に近くの村へ買い出しに行ってくれぬか?」

「へ?」

 緊張していたラグドルの表情が、急に明るくなる。


「…で、何を?」

「食料とか、足りなくなった材料とか…必要なものはこれに書いておいた」

 トルナスは書き付けを渡す。


「じゃあ、早速!」

 ラグドルは仲間を集めに走り出した。


 そして太陽が真上にきた頃、出発という運びになった。馬2頭で引く馬車が2台。かなり大きな装備である。


「うむ。この面々なら、山賊に襲われてもまず問題なかろう」

 ラグドル達を見てトルナスが言う。


「そんな不吉なこと言わないでくださいよ」

 集まった者達が笑って答える。


 トルナスは、もう一度ラグドルとその仲間たち、イクシス、ウィル、リックス、ジェス、スウを見渡しうなずくと、ラグドルに金を渡した。


 村祭りの準備の進む中、見送りには彼らの恋人達が集まっていた。


「じゃあ、いってきます。」

「頼んだぞ」

「いってらっしゃい」

 ラグドルの恋人、フォムリエがいう。


「ああ、いってくる」

 他の者達も恋人に見送られ、馬車は村を後にした。


 今までにも何度もこうして村から出かける事はあったのに、この時何故かラグドルは、手を振るフォムリエの姿を目に焼き付けていた。

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