第14話:実技研修_4


 先のウィッチボット、コアにシード、教科書だけで見ていたものが身近にある状態は、候補生たちのテンションも上げていく。


「じゃあ、実際に乗ってみようか。今回はオーブにしよう。ラティオは最悪、ワシが乗って出撃せねばならんからな」


 最後の言葉に、皆息を呑んだ。昨日の光景が蘇ったからだ。腕に穴の空いたダスティと、同じ位置を怪我したアレフ。その姿にラティオとブランを重ねた。


「……何、連日くることはない。……今のところはな。決まった法則もないから、祈るしかないよ。さ、誰からいく?」


 誰も手を挙げない。お互いがお互いを見て、誰からいくのか様子を見ているようだった。


「僕からお願いします!」


 それを破ったのはトウヤだ。キリッとした顔つきで手を挙げている。


「トウヤか。じゃあこっちにきてくれ」


 ブランはキャスの元へトウヤを呼んだ。キャスの手には、ウィッチコアが載っている。


「これはオーブのコアだ。ウィッチボットによって対応しているコアの色が違う。誰かが搭乗している時は、どの機体も同じ色になる。これの使い方は大丈夫かな?」

「はい。昨日アレフさんに直接見せていただきました」

「そうか。よし、やってみてくれ」

「はい!」

「シードは……そうだな、青にしようか。今回は乗り込むだけだから、小さな欠片でいい」


 そう言われたトウヤは小さめの青いシードを手に取ると、キャスからパールホワイトのウィッチコアを受け取って中にシードを入れた。


「起動の仕方は?」

「シードを入れたコアを、力強くギュッと握り締める、です」

「やってみてくれ」


 トウヤは深呼吸して力強くウィッチコアを握った。


 ピピッ。


 聞いたことのある音。コアが起動した合図だ。


「これが……」


 小さな声でそう呟いたトウヤが、コアの中へと消えていく。一瞬で消えないということは、この乗り込む瞬間は誰かが守らなければならないのかもしれない。もし失敗したら……搭乗中の人間は、一体どうなってしまうのだろうか? ……彼が消えてまたピピッと音が鳴ると、クリアになったコアの中に確かに彼の姿が見えた。無事コアの中へ入れたようだ。色が黒へ変わり、昨日と同じように浮き上がってオーブの元へと飛んでいった。


 ――ヴゥン――


 オーブが淡く光る。


「キャス、モニタを」

「はい!」


 キャスが起動させたモニタはまだ暗い。しかし、すぐにノイズが走った後トウヤの姿が映し出された。


「トウヤさん、聞こえますか? キャスです。トウヤさん、聞こえますか?」

『――あ、は、はい! 聞こえます! す、凄い……僕本当にウィッチボットに乗ってるんだ……』

「通信は問題ないようですね。今あなたの周りに何があるか、教えてもらってもいいですか? つまりは、外の話ではなく中の話です」

『はい、えっと……。ちょっと、気持ち悪いです……』

「ははっ」


 トウヤの台詞に、思わずブランが笑った。


「そりゃそうだよなぁ。気持ち悪い、間違っちゃあいないよ。わかる、気持ちは良くわかる」

「ブラン先生……」

「まぁまぁ。パイロットは誰しも最初はそう思うはずだ。実際、ワシが初めて乗った時の感想も『気持ち悪い』だ。しかし、他の候補生たちにも伝わるようにいいかな? 次は、あの子たちが乗るんだ」

『わかりました……。あの、足元は足首の辺りまで液体があります。動けないわけじゃなくて、動けます。でも、液体に足があると、バランスがいいというか、重心がしっかり下にあって安心できるというか』

「ふむ、それから?」

『頭と手の指に、多分液体と同じ素材なんじゃないかな、コードのようなものが繋がっています。これで思考や動きを読み取るのかと。ペッタリくっついていて、離れないですね』

「目の前はどうなってる?」

『オーブの視界が。良く見えます。みんなも見える。誰か、手を振ってみてくれませんか?』


 彼の問いかけに、ルリが手を振った。


『今手を振ったのはルリだね』

「ホントに見えてるんですね……!」

『次はビックリした顔してる』

「!!」


 しっかり表情まで視られていることに恥ずかしくなったルリは、思わず両手で顔を覆った。


「他にはどうかな?」

『エネルギー表示が見えますね。これは昨日見たモニタには映ってなかったので、この中だけで見られるものです。少ししかない。それと、こっちの色付きのゲージは、そのシードを取り込んだかとその魔力の残量だと思います』

「その通りだ。シードのエネルギーと魔力は共通しているが別表示だ。エネルギーが切れれば魔法も使えない。エネルギーは全てのシードを合算したもの、魔力はシード別に確認できる。当然魔力が切れればその魔法は使えない。全体的にそのエネルギーが残っていても」

『え、これ、どのシードからエネルギーとしてなくなっていく……って判断できるんですか? そういうのを入力できるようなコンソールも、ボタンもないんですけど……』

「基本的に、使用者と相性のいいシードから使うようになっているよ。そのほうがエネルギー効率がいいからだろう。だからパイロットはみんなシードとの相性を検査して、そのシードを選んで多く持っていくんだ」

『なるほど……』

「ちなみにワシは氷と相性がいい。火や雷と比べると、採取量は少し落ちるがな」

『僕は……なんだろう……』

「後で検査するから、楽しみにしているといい。オーブの手足は動かせそうか?」

『えっと……』

「そのまま普段自分の手足を動かすようにやればいい」

『はいっ!』


 言われたように手足を動かす。ドン――ドン――と床を鳴らし、オーブが歩いた。


『う、動いた!』

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