第22話:マチルダの出撃_2
――シードの適性結果が出て一週間が経ち、各々自分の得意なシードを使ってウィッチボットへ乗り込む実習を繰り返していた。先に進んでいるかと聞かれたら、先には進んでいない。エイナが飛び出していった時のように、初心者がスムーズにフィールド上を動かせることは稀で、大体が立ち止まったまま動けなくなったり、ぎこちない動きを繰り返したりしてしまう。それに、急にシードを使って魔法を使うこともほぼできず、まずはシードを身体に通し、ウィッチボットへ供給するところから始めなければならない。
段階的には進んでいないが、皆以前よりも長い時間ウィッチボットへ乗り、ある程度思ったように動かすことができるようになっていた。魔法はまだ使わなかったが、短時間であれば自分の得意なシードをエネルギーに乗り込むと、その後の体調変化もほとんどない状態に留まっている。
また、ここに来るまで魔女たちの襲来はなかった。毎日のようにやってきてもおかしくないと思っていた候補生たちは拍子抜けしたが、平和であるに越したことはない。アレフの傷も良くなり、これからはボットスーツとウィッチボットを使った戦闘訓練が始まろうとしていた。
「はーいみんな! 元気してる? 今日はワタシ、マチルダが担当するよ! アレフも一緒にね」
「やっと許可が下りたから、みんなまた今日からよろしくな!」
一同格納庫へ集合する。マチルダはボットスーツを身につけていたが、今日はウィッチボットに乗らないのか、アレフはラフな格好をしていた。上半身はタンクトップ、下半身はボットスーツのように見えたが、前回着ていたものと色が違う。それを腰のあたりまで着て袖を腰に巻き付けている。彼の腕に巻いていた包帯はとれ、血に塗れていた腕は皮膚が引きつって歪な傷跡になっていた。縫うような怪我ではなかったが、表面が綺麗ではなかったのだろう。
みんなその腕の様子に釘付けだった。エイナも気にしていたようで、ジッと腕を見つめた後気まずそうに目を逸らした。
「腕が気になるのか? これくらいどってことないぞ。まー、最初怪我したら誰でもビビるだろうけどなぁ。慣れもあるし生きてるから問題なし!」
豪快に笑う彼は頼もしく見えた。
「さぁ、今日はボットスーツを着ての実習よ。キャス、全員分あるのよね?」
「えぇ、ここに」
キャスの横には、ボットスーツの掛けられたラックが置いてあった。
「みんなが着ているスーツと色が違うでしょ? これは素材は同じなんだけど、パイロット用のスーツが壊れると困るから、戦闘訓練用に用意した物なの。サイズは大まかにしか設定してないけど、ちゃんと入るようにキャスがサイズを見て持ってきてくれたから。各自持って行って更衣室で着替えて戻ってきてちょうだい」
それぞれスーツを受け取ると、更衣室へ向かっていった。講師たちがしばらく待っていると、着替えた候補生たちが順に戻ってくる。全員戻ってきたことを確認して、マチルダは声をかけた。
「うんうん! ちゃんとサイズあってたみたいね、ありがとキャス。次はみんなこれを首につけて。マイクとイヤホンが一緒になってるから。これを通して指示をするわ」
同じものを、キャスが首にはめてみる。それぞれキャスの真似をして首に装着した。
「見た目が微妙だけど、耳だと取れちゃうかもしれないから。こっちが確実でしょ? じゃあ早速、訓練を始めるわよ。アレフについて外へ出て。ワタシはコイツ、ダスティに乗っていくから」
「お前ら、俺についてこい」
アレフの大きな声が響き、ゾロゾロと格納庫から出ていった。
「さ、ワタシもいきますか! キャス、一応救急箱用意しておいてくれる?」
「わかりました」
「訓練中に魔女が来たら、アレフの時みたいにワタシが出撃するつもりだから。しばらく大人しかったでしょ? 次いつきてもおかしくないもんね」
「それはそうですね……。シード、できるだけ持っていってください」
「うん、そのつもり」
「皆さんを、よろしくお願いします」
「任せといて! アナタも、みんなへの声掛けお願いね?」
「任せてください!」
建物の外に出たアレフたちを、一足先に魔法陣から外に出ていたマチルダとダスティが迎えた。
「わぁ、ちゃんと腕が直ってる」
「あんな風になってたのが嘘みたいだろ?」
「ホントですね。でも、これっていったいどうやって直すんでしょう……?」
「トウヤは興味津々だな。操縦だけじゃなく、そっちも気になるのか?」
「やっぱり、どうなっているのか構造にも興味はあります」
「これの直し方はな……教えてやりたいところなんだが、俺もどうやって直すのか知らないんだよなぁ」
「え、そうなんですか? てっきり、直しているところを見たりしているのかと……」
「それが、修理が必要なウィッチボットは、人類幸福支援機構に持っていかれるんだ。いわばピィスメイカーの上だよな。で、そこで直されて戻ってくるから、ここにいるヤツらは誰も直し方を知らないんだ。上層部なら知ってるかもしれないが、悪用するヤツがいるといけないとか何とかで、機密情報扱いなんだよなぁ」
「じゃあ、すぐには直せないんですね。全部壊れちゃった時に魔女がきたら、一体どうしたらいいんだろう……」
「そりゃあメチャクチャ困るな。けど、そんな状況でも対応しなきゃいけないのが俺たちだ。そろそろアナウンスが入ると思うぞ」
ガガッ――ザーザーザー――
『――皆さん、聞こえますか? キャスです。全員私の声が聞こえますか?』
まるでその場で話しているかのように、キャスの声が全員の耳に届いた。
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