桜のように何度でも
@Lukake4646
過去と未練
あの時咲いてから散ることがなくなってしまった私の心の中の桜
時が止まってしまった世界で再び桜が舞うことはあるのかな
昔、小学校を卒業したばかりの時、家の近くの河川敷で見た桜。あれは俺が見た桜の中で一番きれいだったとこの曲を聴くといつも思う。俺の幼馴染――上代夏と見た最後の桜。
「私ね、桜って散ってしまうからこそまた咲いたときにきれいに見えるんだと思うんだ。だって散ってしまってから一年も待たないと見られないんだよ?その待ってる時間があって、よりきれいに見えるんじゃないかな。」
夏はこの言葉を桜を見るたびに言っていた。しかし、あの日だけはこんなことも言っていた。
「この桜、私たちが中学生になっても、高校生になっても、大人になっても一緒に見ようね。」
「急に何言ってんだよ。当たり前だろ。この先、何回だって一緒に見に来てやるよ。」
この言葉の通り俺は明日も、明後日も、その先もずっと一緒に見ていられるのが当たり前だと思っていた。でも、そんな日々は当たり前じゃなかった。
桜を見た次の日、夏は俺の知らないところへ行ってしまった。俺が朝、いつものように夏の家に行くと家は静まり返っていた。夏が飼っている犬の鳴き声、きれい好きな夏のお父さんがいつも鳴らしている掃除機の音、楽器を弾くのが好きな夏のお母さんのピアノのきれいな音色、そして夏の優しくずっと聞いていたくなるような声の「今日は何する?」という言葉。全て聞こえなくなっていた。まるで世界の時が止まったようだった。俺はしばらく状況が理解できなかった。
家に戻って母に聞いてみると、夏の家族の都合で引っ越したと聞いた。俺に知らされていなかったのは夏が言わないでおいてほしいと言っていたからだった。その時の俺は、夏がいなくなった悲しみよりもいなくなることを伝えてくれなかったことに対する怒りのほうが強かった。悲しみや寂しさなんて感じられなかった。夏がいなくなったことを信じられなかったから。そんな俺に母が手紙を渡してきた。夏からの手紙だった。
はるくんへ
まず何も言わずにいなくなってしまってごめんなさい。
はる君とお別れだと思うとさびしくなってしまって言い出せませんでした。
家族の事情でひっこすことになってしまいました。
これでお別れになってしまうけどきっとまた会えると信じています。
また会えたら一緒にサクラを見ようね。
今まで本当にありがとう。
サクラのようにまた咲ける日が来ると信じています。
夏より
手紙を読み終わると俺は何も言わずに自分の部屋へと戻った。その時にはもう怒りはなくなり、悲しみや寂しさが体の中を逆流するようにどっとこみあげてきていた。多分、手紙を読む前から怒りなんてなかった。悲しみや寂しさを押し殺すためにそう思い込んでいただけ。悲しいとか寂しいとかを思ってしまったら、夏がいなくなってしまったことを認めないといけないから。ただ手紙を読んだことでそれを認めざるを得なくなってしまった。俺はその日の夜、夏がいなくなった悲しみ、寂しさ、不安、いろいろな感情が混ざり合ってよく眠ることができなかった。
それからしばらくは夏のことしか考えられない日々が続いた。いっそのこと忘れてしまおうかと思ったこともあるが無理だった。何年たっても夏は、俺の中で咲き続けてしまう存在になっていた。時が止まってしまった世界の桜のように、散ることもできずに咲き続けてしまう存在に。
「散らなくてもきれいなままなんだよ。」
そんなことを呟きながら俺は読み返していた手紙をしまった。 手紙をしまった俺は学校に行くため準備を始めた。ノート。教科書。筆箱。必要なものをバックに詰め込み制服を着る。階段を下ると、保育園に行く準備を終えた弟が立っていた。弟は眠そうにしながら「はるにい、はやくいこ。」と言ってくる。そんな弟を連れて俺は家を出た。親が仕事で送り迎えができないので弟を保育園に連れて行くのは俺の役割だった。
「秋、保育園楽しいか?」
俺は保育園に向かっている途中で弟に聞いてみた。
「うん、きのうねあたらしいおともだちできた。」
どうやら昨日、新しく入園してきた子と仲良くなったらしい。おそらく引っ越してきたのだろう。その子が友達もできずに一人でいたところ、弟がみんなのところへ連れて行ったのをきっかけに仲良くなったらしい。保育園につくと秋が新しくできたという友達を連れてきた。その時俺はその子に目を奪われた。きれいな黒髪、いつまでも聞いていたくなるような声、それはまるで昔の夏とそっくりだったのだ。
「ふゆかっていうんだよ。」
弟が教えてくれる。弟もこの先、この子を好きになるのだろうか。いつまでも仲良く一緒にいられるのだろうか。つい俺はこっちに向かって手を振りながら楽しそうに友達と遊ぶ弟に、自分の過去を重ねてしまっていた。
「春斗、おはよ。」
高校に行く途中で友達と合流する。今、挨拶をしてきた無邪気で子供っぽい彼女は真島月。その隣に立っている無口でおとなしそうな男は真島太陽。性格も名前も真反対の二人は双子で、俺とは小学生のころからの仲だ。小学生の頃はこの三人に加え夏もよく一緒に行動していた。
「今日弟の保育園に行ったらさ、夏にめっちゃ似てる子がいたんだよね。」
俺はさっそく今日の朝のことを話した。月は俺のことを小馬鹿にしながら
「そう見えただけじゃないの?春斗は夏のこと大好きだし。」
と言ってくる。事実なので反論はしなかったが。
「いい加減あきらめなよ。いつまでも夏のこと想っててももったいないじゃん。春斗モテるんだから、その気になったら彼女くらいすぐできるでしょ。夏だって今どうなっているかなんてわかんないし。」
夏がどうなっているかなんてわからない。まったくその通りだと思う。俺は今の夏に会ったらどう思うんだろうか。昔のまま時が止まっている俺の中の夏の姿との違いを受け入れることができるのだろうか。
「春斗のこと昔から好きなやつだっているかもしれないしな。」
太陽がそんなことを言ってきた。
「急に何言ってんだよ。そんな奴いたらもう告白するなり、なんかしら行動してるって。」
そう俺が言うと「そうだよ。」と言いながら月がなぜか落ち込んでいた。そんな他愛もない会話をしながら俺たちは学校へ向かった。
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