孤独者の迷宮 ~ソファからダンジョンを支配せよ~
黒崎一枝
プロローグ
静寂が耳を刺す。リョウの視界には、埃っぽいアパートの壁と、モニターの青白い光だけが映っていた。かつての彼は、軍事情報分析官として戦場の裏側で糸を引く者だった。データ、予測、心理戦――それが彼の戦場だった。だが、あの任務がすべてを変えた。爆発音、叫び声、同僚の血。リョウの心は壊れ、広場恐怖症が彼を閉じ込めた。この狭い部屋が、彼の唯一の安全地帯だった。
「もう二度と外には出ない」と彼は呟いた。だが、運命はそんな約束を守らせなかった。
次の瞬間、彼の意識は暗闇に落ちた。心臓が止まり、呼吸が途絶えた。死――のはずだった。だが、目を開けると、そこは冷たく輝くクリスタルの内部だった。リョウは動けなかった。体はなく、ただの「核」として、広大な地下空間の中心に固定されていた。頭の中に響く声が告げた。
「ようこそ、ダンジョンコア。生き延びたければ、創造し、操り、戦え。」
リョウの「目」は、広大な迷宮を映し出した。石壁、罠、蠢く影――すべてが彼の意志に従う。彼は戦士ではない。剣も盾も持たない。だが、頭脳がある。敵の心を折る術を知っている。この世界では、ダンジョンは資源であり、冒険者は獲物を求めるハンターだ。彼のコアが壊されれば、終わりだ。永遠の終わり。
遠くで、金属の足音が響く。最初の侵入者だ。リョウの意識が迷宮を駆け巡る。罠を仕掛け、幻を織り、敵の恐怖を煽る。彼は動けないが、戦える。「寝そべったまま」で、戦争を仕掛けるのだ。
「来るなら来い」と、リョウは心の中で呟いた。「お前たちの神経を、俺がすり潰してやる。」
だが、足音は一つではない。無数の靴音が、迷宮の入り口で轟く。ギルドの最強チーム、王国の騎士、そして――もう一つのダンジョンコアの気配。リョウのクリスタルが、微かに震えた。この戦争、彼一人で勝てるのか?
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