第18話 運命の決戦
決闘開始
レオーネは今にも倒れそうなリオンを見て、傲慢さをさらに増した。
「その程度の力で、我に勝てるとでも思っているのか?」
レオーネは立ち上がった。その声には侮蔑が滲んでいる。
「力こそが掟、この里は我が支配する獲物だ! お前の甘い『愛』や『優しさ』は、長としての恥だ!」
リオンは痛みと疲労に耐えながらも、強い意志を込めて反論した。
「長(おさ)は里の笑顔を守るものにゃ。大切なものを守る力こそ、真の長の力にゃ!」
満身創痍のリオンに対し、万全な状態のレオーネは容赦がなかった。体格では大きな差はないものの、リオンへの嫉妬で磨き上げられた技でリオンを圧倒し、何度も何度も床に叩きのめした。
リオンはまるで木っ端微塵に打ち砕かれるかのように激しく床に打ちつけられた。
「ぐあっ……!」
激しい衝撃がリオンの全身を襲い、喉の奥から悲痛な叫びが長の間を震わせた。
レオーネは倒れたリオンに背を向け、助けを求めるリオンに勢いをつけたまま振り向き、リオンの腹部目掛けて何度も何度も強力な踏みつけ攻撃を食らわせた。
「ぎにゃあああああっ! や、やめるにゃ!!」
リオンは全身の骨が軋む激痛と、内臓が揺さぶられる衝撃に襲われ、甲高い悲鳴を上げた。その度に意識が遠のき、視界がブラックアウトしそうになる。
レオーネは止めを刺すため、鋭く硬い爪を剥き出しにし、リオンの顔目掛けて振り下ろした。
「終わりだっ!」
しかし、リオンは最後の力を振り絞り、顔を床に叩きつけるように背けてなんとかかわした。
レオーネの爪は空を切り、床の硬い木材に深く突き刺さり、大きな穴を開けた。リオンはその恐怖に血の気が引く。
「……雑魚は雑魚。それが、お前の限界だ!」
レオーネの嘲笑が部屋中に響き渡った。
フラフラになりながら、手足に力を込めて立ち上がろうとしたリオンの起き上がり際、レオーネは容赦なく強力なタメ攻撃を顔面に食らわせて吹き飛ばした。
ガオンッ!
リオンは壁に叩きつけられ、激しく床に崩れ落ちた。もはや、身動一つできない。
「これで、もう起きられまい」
◇
絶望からの覚醒
リオンは立ち上がろうともがいたが、体は震え、もう力が入らない。
「くそ……、にゃあは……」
敗北の悔しさと、このまま負ければリンを奴隷にしてしまうという恐ろしい予感が心の奥底からこみ上げた。リオンの瞳から、血と汗に混じって、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
「痛いにゃ、痛すぎるにゃ……ひっく」
「泣いているのか? やはり泣き虫な子猫でしかないな」
レオーネはさらに侮辱し、リオンを徹底的に痛めつけた。
「ぎにゃあああああっ」
「ひぎっ!」
「痛い痛い痛い痛いにゃああああ……」
リオンは意識を失いかけるほどの激しい消耗戦に陥った。
「泣くばかり。抵抗すらできなくなったか。雑魚が……」
「泣いて何が悪いにゃ。痛ければ泣くにゃ。にゃあは……仲間の痛みの分からない奴とは違うにゃ!」
(駄目にゃ、もう動けないにゃ……。こいつとの違いは、にゃあを殺しにきていること……。)
意識が朦朧とするリオンの脳裏に、シエナの顔、フリフリドレスを恥ずかしがるアイリス、怪しげな薬を弄ぶイヴリン、そして皆で焼いたパイをノアに運ぶリンの小さな背中が鮮明に浮かび上がった。
(にゃあは、こいつを殺さない。里の者を傷つけたくない。だけど、リンを……、リンを奴隷になんか絶対にさせないにゃ!にゃあがやっと見つけた、このみんなを守りたいにゃっ!)
リオンの心臓が激しく、力強く脈打った。その鼓動が、全身に最後の力を送り込む。
涙と血と汗に塗れた顔で、リオンは全身の骨が軋むのも構わず、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「リンはもう、にゃあの弱点じゃないにゃ!」
彼女は絶叫した。激しい支配欲に立ち向かう、純粋な「大切な者を守りたい心」が、理性の限界を超えた力を引き出したのだ。
リオンはレオーネの力任せな攻撃を、信じられないほどの野生的な勘と執念で紙一重でかわした。「なっ!?」レオーネは一瞬、驚きに目を見開き、体が硬直した。そのわずかな隙をリオンは逃さなかった。
「にゃあああああああああああああああああああああっ!
獅子の両手爪(リオン・ツインクロー)!」
全身の力を一点に集中させた渾身の一撃を、リオンはレオーネの胸に叩き込んだ。それは、偽りの敗北によって封印されていた、リオンの『真の獅子の本能』の解放だった。純粋な意志の力そのものであった。
「ぐぁあああ!」
レオーネの体が大きく仰け反り、崩壊するように吹き飛ばされた。リオンの放った渾身の一撃は、レオーネの支配と慢心の象徴たる体勢を完全に崩し、打ち破った。
レオーネは血を吐き、床に力なく崩れ落ちた。その体勢は、まるで以前リオンが受けた敗北の際の屈辱的な姿勢と同じだった。彼女は敗北を認めず、怒りの咆哮を上げようともがいたが、体はもう動かせない。
◇
新長(おさ)の宣言と里の歓声
リオンは、満身創痍の体で倒れたレオーネの前に立ち、ふらつきながらもまっすぐ前を見た。涙と血と汗に塗れていたリオンの視界が、一瞬でクリアになった。
「にゃあが、この里の新しい長(おさ)である!」
――里の掟と、仲間のために戦い抜いた、真の獅子の王の宣言だった。
リオンの力強い宣言は、長屋の高い窓から里全体に響き渡った。里では、ノアの陽動に疲弊していた長屋へ向かう警備兵たちが長の敗北に動揺する。同時に、皆を驚かせたのは、レオーネの不正の数々だった。シエナは、決闘の最中、長屋に保管されていた里の重要な書類(不正な奴隷契約書や、資源横領の決定的な証拠)を確保していた。
これにより、レオーネの支配の正当性は、物理的にも法的な側面からも完全に崩壊したのだ。
広場で重労働を強いられていた獣人たちも、その声を聞き、顔を上げた。
彼らの瞳に、ついに希望の光が灯り、里中に歓声が上げ始めた。
リオンは、遠くから聞こえてくる歓声を、安堵とともに聞いた。
(里は……、里は自由になったにゃ……)
「にゃあたちの……勝ちにゃ」
そう言ってリオンは気を失った。その身体を慌ててシエナが支える。
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