その2 妖精の離反
★魔闘少女ハーツ・ラバーズ!
第一話『芽生える勇気! ブレイブラバー誕生!』
その2 妖精の離反
ここは、地球とは全くもって別の世界。
緑豊かな、青く澄み渡った空に見下ろされた生命溢れる地球とは全く違う。
大地は荒廃しきっていて、住まう人々の心には確かな絶望の影が広がっていて。
漆黒の淀み切った空が世界を覆い尽くす星。
憎しみの名を冠する惑星『オーディオ』。
それが、この世界の全てだった。
そして今、オーディオの荒れ果てた大地を、俺様は必死で飛び回っていた。
ぱたぱたと、空の色に負けねえくらいの黒い羽を必死で羽ばたかせて。
俺様の名はゼロット。
気軽に『ゼロ』って呼んでくれぃ。
惑星オーディオを統べる王宮『オディキングダム』に仕える可愛い妖精……みてえなもんだ。
外見は、地球で言う所のコウモリをちょこっとデフォルメしたようなモンだとでも思ってくれぃ。
とまあ、説明している暇は実はぜんっぜんなかったりする。
正直俺様も何で今になってこんな当たり前のことを脳裏に過ぎらせているのか自分で自分にびっくりしてらぁ。
ああ、違う違う、そうじゃなくて。
考えてる暇なんざねえんだ。
俺様は早く、この世界から、この星から、旅立たねえと。
「待って、ダーリン」
後ろから聴こえた、甘ったるいソプラノに緩やかに肝が冷えるのを感じた。
妖精にだって肝くらいあらぁ。
っつーか、マジかよおいおいおいおい。
もう、追いついて来やがったのか、あいつ!
ばっと後ろを振り向くと、そこには鮮やかな桃色の髪を肩より少し下に伸ばし、猫耳と尻尾を生やした黒いドレス姿の少女が、宙に浮かんでいた。
歳は確か、14歳くらい。
……それにしては胸でけーなあ。
じゃ、なくて!
「……随分はえーじゃねーか。黒のハーツ・ラバー……アガペラバー」
「だって、ダーリンが私にナイショでどこかへ行こうとするんだもの。ねえ、どこへ行くの? 私を置いて、どこへ行くの?」
少女――アガペラバーが、心底理解できないと言った風に小首を傾げる。
無表情で、何のハイライトも無いうすぼんやりとした暗い瞳で、こいつは俺様に問いかけてくる。
だが、その瞳の奥には焦げるような、溶けるような情愛が秘められていることを俺様は知っている。
痛いくらいに、身を突き刺す程に伝わってくる。
「地球に満ちる感情――『エモーション』を集めて、この憎しみしかない世界・オーディオを豊かにする。それがダーリンの望みでしょ?」
「……でも、それはお前の望みじゃねえだろ」
「ううん、私の望み。ダーリンの望みが、私の望み。私の全ては、ダーリンの物。ダーリンの為に生きて、ダーリンの為に戦う。それが、私だもの」
間髪入れずに返ってきた返事に、ぞくりと全身が凍り付くような感情に襲われる。
こいつは、一体どれだけ俺様のことが好きなんだ。
どれだけ、俺様のことを愛してるんだ。
身を焦がすような深くて重い愛情に、怖気が走る。
……結局、全部、俺様のせいなのかよ、畜生。
「……っ、アガペラバー! いや、惑星オーディオ全体に告げる!」
恐らく、人生、いや、妖精生か?
そん中で、今まで生きてきた中で一番大きな声を出して、叫ぶ。
「妖精ゼロットは! 今より惑星オーディオに反旗を翻す! 地球のエモーションは、決して奪わせない! 俺様は地球に向かい、五人の伝説の魔闘少女・ハーツ・ラバーを集め! オーディオの地球侵略を全力で阻止する!」
叫んでから疲労感が一気に押し寄せてきて、ぜえ、はあ、と息を切らす。
くそ、かっこつかねえ。
アガペラバーは、それでも俺様をじいっと見つめていた。
それこそ、体中に穴が開きそうになる程。
「いいよ、それでも」
アガペラバーが、静かに言い放つ。
「どこにいても、どんな立場であろうと、私はいつでもダーリンを愛してる、愛し続ける。ずっとずっと、愛してる」
気が狂いそうになる程の甘い甘い愛の言葉。
それに、一瞬息ができなくなったけど。
何とか我に返って、俺様は目指していた白い巨大な水晶の中に思いっきり飛び込んだ。
地球へと、繋がるワープゲートへ。
「……愛してる……」
それでも、背後にそんな声がいつまでもいつまでも纏わりついて離れなかった気がしたけれど。
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